実際にはタブー視される一方で、ドラマのネタとしては私たちの心を掴んで離さない「不倫」というテーマ。絶賛盛り上がっている2023年春クールのドラマでも2大「不倫ドラマ」として早くも話題になっているのが「夫婦が壊れるとき」「あなたがしてくれなくても」です。イギリスのドラマが原作で、韓国版でも放送され高視聴率で話題となったドラマの日本版「夫婦が壊れるとき」。昼顔スタッフが再集結して、人気コミックをドラマ化した「あなたがしてくれなくても」。両者それぞれのドロドロっぷりに未婚・既婚かかわらず、夫婦の定義って一体……と、疑心暗鬼に陥ってしまう一方で、ドキドキハラハラが癖になってしまうこと間違いなしです。
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幸福と絶望の反動に身震いがする「夫婦が壊れるとき」
2023年4月より新設された、日本テレビ『金曜ドラマDEEP』枠にて第一弾として放送されている「夫婦が壊れるとき」。タイトルからしてドロドロな匂い満載ではありますが、その内容は想像以上に残酷なものでした。
夫と子どもに恵まれ“完璧な人生”を送る、医師であり副院長の真壁陽子(稲森いずみ)。夫・昂太は、陽子が出資して立ち上げた映像制作会社で社長兼監督を務めており、子どもの凪(宮本琉成)もスクスクと育っています。
誰が見ても理想の家族そのもので、セックスレスのセの字も感じさせない、まるで新婚かのような仲睦まじさに圧倒されることでしょう。
が、そんな幸福に満ち溢れるシーンもとある出来事を機に一変。昂太のマフラーから1本の長い髪の毛を見つけた事から、目を背けたくなるような事実が明らかになっていきます。そうです、妻を愛してやまないはずの夫・昂太は、不倫しているのです。
それも相手は、昂太の会社に出資している地元の名士である佐倉家の一人娘・理央(優希美青)。もちろん、陽子とは顔見知りの関係です。正直、ここまでは予想通りな展開でした。
昂太の不倫を突き詰めていく中で浮かび上がってきた事実。それは、周囲の友人・知人らが昂太の不倫に加担しているということ。
同僚である佳菜子(内田慈)も、昂太の部下である彩(黒澤はるか)も、昂太の同級生である基樹(内田朝陽)も。いつだって味方だと思っていた人たちが、軒並み裏切り者だったのです。これはつらい……非常につらい……。
一つ言えることとして、昂太の陽子への愛は嘘偽りありません。それは、彼の言動や行動を見ていれば誰もがわかること。もしこれらがすべて演技だとしたら、それはもう恐ろしい。ただ、そんな中で、理央のことも本当に愛してしまったのでしょう。人間の感情なんて、結局は希薄で儚いものなのです。
理央の邁進も恐ろしく、なんと陽子のクリニックを訪れ早々に直接対決。昂太の名前は出さないものの、彼の存在を仄めかす発言に陽子の憤りは止まりません。いや、あんなに堂々とけしかけられたら誰だって頭に血が上ること間違いない。
挙句の果てには理央の妊娠が発覚。昂太には話すことなく堕ろす決断をした理央でしたが、妊娠の事実を知った陽子が手回しをし、佳菜子を介し昂太の耳へ。
「どうするかは昂太が決めればいい」とたかをくくる陽子でしたが、なんと産む決断をする理央。いやもう……カオスすぎる……一体この先どうなることやら……。
愛とは?結婚とは?考えはじめると止まらない「あなたがしてくれなくても」
社会現象とも言えるほどの旋風を巻き起こした「silent」が記憶に新しい、フジテレビ『木曜劇場』枠にて現在放送中の「あなたがしてくれなくても」。2組の夫婦のとある共通点を起点に、物語は膨らんでいきます。
共通点とは、そう、“セックスレス”。吉野みち(奈緒)と吉野陽一(永山瑛太)、新名誠(岩田剛典)と新名楓(田中みな実)の2組の夫婦間に、深い亀裂が生まれていくのです。吉野夫婦も新名夫婦も、一見超円満。ですが蓋を開けてみると、彼らは行き場のない寂しさを抱えています。
今のところ、陽一は(もちろんみちのことを愛してはいるけれど)惰性で結婚生活を続けているだけ、楓にとっての誠は、客観的に見ている限りもはや同居人としか思えない。完全に夫婦のバランスが崩れてしまっています。
従業員の三島(さとうほなみ)と一夜限りの関係を持ってしまったことからみちの大切さに気付いた陽一と、献身的だった彼の変化を察してようやく誠の大切さに気付いた楓。彼らの心情や行動にも変化が生まれていますが、時すでに遅し。
今のところ、みちは夫の陽一に向き合おうとしていますが、誠にかんしてはもう手遅れ。完全に気持ちが、忠犬のようにみちに向いてしまっており、下手したらストーカーと化しそうなほどに精神的に執着しています。「昼顔」よりもほのかに静かに進んでいくストーリーが非常にもどかしく、この先それぞれの関係性がどのように変わっていくのか、見えそうで見えません。
このドラマがこれだけ反響が大きいのも、カップルであれ夫婦であれ、“セックスレス”という悩みの呪縛にとらわれる人たちが実はわりと多いことが一因ではないでしょうか。付き合いたてのカップルや新婚ホヤホヤの夫婦はそんな心配は無用だとは思いますが、付き合いが長くなっていくうちに避けては通れない、肉体関係からの敬遠。
相手のことは愛しているはずなのに、なぜなのでしょう。なんとなくそういう気分になれなかったり、そういう魅力を感じられなくなってしまったり……抗えない感情に襲われ、自分自身でも戸惑いを隠せない経験、少なからずあると思います。
セックスが愛情表現のすべてではないけれど、セックスでしか満たされないことって、きっとある。とはいえ、必ずしもお互いが同じ価値観を持っているわけではないため、すれ違いが生じてしまうのは致し方ないことです。そこでどれだけ向き合うことができるかが夫婦の存続にかかわってくるわけですが、ここが最も難しい。
だからこそ、この問題にフィーチャーされている「あなたがしてくれなくても」が世の中の男女にぶっ刺さるわけなのです。
ひたすら考えてしまう「夫婦とは……?」
これら2作品を追う中で、独身である著者は“夫婦の定義”について四六時中考えています。
夫婦といっても、詰まるところは“赤の他人”。結婚というものは、双方の努力なしでは継続は成り立たないし、決してゴールではないということを痛感させられます。
さらに言うなら、一緒になっても幸せじゃないなら、結婚しなければいいのにーーそう思ってしまうのは安直すぎるのでしょうか。一生誰かのことを愛し続けることができないのであれば、いっそのこと誰も愛さないほうが幸せなのでは?
こんなひねくれた思考をも生み出してくれる「夫婦が壊れるとき」「あなたがしてくれなくても」の作品力に圧倒されながら、こじらせない程度に、今後の展開に期待している著者なのでした。