新型コロナウイルスをきっかけに、オフィスで長時間働くことや、固定のメンバーで固定の場所で働くなどの価値観が見直され始めています。
それにともない、これまで実現できなかったような働き方ができる可能性が増しました。
そんな働き方を象徴するのがオフィスや自宅以外の場所で働く、「ワーク」と「バケーション」を掛け合わせた「ワーケーション」です。
実施率は6.8% ワーケーションを取り巻く現状は?
2021年に実施されたとある調査によると、ワーケーションの認知率は男女ともに70%超え。
新しい働き方が提唱されるなかで、今やワーケーションは当たり前の言葉になりつつあるようです。
しかし全国の男女20〜64歳の就業者約7万人を対象にした調査によると、ワーケーション実施率は6.6%(2021年、株式会社クロス・マーケティングと山梨大学の研究グループにより実施)。
そのほかのデータだと2%程度の実施率にとどまる調査結果などもあることから、ワーケーションという言葉の認知率は高まっているものの、まだまだ浸透していないのが現状のようです。
あえてオフィス以外の場所で働く理由
今の職場環境に満足している、自宅でも満足に働けるなどの理由で、「ワーケーションをする理由がとくにない」という人も多いのではないでしょうか。
しかしオフィス環境などのプレッシャー下においては、体は無意識でも反射的に防衛や硬直といった反応を取ろうとし、精神的な疲労感を感じてしまうこともしばしば。
さらには固定の場所やメンバーだと、今以上に新たな発想が生まれにくく、煮詰まりやすくなります。
【調査データ】ワーケーションは生産性を20%あげる
ワーケーション前後の生産性を調査したデータによると、以下のようなことが明らかになっています(2021年6月、NTTデータ経営研究所とJTB、JALなどにより実施)。
まずワーケーションに参加した調査対象者は、生産性を測るうえで代表的な指標とされる「WHO-HPQ」の値が20.7%上昇。
さらには仕事のストレスが37.3%も低減されるなど、ワーケーションが仕事にもたらすポジティブな影響は大きいことがわかりました。
生産性が上がり、ストレスは下がるので、普段の職場環境にいるよりも、新たなインスピレーションが得られる可能性にも期待できるようです。
生産性が上がる以外のメリットは? 実際に島根でワーケーションしてみた
身近にワーケーションをしている人がいないなどの理由で、実際のイメージがつかない人も多いでしょう。
「本当にちゃんと仕事はできる?」
「バケーションがメインになってしまいそう」
このような疑問を解決するために、パラナビ編集部はオフィスを飛び出し、島根県大田市さんと株式会社石見銀山生活文化研究所さんのワーケーションプログラムに参加してきました。
参加メンバーは、新卒1年目のメンバー2名と編集メンバー2名で、工程は以下の通り。
ワーケーション行程
- 木曜日
10:00 出雲空港出発
11:30 出雲空港到着
14:00 大田市駅着
15:00 温泉津 宿到着
※仕事(4H)
19:00 夕食 - 金曜日
7:00 朝食
8:00 仕事(2H)
10:00 チェックアウト
12:00 移動・昼食(2H)
14:00 仕事(4H)@阿部家
15:00 宿 チェックイン
17:00
1830 夕食(2H) - 土曜日
8:00 朝食
9:00−1030 フリータイム
11:00 チェックアウト
午後 観光
日程は木金土の2泊3日で、最初の2泊は仕事メインの最終日は旅行時間。
参加時期は月末の繁忙期で、ワーケーションとはいえ通常業務を行いながら実施したため、「ワークとバケーションが実際にできるかどうか」などの検証もかねて参加をしました。
ワーケーション場所の島根県大田市はどんな街?
