「旅する起業女子」というキャッチフレーズで、世界中を旅しながら仕事している杉野遥奈(はるな)さん。PC1台で、経営者として、Webデザイナーとして活躍しています。「時間と場所に縛られない自由な生き方をしたい。そういう人を、少しでも多く増やしたい」と語るはるなさんですが、その明るい笑顔の裏には、壮絶な過去がありました。
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「自宅を持つ」ということの縛りに気づいた
――365日、ホテルを渡り歩いて旅暮らし。自由な働き方の最終形態という感じですね!
ありがとうございます(笑)。今は、スーツケース1つで自由気ままにいろんな国を旅しながら仕事しています。もちろん遊びや観光も! 2021年は、ハワイや中東を転々として暮らしてました。これまで行ったのは44カ国ですね。コロナ前は今よりずっと海外に行きやすかったので、本当に最高でした。
――リモートワークやワーケーションをする人は増えていますが、はるなさんみたいに100%旅暮らしをする人はレアですよね。どうやって、その生き方に行き着いたんですか?
当たり前ですが、定住する「自宅」があるからこそ、旅先から帰宅しなくちゃいけなくなるんですよね(笑)。それってなんかおかしくない? と思ったのがきっかけです。
――斬新……! たしかに、仕事がフルリモート可なら、その暮らし方もできますね。
はい! 私の仕事にはオフィスが必要なくて、PCとWifiさえあればOKなので。そもそも「自宅」をつくらずに、そのとき暮らしたい場所で生きられる環境をつくれば、大好きな旅を終わらせずに済むし、ずっと旅しながら生きていけるんじゃないかって気づいたんです。
いじめられていた中高時代、やりたいことなんてなかった
――最先端な生き方をしているはるなさんですが、学生時代からキラキラだったんですか?
いえいえ、まったくです(笑)。私、実は中学でも高校でもいじめられた経験があって。結構ハードないじめを受けていて、楽しいことよりも辛いことや苦しいことのほうがずっと多い毎日でした。自信なんて持てなかったし、自分らしさを出すとか、得意分野を伸ばすとか、そういうことからはいっさい無縁でした。
大学に入ったらいじめられることはなくなりましたが、自分の夢もやりたいこともとくにないし、かといって人に誇れるような特技もなくて、これからどうやって生きていこうかなってもんもんとしてました。ただ、旅行に行くのは大好きだったので、海外留学をしようと決意したんです。
――明るい今のはるなさんからは想像もできませんが、壮絶な経験をしてこられたんですね。
そうですね。留学は生まれて初めて自分の意思で飛び込んだ世界だったし、楽しかったですよ。留学先のオーストラリアでは、現地にたくさん友達ができました。何もできなくても、新しい世界に自分から飛び込んでいくことの面白さを知りました。
一方で、全然英語を喋れない悔しさもあって、「次は長期留学に行くぞ!」って次の目標を見つけることもできました。その長期留学のための費用が、300万円くらい必要で(笑)。300万円貯めるために新聞の新規契約を取るアルバイトをやってみたら、とんとん拍子で契約を取れて、「あ、これだ!」と思いました。私は営業が向いてるのかもって、そのとき初めて気づいたんです。
――アルバイトを通して、営業職という方向性を見つけられたんですね!
そうですね! 私はたぶん、人と会話したりコミュニケーションしたりして、新しい価値を生むのが好きなんです。その時までとくにやりたい仕事などもなく、希望の就職先なども全く定まってなかったんですが、大好きな旅を続けながら仕事をできるようにするなら、これからも伸びていくであろうIT業界がいいかなと思って、IT業界の営業職を目指しました。
たくさんあるIT企業の中から、最後に選んだのはサイバーエージェント(以下、サイバー)です。若手のうちからいろんなことをやらせてもらって、かつITビジネスの最先端に触れられる会社がいいなと思っていたので、サイバーがぴったりでした。
サイバーでひたすら働いて、心身を壊しちゃった
――サイバーでの配属も、営業だったんですか?
はい! 念願かなって営業に配属されました。その後には新規事業の立ち上げを担当させてもらって、毎日刺激的でしたね。想像していた「サイバーの世界」そのものって感じで、ひたすら仕事に没頭してました。
――すごく充実していたんですね! サイバーは、若手のうちから大きな裁量をもらえるだけに、大変なことも多そうです。
本当に成長できるいい環境にいましたが、挫折の方が多かったです。まずは「私、もしかしてマルチタスク苦手かも」っていう気づきです。自分では得意だと思っていたことでも、周りの優秀な同期たちと比べると全然うまくできなくて、自分の限界を感じました。
それから、新規事業の立ち上げのときに心身の調子を崩しちゃって。もともと私の得意な分野じゃなかったうえに、私が一人で1からつくりあげていくような仕事で、業務量がものすごかったんです。それを「私がやらなきゃ!」っていう責任感だけで乗り越えようとして、結果的に、自律神経失調症と円形脱毛症になりました。あれは苦しかったですね。
――はるなさんには、学生時代も含めていろんな葛藤があったんですね。
いやいや、葛藤だらけですよ(笑)! がむしゃらに働き続けたある日、心身を犠牲にしてまでやり遂げなきゃいけない仕事なんてないってことと、本心からやりたい事のために時間や労力を使うべきだって気付いて、独立を決めました。サイバーにいた2年半は、今思い返してもすごく濃かったですね。
「旅暮らしする」ための努力なら、全然辛くない
――サイバーというメガベンチャーを卒業するにあたって、はるなさんが進む道は決めていたんですか?
