Paranaviトップ ライフスタイル ジェンダー/フェミニズム 「話さない理由」を乗り越えて、「暴く意味」を見つけた女たちの連帯を描く。映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

「話さない理由」を乗り越えて、「暴く意味」を見つけた女たちの連帯を描く。映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

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世界のフェミニズム運動を大きく動かした#MeeToo運動。その発端は、2人の女性記者によるスクープ記事でした。エンタメ界の重鎮vs女優や元部下たち。権力と金による弾圧に負けず、被害者たちの声を世に届けた2人の闘いを映画化した、SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が日本でも公開されました。

あのハリウッド・スターも実名で登場。世紀のスクープの舞台裏を描く

 自分が受けたセクシャル・ハラスメントや性被害について、「MeToo!(私も!)」と声を上げるオンライン上の運動、いわゆる「#MeeToo運動」が大きなうねりを見せたのは2017年のこと。

そのきっかけとなったのは、ニューヨーク・タイムズの衝撃的なスクープ記事でした。記事で告発されたのは、「シカゴ」「恋に落ちたシェイクスピア」「英国王のスピーチ」等のプロデュースで知られるハリウッド映画界の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン。彼が女優や元部下に行っていた数々のセクハラとその隠ぺい工作が、複数の女性の証言のもとで明るみに出されたのです。

 113日から日本でも公開された、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』。ニューヨーク・タイムズの女性記者2人(ジョディ、ミーガン)が被害女性に取材を重ね、妨害や圧力を受けつつも記事を公開するまでを追ったドキュメンタリー仕立ての映画です。

多くの当事者が実名で登場し、スクープ記事で重要な役割を担った女優のアシュレイ・ジャッドは本人役で出演。ハラスメントの現場をリアルに映像化せず、被害者の語りや録音テープの再生のみで表現。それでもなお、ワインスタインの行為の醜悪さには言葉を失います。 

「話さない理由しか見つからない」被害者のパラドックス

 怒りと使命感に燃えるジョディとミーガンの前に立ちはだかるのは、被害者の声を抑え込む大きな力。圧倒的な権力を使って、秘密保持契約にサインさせ、お金を支払うことで示談に持ち込む狡猾なワインスタイン側。多くの女性が、「私は口を封じられた」「被害を訴えてもどうせ握りつぶされる」という無力感に苛まれています。

自分のキャリアが台無しになるのでは?

「お前は嘘つきだ」と加害者や世間から糾弾されるのでは?

セクシャルスキャンダルとして扱われるのでは?

記憶を掘り起こすことでもう一度傷つくことになるのでは?

何も知らない家族を傷つけるのでは?

「何も言えない。放っておいてくれ」と絞り出すような声で叫ぶ被害者たち。加害者サイドからの恫喝や、眠れぬ夜の自問自答の中で、「話さない理由」は数限りなく湧いて出てきます。彼女たちの心の傷を思えば証言を強いることもできず、ジョディもミーガンも苦悩が続きます。

「女の子たち」の描写から見えてくる、彼女たちが「暴く意味」

袋小路に迷い込む2人を支えたのは、「これは必ず世に出さなければならない」という確信でした。ワインスタイン個人の問題だけでなく、女性たちへの迫害は社会システムの問題が背景にあります。権力者側・加害者側を守る構造そのものを、スクープ記事を出すことで突き崩さなければなりません。

映画の途中でふと、「画面に女の子がたくさん出てくるな」と気づきました。ジョディとミーガンは2人とも、娘を育てる母。その他にも、被害者女性たちにも娘がいるようです。悩み、動揺する彼女たちを映す画面の端に、無邪気に遊ぶ女の子たちの姿が繰り返し登場します。

その2世代の女性たちの描かれ方に、重要なポイントがある気がしました。

 もはや自分のために戦う力は残っていない女性も、次世代のためになら連帯する理由が生まれる。「暴く意味」は、過去の女性の傷の治癒だけでなく、未来の女性の幸福のため。

 「娘には、こんなことがまかり通っていいとは教えたくない」

記事に名前を出すことを同意した1人の女性。膨大な「話さない理由」を乗り越えるきっかけは、「負の遺産を次世代に渡さない」という大きな覚悟でした。 

加害者側が繰り返す、「90年代の話をなぜ掘り起こす!」という抵抗。私たちの「今」は過去と未来をつなぐ道の上にあることを、彼らは知らないのでしょうか。過去を封印することも、今を先送りすることも、未来を無責任に眺めることも、私たちはしてはいけない。映画を観て、たった5年前に起きたことが「今」をどれほど変えたかを思い知りました。

 私たちを蝕む「無力感」という病。それを乗りこえる「意味」を教えてくれる、素晴らしい記録映画です。ぜひ映画館へ足を運んでみてください。

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梅津奏
Writer 梅津奏

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