島根県大田市は日本海側に面する、島根県中部の街。
東京からだと羽田空港から出雲空港まで飛行機で移動して、出雲市を経由して約4時間ほどの場所に位置します。
2泊3日の工程のうち最初の宿泊地の温泉津(ゆのつ)は、銀山からとれた銀の輸出が江戸時代まで行われていた場所で、開湯から1300年ほどの歴史を誇る温泉街です。
最初の宿泊場所は築145年以上の古民家ゲストハウスの「湯るり」。
温泉津に複数軒ある温泉地からほど近い場所に位置しているので、仕事に煮詰まったら温泉に行ってリフレッシュもできます。
2泊目は最初の宿泊地の温泉津から車で30分ほど、石見銀山にほど近い「暮らす宿 他郷阿部家」。
築230年の武家屋敷に石見銀山生活文化研究所所長の松場登美さんが10年以上の歳月をかけて暮らし再生した宿です。
普段は通常1日あたり2組までの予約が可能とのこと。
今回は運よく参加メンバーだけでの貸切での参加となりました。
宿内にお風呂や食事場所があり、仕事終わりや朝に参加メンバーで食事が取れました。
「仕事が終わったら何をしよう」がモチベーションにつながる
「暮らす宿 他郷阿部家」のお風呂
「仕事が終わったら〇〇しよう」と思っていたのに、いざ仕事を切り上げたら、ご飯を食べて、寝るだけの1日になってしまったという人も多いはず。
筆者もまさしくそのひとりで、普段働いているときは、仕事が終わったあとでやろうと思っていたことを後回しにしてしまうことも多いです。
しかし今回のワーケーションでは、「せっかく違う場所に来ているのだから、ちゃんと仕事もしなきゃ」という意識が働いていました。
さらに「せっかく違う場所に来ているのだから、ちゃんと遊ばなきゃ」という意識も働き、それが仕事のモチベーションに繋がっていたと感じています。
とくに今回訪れた島根県大田市は温泉が魅力の街ということもあり、「温泉に入らずに東京には帰れない」という意識が参加メンバーに共通してありました。
新たなイノベーションが生まれたかどうかはさておき、普段の仕事時間よりもずっとメリハリがあったのは今回のワーケーションでの最大の収穫だったと思います。
ワーケーション参加メンバーの感想
参加者 A
「いつもと違う場所かつ、環境(コンセントがある、暖房もしっかりきいている)もよかったため、作業効率が上がった気がします」
参加者B
「リフレッシュできる空間だったからこそ、ピりついたメンタルになることなく のびのび業務ができて本当に良かったです」
参加者C
「終業後や休憩中、休日に宿のなかを見学したり散歩をしたり自然を見たりするのが楽しかったです。いいリフレッシュになりました」
ネックは移動のみ? ワーケーションの課題
ワーケーションの不満点をしいてあげるなら、移動時間かもしれません。
島根県大田市に限らず、ワーケーションをするとなると、慣れない土地での移動が大前提になります。
通常業務をこなしながら、移動をともなうワーケーションをする場合、仕事を時間内に切り上げて、目的地に移動するタイムマネジメント力が重要です。
逆に言えば、実際に体験したところの感想を言えば、ワーケーションの大きなネックは移動時間を含む時間管理くらいだと感じました。
また個人的な小さい問題を含めると、普段とは違う場所にいるのでソワソワする気持ちもあり、無理矢理でも仕事モードに入る必要がありました。
ホテルで缶詰でワーケーションをするのであれば話は変わりますが、観光地などの誘惑が多い場所で仕事をするなら、人によっては普段以上に自制心が求められるかもしれません。
参加人数は何人が最適? ワーケーションを充実させるコツ
またワーケーションに参加する際に、「誰を誘うか」「一人で参加するべきか」などの疑問もあるかもしれません。
結論、編集部では「人数が多いと旅行感が増してしまうのでは?」という意見が上がりました。
いつもと同じチームメンバーでの参加や、大人数でのワーケーションだと、オフィスで働いているときと同様の緊張感も生まれてしまうかもしれません。
ワーケーションの目的が「仕事場所を変えて、リフレッシュしながら働きたい」であれば、人数は少ない方が良いでしょう。
また反対に仲良いメンバーでいくのなら、タイムマネジメント係やメンバーを引っ張るリーダーポジションは設定した方が良さそうです。
そうした役割があることで、「旅行ではなく、あくまでも働きにきた」という意識が生まれ、メリハリあるワーケーションができるはずです。
ワーケーションをする理由はさまざまだと思いますが、旅先で仕事をしてみたいと検討している人にとってこの記事が参考になると嬉しいです。
この記事ではワーケーションの現状を整理するとともに、ワーケーションの実体験を踏またリアルな意見、さらにはワーケーションを充実させるコツを共有します。