いえ、次に行きたい会社があるわけじゃなかったんです。ただ、「ずっと旅をしながら生きていきたい」っていういちばんの目的を見据えて、それを叶えられる職業の中から選ぼうと思いました。それでたどり着いたのが、Webデザインの道だったんです。でも、サイバーでそういう仕事をしていたわけじゃなかったので、専門スキルはほぼゼロ(笑)。とりあえず短期集中型でWeb制作に関するスキルを習得できるスクールのようなプロジェクトに参加して、1から勉強しました!
――今は、独立特化のWebデザインスクール「DeLife」の経営をしているそうですね。スキルゼロから経営までたどりつくのも、すごい努力ですね。
はい。私が通ったプロジェクトを教えてくれた大学時代の友人と、共同創業というかたちでスクール経営をしながら、主に卒業生をパートナーに交えて、Web制作事業の経営も行っています。もちろん旅と経営を両立することに不安とか悩みはたくさんありましたが、「旅暮らしをしたい」っていう軸はブレないので。それを叶えるための努力なら、全然苦しくないですし、当たり前にできます。フリーランスという働き方も、旅暮らしをするためには必須なので、迷うことなく選びました。フリーランスになりたかったわけじゃなく、旅暮らしをするためにはベストないい働き方だったから選びました。
私はまず「自分がどうありたいか」「最終的に目指しているものは何なのか」を考えて、それに合わせて働き方や暮らし方を選んでいます。だから、細かい部分は変わっても軸はブレないし、いろんな環境の変化があっても自分を見失わないでいられるのかなと思います。
遠い将来のことは考えない!足下を見て進んでいきたい
――「DeLife」は順調ですか?
はい! 友人と2人で共同代表を務めているんですが、仲間がいることはやっぱり心強いですね。2021年1月に1期が始動して、今は3期の生徒さんが41人います。おかげさまで倍率は10倍近くなっているので、そこを突破してきてくれる生徒さんたちはみんな、スキルアップしたい! という熱意がすごいです。
――そして2021年6月には、スクール経営とWeb制作事業を主に行う「STARTY」を立ち上げましたね!
はい! ついにここまで来たんだなあ〜って感慨深かったです。サイバー時代を思うとずいぶん遠回りしてきたなあと思いますが、無駄なことは1つもなくて、全部が今の私につながってるとも感じます。
最近はSTARTYにもお仕事の話をいただく機会がぐっと増えたので、私自身の制作の幅を広げつつ、フリーランスの仲間やDeLifeの卒業生とチームを組んで、大きな仕事をできるように環境を整えていきたいとも思ってます。ちなみにSTARTYは「輝かせ始める」という意味です。スクールの運営やWeb制作業がメインなのですが、個人やそれぞれの素質や強みを生かして伸ばしてあげるような事業内容なので「Starry(輝かせる)」と「Starty(始める)」を掛け合わせた会社名にして、想いを込めています。
――今後の目標とか、夢はありますか?
私はあんまり、遠い将来のことは考えないんです。5年後の自分がどうなってるか考えるよりも、5年後の自分が今の自分を振り返った時に自信を持って誇れるかどうかを想像して、日々を生きることの方が大切だと思っていて。また、5年後の自分が「今の私が想定できるレベル」に収まっていたくないという気持ちもあります。
結局、やりたいこともありたい姿も、経験を通して変わっていくから、いつでも自由に選択できる自分であり続けたい。その先に、本当にありたい未来像があると思うので、近い未来は見つつ、一歩一歩確実に進んでいけたらなと思います。
杉野遥奈(すぎのはるな)●旅する起業女子 / 株式会社STARTY代表。家や拠点を持たずにスーツケース1つで旅暮らしをする、旅する起業女子。大学時代に41カ国を旅した後、(株)サイバーエージェントにて広告企画営業とCtoCサービスの立ち上げ責任者を経験後、25歳で独立。Webデザイナーとして1年ほど活動した後、「もっと自由な人を増やしたい」という思いで、独立することに特化したWebデザインのオンラインスクールDeLifeをノマド友達と共同創業。現在はダイヤの原石である個人や企業を輝かせ始めるための価値提供をめざして奮闘中。総フォロワー7万人のSNSでは、仕事も遊びも全力で楽しむ自由な生き方を発信。