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がん闘病、2人の子の療養……過酷な経験を使命に変え、設立した「付き添い入院」支援のNPO

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多くの働いている親にとって、悩ましいのは子どもの病気や体調不良。小さいうちは、病気にも罹りやすく、ともすると入院が必要なケースもあります。そして、そうなったらほとんどの場合、親も「付き添い入院」をすることが求められます。子どもが病気で入院するとき、実に親の8割以上が、一緒に病院に泊まり込んで世話をする「付き添い入院」をしていたという調査結果も1。そして、その過酷さはあまり知られてはいないのが現状です。自身が痛感した「付き添い入院」の大変さから、「病気の子どもを育てるお母さんたちの笑顔を守りたい」とNPO法人キープ・ママ・スマイリングを設立した光原ゆきさんに活動内容と設立の経緯を聞きました。

産むまでは「産後すぐ復帰できる」と思っていた

 ――病気の子どもを育てるママや家族を応援するキープ・ママ・スマイリングは、光原さんご自身が病児の子を育てた体験から立ち上げられたそうですね。付き添い入院を経験された当時は、リクルートの最前線で働いていたとか。

1996年に新卒で株式会社リクルートに入社し、その後、医療メディアの編集長に就任、30代半ばで1人目を妊娠しました。このときの仕事の経験が、のちに医療現場の改善を考えるきっかけになっていたかもしれません。当時は、産んだらすぐ職場復帰しようと考えていたほど、仕事が大好きでした。

 そのため、後任も置かずに、上司には「すぐに戻るから」と言って、2009年に出産しました。しかし、産まれた長女は、生後すぐ疾患が見つかってそのまま新生児集中治療室(NICU)へ行くことに。結局、仕事への復帰は叶わぬまま、病院で長期間付き添って過ごすことになりました。そして、約半年後にようやく退院。無事保育園にも入ることができ、復職ができました。

そうこうするうち、3年後に次女を授かったのですが、妊婦検診で先天性疾患があることが判明。またしても、生後すぐに手術を受けることになりました。そのときも病院で泊まり込んで看病をしましたが、生後11ヶ月で娘は亡くなりました。

本当に辛い経験でしたが、娘が私のところに生まれてくれたことには何か意味があるはず。その意味を私が形にしよう。そう思って、40歳のときに、小児病棟の付き添い環境と病児を育てるご家族の現状を改善するためのNPOを立ち上げました。この活動をライフワークにしようと思い、会社に副業の申請もして本格的に取り組み始めました。

1 調査は、聖路加国際大学とNPO法人キープ・ママ・スマイリングが、入院中の子どもの家族の生活や支援に関し、201912月~202月、ウェブアンケート形式にて共同で実施。https://momsmile.jp/7165/

トイレも、食事もままならない「付き添い入院」の実態

――本当に辛い体験をされての立ち上げだったのですね……

2人の子どもの入院に付き添って、合計6つほどの病院で寝泊まりをしましたが、それぞれの病院で付き添い家族の就寝や飲食に関するルールは違っていました。病室にシャワーがあったり、料金を払えば親にも食事が出される病院もありましたが、どちらも稀なケースだと思います。親は狭い簡易ベッドで眠り、食事もないところがほとんどです。ある病院では、親の入浴は近くの銭湯を利用してくださいと言われたこともあります。目を離すことができない子どもを一人置いて、銭湯に行けるはずがありません。

多くの付き添い親が、子どもと同じベッドで寝泊まりしている

――そうした付き添い入院の状況自体、あまり知られていませんね。

制度上、子どもの入院に親の付き添いは不要ということになっています。病院側としては、付き添いたいという家族の希望を許可するという形になっているのです。なかには、家族が希望しても付き添いができない場合もありますが、小児病棟の人手不足もあって、低年齢児には認められることが多いという状況です。そのような現状で、療養している子どもに対する支援はあっても、ケアをしている親への支援というものはほとんどありません。 

付き添い入院中、親は子どもが寝たすきにトイレに行きます。ましてや、自分の食事なんて院内のコンビニに買いに行くのがやっとです。シャワールームがない病院では、銭湯になんてとても行けないので、身体を拭いて済ませることも。親も子どもの回復が最優先で、声を上げる状況ではないということもあり、付き添う家族がそんな苦労をして泊まり込んでいる実情は知られていません。 

一方で、家族が利用できるシャワーもあり、食事が提供される病院もあるわけで、ほかの病院でも工夫することで、この過酷な状況を改善することができるのではないかと思いました。子どもにとって、親が元気でいることはとても大事です。それなのに食べる、寝るという基本的なことさえままならないケースが多いのは問題です。毎日コンビニのごはんというのは本当に辛いものです。私自身も付き添いをしているときに、近くにおいしいお弁当屋さんがあることを教えてもらって、生き返るような気持ちになりました。

シェフ監修のお弁当で、付き添う親の食環境を改善

――それで、まずは食事面のサポートから始められたのですね。

はい。医療サイトを運営していた経験からも、いちNPOがいきなり調査や提言をしても、相手にされないだろうということがわかっていました。そのため、まずは大変な思いをしている付き添い中の家族においしいごはんを届けるという直接支援からスタートしました。

