Paranaviトップ ライフスタイル ジェンダー/フェミニズム 「女性入閣最多の5人」岸田首相による内閣改造から一か月…ジェンダーの観点での評価は?

「女性入閣最多の5人」岸田首相による内閣改造から一か月…ジェンダーの観点での評価は?

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「女性ならではの感性や共感力の発揮に期待……」そんな言葉と共に発表された第2次岸田第2次改造内閣。閣僚19人中、女性入閣は最多の5人となりました。しかし、一方で政務官の女性起用はゼロということや、冒頭の発言の「時代遅れ」感に批判の声も聞こえてきています。これを機に、日本の政治と女性の関係について、『女性のいない民主主義』を参照しながら考えていきましょう。

日本のジェンダーギャップ指数の足を引っ張るのは「政治」

2023年6月に発表された、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位。前年からさらに9ランクダウンという結果になりました。 

指数を見ていくと、特に足を引っ張っているのが政治分野

日本の順位146カ国中138位と最低水準。国会議員の男女比・閣僚の男女比・閣僚の男女比という3つの項目すべてで、日本は平均を下回っています。確かに、選挙の様子を見ていてもTVの国会中継を見ていても、政治は圧倒的な男性多数の世界だと感じます。経済界のように、少なくともエントリーの段階(企業への新卒入社時)では相応の割合で女性が参入してくる世界と違い、まだまだ政治家の母数に女性が足りないのではないでしょうか。 

「女性ならではの感性や共感力の発揮に期待したい」

9月13日に行われた内閣改造。19名の閣僚の内、初入閣が11名、女性閣僚は5名という布陣となりました。メンバー発表前から「女性の登用を加速する」と意気込みを見せていた岸田首相は、閣僚メンバーの紹介時に残しましたのが「女性ならでは…」というコメント。 

「女性ならではって…、ステレオタイプな発言では?」

「女性=共感力という発想に、アンコンシャス・バイアスが感じられる」

首相のコメントに対しては、SNSを中心に様々な意見が。過去最多となる5人の女性が入閣したことは画期的なことでしたが、自身の発言でミソをつける結果に。日本のジェンダー平等を進めていく上で、政治分野での改革は最重要課題のはず。多くの人が首相の発言に注視していることを想定して、ジェンダー問題への理解やふさわしい言葉選びにもっと注意を払うべきなのではないかと感じました。 

クリティカルマスからクリティカル・アクターへ

今回の内閣改造を受けて、改めて日本の政治と女性の関係について考えてみたくなった人に紹介したいのがこちら。

女性のいない民主主義

『女性のいない民主主義』(前田健太郎/岩波新書)

著者は、東京大学大学院法学政治学研究科教授の前田健太郎さん。女性が極端に少ない日本の政治界において、民主主義が機能していると言えるのか。世界各国の政治における女性の位置づけと日本を比較しながら、どうすれば日本の民主主義に女性をとりこんでいけるのかを考える一冊です。

本書の中で前田さんは、「クリティカルマス」と「クリティカル・アクター」という言葉を紹介しています。

 クリティカルマスとは、組織の中で女性が能力を十分に発揮できる下限の割合のこと。例えば、10人の会議に女性が1名しかいないと、その女性は委縮して本当の意見を言いにくくなるでしょう。クリティカルマス理論では、女性が全体の30%に達したときに初めて、女性たちは本来の力を発揮できるとされています。

2023年6月にまとめられた性議員の育成・登用に関する基本計画においても、今後10年で党の女性国会議員比率を30%に引き上げることが明記されています。また経済界においても、プライム上場企業に対して、2030年までに女性役員比率を30%にするよう目標が設定されていますね。この30%という数字は、クリティカルマス理論と一致します。

一方、クリティカル・アクターとは。

むしろ、個別の局面では、他の女性たちを巻き込み、立法活動を推進する能力を持った「クリティカル・アクター」と呼ばれる議員が鍵を握るのだという。――『女性のいない民主主義』より

日本が目標としている女性議員30%を達成する国でも、それだけでは男女の不平等を是正する政策が選択されていかないことが近年の調査で明らかになっているとのこと。まずは比率を改善した上で、推進力とカリスマ性のある「クリティカル・アクター」を見つけて登用していかなければならないということです。 

同じ女性であっても、政治家一族の出でしがらみが強い女性や、名誉男性化している女性ばかりでは、真の男女平等・民主主義に貢献してくれるかは疑問です。また最近ですと、海外研修に参加した女性議員たちの振る舞いに対する非難の声が上がっています。自分たちが選んだ女性議員たちがきちんと期待に応え、クリティカル・アクターになってくれそうかどうかも、しっかり見ていかなければなりません。 

ゲートキーパーは「政党」

ちなみに、一度選挙に出てしまえば、女性候補者は男性候補者と互角に戦える。

――『女性のいない民主主義』より

著者の前田さんは、女性候補者の意外な「選挙の強さ」も指摘します。近年の日本の選挙における、候補者と当選者の女性の割合を見てみると、それらの比率はほとんど変わらないそうです。 

つまり、まずはとにかく政治の世界に参加する女性の数を増やすこと。その結果クリティカルマスを実現し、多くの女性議員の中からクリティカル・アクターを育成すること……。日本におけるジェンダー平等を目指す道筋が見えてきました。 

これが経済界であれば、少なくとも新卒採用時点では、一定数の女性は確保できているはず。入社後の処遇やコミュニケーションにおいてジェンダーギャップを感じさせず、結婚や出産などのライフイベントを乗り越えられるような制度設計をし、女性たちのモチベーションを損なわせないのが重要。

政治の世界においては、まず母数となる女性を集める必要があります。そこで注目すべきは「政党」

日本の選挙はいずれかの政党に属していることにメリットがあるので、各政党が女性候補者を集めて擁立することに重きを置くかどうかがポイントとなります。古い価値観に凝り固まった老齢男性が権力を握っている政党では、なかなかこの発想の転換が難しいのではないでしょうか。女性を擁立するとしても、祖父や父が政治家だったというバックグラウンドがある女性でないと信用されなかったり……。「この政党に、女性を擁立する意欲がどれほどあるか」は大事なチェックポイントになりそうです。

私たちの暮らしの基盤となる政策をつくっているのは政治家です。日本のジェンダー平等の足を引っ張っているのが政治界だなんて、本来本末転倒なこと。私たち国民一人一人が厳しい目を持つことで、日本の政治を少しでも変えていきたいですね。

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梅津奏
Writer 梅津奏

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