前半では、山田進太郎D&I財団のCOOである石倉秀明さんが考える女性のキャリアに関する構造的な問題、そしてリモートワークの現状と課題について掘り下げました。後半では、スタートアップ業界のセクハラ問題、STEM領域におけるジェンダーギャップ解消に向けた取り組み、そして石倉さんの今後の展望について焦点を当て、より良い社会の実現に向けたヒントを引き続き、パラナビ編集長の岡部が聞きました。
>>前半はこちら
Contents
セクハラ問題が見過ごされてきた理由
岡部 2024年、スタートアップ業界におけるセクハラ問題が大きな話題となりました。石倉さんもSNSなどで積極的に発信されていますが、この問題についてどう考えておられますか?
石倉 セクハラ問題は、スタートアップ業界だけの話ではなく、社会全体の問題です。ただ、スタートアップ業界は規模が小さい分、企業内での権力構造が偏りやすく、問題が表面化しにくいという特徴があります。とくに経営者や投資家といった立場の人間が加害者である場合、被害者が声を上げにくい環境になりがちです。
岡部 確かに、加害者が経営者である場合、周囲も指摘しにくくなりますね。
石倉 最大の問題は、こうした行為が「見過ごされる」ことです。セクハラをする側の人間が「この程度は許されるだろう」と思ってしまうのは、社会がそういう空気を作ってしまっているからなんですよ。

岡部 具体的には、どのような仕組みが必要だと考えますか?
石倉 加害者を社会的に排除する仕組みが必要です。現在は、加害者が経営層にいる場合、問題が内部で揉み消されることが多いです。被害者が声を上げても、結局は泣き寝入りするケースが後を絶ちません。これは企業文化そのものの問題とも言えます。
岡部 それに対しては、どのような対策が考えられますか?
石倉 一つは、匿名で通報できる独立した機関を設けることです。もう一つは、セクハラを行った人物が社会的に責任を取る仕組みを作ることです。芸能界やスポーツ界では、不祥事を起こせば活動を自粛するのが一般的ですが、企業経営者にはそうしたペナルティがほとんどありません。
岡部 確かに、加害者に対しての社会的な制裁が弱いですね。
石倉 はい。セクハラ問題に対する社会の感度を上げるためにも、「セクハラをしたら終わり」という認識を広めていく必要があります。社会が一貫して強い姿勢を示すことが求められていると思います。
STEM領域におけるジェンダーギャップ解消に向けた取り組み

岡部 D&I財団では、STEM領域におけるジェンダーギャップ解消にも取り組んでいらっしゃいますね。
石倉 はい。とくに理系を志望する女性の数を増やすことに重点を置いています。
岡部 日本のSTEM領域における女性比率はどの程度なのでしょうか?
石倉 現在、日本のSTEM領域の女性比率は19%で、OECD加盟国の中で最低レベルです。財団では、2035年度までにこの比率を28%まで引き上げることを目標にしています。
岡部 D&I財団の事業について、詳しく教えてください。
石倉 大きく分けて2つの事業を行っています。1つ目は「STEM(理系)女子奨学助成金」です。高校1年生・2年生を対象に、STEM領域を選択した学生に奨学金を給付しています。これは金銭的な支援だけでなく、STEM領域へ進む意欲を高める狙いもあります。
2つ目は「Girls Meet STEM」という、中高生女子向けのSTEM領域体験プログラムです。大学や企業ツアーを通じてSTEM領域で働く女性をロールモデルとして紹介し、女子学生に理系のキャリアを具体的にイメージしてもらう機会を提供しています。女性研究者やエンジニアと直接話せる場を設けることで、「自分も理系で働けるんだ」と思ってもらうことが目的です。

岡部 身近なロールモデルがいると、進学の決断がしやすくなりますね。
石倉 その通りです。STEM領域を志望する女性が少ない理由の一つに、「将来のイメージが湧かない」ことがあります。身近に理系の女性がいないと、「理系の仕事ってどんなもの?」という疑問が解消されないままになってしまうんです。
岡部 ロールモデル問題は、地方女子にも当てはまりますね。地方では、都心に比べて仕事で活躍して自己実現を果たしている女性のロールモデルの数が少ないという問題があります。私も個人的にお手伝いしている、東大女子発のNPO#YourChoiceProjectでは、地方女子のキャリアの可能性や進学の選択肢を広げるためにさまざまな取り組みをしています。こうした次世代に向けた社会の変革が必要ですね。
ジェンダー問題に当事者意識を持つ男性を増やしたい
岡部 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
石倉 D&I領域で活躍する男性を増やしたいですね。ジェンダーの問題は女性だけの課題ではなく、社会全体の課題です。男性も当事者意識を持ち、一緒に考えていくことが重要だと思っています。ジェンダー問題に関心を持つ男性を増やしていくことも、自分の役割の一つであると考えています。
岡部 確かに、女性だけでなく男性の協力がなければ社会構造は変わりにくいですね。

石倉 そのためには、まずは意識を変えること。そして、具体的な行動を起こすことが必要です。「おかしいものはおかしい」と声を上げ続けることが、最初の一歩だと考えています。
岡部 次の世代を良いものにしていくためには、男性も女性も関係なく一人ひとりが広い視点を持たないと解決していかないのだということを、今回のお話で改めて実感しました。
石倉 秀明(いしくら ひであき)● 2005年に株式会社リクルートHRマーケティングでキャリアをスタート。その後、リブセンス、DeNA、起業などを経て2016年より株式会社キャスター取締役COOに就任(2021年より取締役CRO)。創業期よりフルリモートワークで組織を運営し、複数の新規事業の立ち上げ、営業、マーケティング、広報などの管掌役員を歴任。47都道府県、23か国で800名以上がフルリモートワークで働く企業規模にまで成長させ、2023年10月の東証グロース市場上場に貢献。2024年2月より山田進太郎D&I財団COOに就任。
国際女性デー記念! 豪華ゲストと女性のキャリアを考える無料ウェビナー開催

国際女性デー2025特別ウェビナー 広告・メディア・美容業界から考える女性のキャリア
日程 :2025年3月10日(月)19:00~21:00
場所 :オンライン開催(Zoom)
人数 :定員450名(応募者多数の場合は抽選を行います)
参加費:無料
参加申込はこちら!