Paranaviトップ ライフスタイル ジェンダー/フェミニズム 「女たちも戦争に」が新時代のリアルなのか?『同志少女よ、敵を撃て』が描く、戦時下におけるフェミニズム

「女たちも戦争に」が新時代のリアルなのか?『同志少女よ、敵を撃て』が描く、戦時下におけるフェミニズム

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「お前は戦うのか!死ぬのか!」…ロシア・ウクライナ戦争を予測したようなタイミングで書かれた『同志少女よ、敵を撃て』は、男性目線でばかり描かれてきた「戦争」を一人の少女兵士の目を通して描き切る衝撃作。累計50万部を突破し「2022年本屋大賞」大賞にも選ばれました。魅力的なキャラクターや巧みな表現、手に汗握る展開が文句なしに面白かったのはもちろんですが、フェミニズムとしても大きな問いかけを投げかけてくる作品です。

ノーベル賞作家のノンフィクションに刺激されて書かれた意欲作

まるまる一つの世界が知らないままに隠されてきた。女たちの戦争は知られないままになっていた……――『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著・三浦みどり訳/岩波現代文庫)より

18歳の少女・セラフィマが住むモスクワ近郊の小さな村を、ある日突然ナチス・ドイツ軍が来襲。ドイツ軍に母も仲間も皆殺しにされた上、村を救出に来たソ連軍からは母の遺体を蹂躙され、敵味方両方への憎悪に燃えるセラフィマ。「ドイツ軍もあんたも殺す!敵を打つ!」そんな彼女をスカウトした冷徹な女性教官・イリーナに導かれ、ソ連軍の女性精鋭スナイパー部隊として戦場に出ていく――。

11回アガサ・クリスティ―賞を選考委員全員一致の満点で受賞。2022年本屋大賞にも輝いた逢坂冬馬さんのデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』。ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる『戦争は女の顔をしていない』に着想を得て書かれた、史実とフィクションが織り交じる骨太な作品です。

同志少女よ、敵を撃て

『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬/早川書房)

戦争を描く作品、と聞くと「難しそう」「重そう」と思われる方も多いでしょうか。確かに、少女たちの生い立ちや戦闘風景、戦時中・戦後の人々の精神状態の描写など、シリアスなシーンに満ちた1冊。しかも、単行本で500ページ近い大長編です。それでも、ページをめくる手が止まらず、重い本を支える手の疲労がもどかしく思えるほど。 

この吸引力は、「女性兵士を通して戦争を描く」という新鮮な設定に拠るところが大きいでしょう。

男性が戦地で戦い、女性は家で留守を守る……そんな「戦争小説」の定型を大きく覆し、肉体的にも精神的にも戦闘に向かないと思われていた女性がいかにして「兵士」たりえたか。そんな新しい切り口が、読者の「知りたい」意欲を掻き立て、「戦争とは何か」を改めて白紙から考えさせることに成功しています。 

揺らぐことは許されない、「人間の顔をしていない」戦争

被害者と加害者。味方と敵。自分とフリッツ。ソ連とドイツ。それらは全て同じだと、セラフィマは疑うこともなく信じていた。だが、もしもこれらが揺らぎうるならば。――『同志少女よ、敵を撃て』より

 射撃の技術を磨き、目の前の敵をどうやって殺すかに意識を集中する日々。少女たちはいつしか感覚が麻痺し、「なぜ戦うのか」「その先に何があるのか」を見失いそうになります。加えて、激しい戦闘のさなかに出会う人々――敵のドイツ兵と恋に落ちるロシア人女性、味方でありながら自分たちを監視する秘密警察、そして何より母と仲間を侮辱した敵(かたき)であり、自分に戦闘技術のすべての教え込んだ教官イリーナ。彼らの姿は「正しい」「正しくない」と簡単に割り切れるものではなく、引き裂かれる自我に苦しむセラフィマ。

 平時であれば、人は悩み・迷うことができます。思い切って試してみて、間違いであれば引き返す。ミスを反省して、また違う手を打ってみる。その試行錯誤する営みこそ、人間的と呼べるでしょう。 

そしてそれを強制停止させるのが、戦争というものなのかもしれません。 

新しい時代の戦争には、「女性兵士」が当たり前にいるのだろうか

「女性は、戦争の犠牲者になる弱者ではない。自ら戦うことのできる者と証明します」
――『同志少女よ、敵を撃て』より

本書が発売されたのは202111月。ロシアによるウクライナ侵攻が始まったのは、それからたった3カ月後のこと。この巡りあわせに、何やら運命めいたものを感じてしまいます。

「女たちの戦争」を描いた物語を読みながら、「これからの時代の戦争には、当たり前のように女性兵士がいるのだろうか」と考えをめぐらす読者は多いでしょう。実際、ロシア・ウクライナの戦闘に参加する女性兵士の数は増え続け、5万人を超えているといいます。「男女平等をうたうなら、徴兵も平等であるべき」そんな議論を目にすることも増えました。ジェンダー平等が進んでいることで有名なノルウェー・スウェーデンでは、実際に女性の徴兵がはじまっています。

「同じ権利を求めるなら、同じ義務を負うべき」

 ごく当たり前に思える理屈ですが、ことが戦争となると妙に抵抗を感じます。あえて書くとすれば、男女隔てなく「戦争に参加する責任」を担うことになれば、それだけ、「戦争の是非」について当事者意識をもって考える人口が増えるということなのかもしれません。

ダイバーシティ×戦争という、令和を象徴するような2大テーマをかけあわせて生まれた本作。日本中の書店員さんたちが「今、いちばん売りたい」と推す理由がよくわかります。そう、今こそ、老若男女問わず読まれてほしい1冊です。

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梅津奏
Writer 梅津奏

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