多くの病院では、食事を病棟に宅配してもらうことは認められていません。また、付き添い中は費用もかさむため、経済的に厳しいことが多いです。なかには自分の食費を削っているお母さんもいて、割高な出前を取るということは現実的ではありません。 

2015年から小児・周産期病院として国内で最大規模の国立成育医療研究センター近くにある、子どもが入院中の家族ために低料金の滞在施設を提供している「ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがや」で、ボランティアの夕食づくりを始めました。一緒に活動をしていた友人の紹介で、六本木の「Jean-Georges Tokyo」や青山の「The Burn」で料理長を歴任し、「DEAN & DELUCA」など、企業のフード・コンサルティングも手がけている米澤文雄シェフもサポートしてくださいました。 

2019年には、聖路加国際病院で付き添い入院をしているお母さんたちにお弁当を届けることができるようになりました。病院内での食品の受け渡しの許可を取るのは簡単なことではありませんでしたが、こうしてご縁のあったところからお弁当を届け始めました。その後、東京医科歯科大学病院の付き添い家族にも毎月お弁当をお届けしています。

――病院にお弁当を届けるというだけでもハードルの高いことなんですね。

そうですね。しかし、全国の付き添い家族を支援したいと考えると、お弁当を作って届けるというのは現実的ではありません。そこで、常温で保存できて、好きなときに食べられるレトルト食品や缶詰の開発にいきつきました。活動を支援してくださっていた会社員時代の先輩に、缶詰会社の社長をご紹介いただき、米澤シェフにも監修していただいてつくったオリジナル缶詰をお届けする活動を2019年から始めました。 

全国的な支援を始めるにあたって、会社を退職し、NPOに専念することにしました。「さあ、全国の付き添い家族に缶詰を届けるぞ!」と思った矢先、新型コロナウイルスが流行し始めました。コロナ禍により、院内感染の拡大を防ぐため、面会制限・付き添い制限が全国の病院で行われ、小児病棟では親が一度病院に入ったら、出ることができないというさらに大変な事態になりました。それまでは、週末だけ交代することはできていましたが、買い物に出ることすらできない病院もありました。家に残った家族にも会えなくなってしまいました。

――確かに、コロナ禍では入院した人のお見舞いにも行けませんし。厳しいですね

そこで、長期間にわたって子どもの入院に付き添っているご家族に、支援物資を届けようと、202010月から「付き添い生活応援パック」を無償で送る活動を始めました。この応援パックには、オリジナル缶詰やフリーズドライの食品のほか、マスクや消毒用ジェルといった衛生用品、お母さん向けの基礎化粧品や衣料などもさまざまな企業からご寄付をいただいて詰めています。

「付き添い生活応援パック」 出典:キープ・ママ・スマイリング

2週間以上、泊まり込んで付き添いをするご家族を対象に、これまで3,400個以上をお届けしてきました。この取り組みに協賛いただいた企業は、株式会社ファーストリテイリング、エーザイ株式会社、ピジョン株式会社、株式会社ユーグレナなど50社を超えています。賞味期限が迫っているものや、ロゴやデザイン変更となったものなど、滞留在庫をいただく形でのご支援もありがたく、読者の皆さんの周りで付き添い家族の支援になるものがあれば、ぜひご連絡いただければと思います。

――病院の出入りが制限されるコロナ禍では、本当に困ることが多いし、しかも入院は突然のことが多いですしね。

子どもも、親もなんの心構えもないまま、いきなり始まり、病院の外に出られなくなるのはとても不便ですし、精神的にも参ってしまいます。病院側としては院内感染を防ぐことが最重要ですから仕方がないことです。親にとっても入院しているわが子を守るのがいちばん大切なので、どうすることもできません。

そこで、初めての入院、初めての土地でも、安心して付き添い生活を始められるようにと、20229月に付き添い家族のためのクチコミサイト「つきそい応援団」をオープンしました。付き添い生活に役立つ知恵や情報のほかに、付き添い経験者からの励ましのメッセージなども掲載するサイトです。

――本当にいつ当事者になるかわからないなか、コロナ禍では社会課題ともいえますね。今、光原さん自身は毎日どのように活動されていますか?

寝ているとき以外は、ほぼこの活動のことを考え、時間を費やしています。スタッフの数も増え、お弁当のお届けや応援パックの発送など、チームに分かれて活動ができるようになってきました。私たちの活動は、多くの支援者からいただく物品やお金の寄付、助成金で成り立っています。理事長としての私の役目は、付き添い入院という社会課題の認知を広げ、一人でも多くの方に付き添い家族を支援する活動に参加していただくことだと思っています。ふるさと納税でのご寄付も可能です。私たちの取り組みをご支援くださっている農家・事業者の皆さんから提供される返礼品付きのプランもありますので、どうぞよろしくお願いします。

キープ・ママ・スマイリング https://momsmile.jp/

つきそい応援団 https://tsukisoi.jp/

キープ・ママ・スマイリングふるさと納税 https://momsmile.jp/7486/

 

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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