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自身のPMSをきっかけにコミュニティ事業を立ち上げ、味の素「LaboMe®」代表・橋 麻依子さん

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「PMS (月経前症候群)が辛い……」という悩み、女性なら共感する人も多いのでは? 味の素株式会社が2023年8月にスタートした「LaboMe®」は、PMSを含むセルフケアのためのプロダクト&コミュニティを利用できるサブスクリプションサービス。新規事業として提案したのは、当時入社4年目だった橋麻依子さん。サービス立ち上げに取り組むきっかけには、自身のキャリア実現への思いとも深い関わりがありました。

新規事業は経験がなくてもできるキャリアプランへの挑戦

――味の素に入社してから新規事業を立ち上げるまでにどのような経緯があったんでしょうか?

就職活動ではメーカーを希望していたのですが、なかでも味の素は現地の事情に合わせて海外展開する姿勢や、男女ともに社員が生き生きと楽しそうに働いている様子が魅力的でした。他企業では子どもが生まれた後の女性は、その先のキャリアでも職種が限定されるといった事例を聞いていたのですが、味の素では出産後でも「この仕事をしたい」という自身が思い描くキャリアプランに向かってトライしていけそうだと感じたんです。

橋麻依子さん

味の素「LaboMe®」代表・橋 麻依子さん

入社してからはまず営業の部署に配属になりました。味の素の営業には、スーパーなど小売店への営業とレストランなど外食産業への営業の2種類があります。前者ではブランド認知が重要でCMなどのプロモーションに合わせて営業していくスタイルですが、後者の外食営業では自分で工夫をして、一事業者のように取り組めるのが面白かったです。顧客ごとに求められるものが違うので、自分で自由にいろいろ試して、それぞれにいい提案をしていこうと試行錯誤していましたね。

入社4年目に入り、営業を続けながらも次は本社でのキャリアプランを考える時期になってきて、先輩に相談してみたんです。すると「とにかく営業で結果を出さないと、次には進めないよ」と言われたんです。その女性はキャリア実現のためにすごく努力をしてきていたのもあり説得力がありました。自分も次のキャリアを得るにはやはり何かを成し遂げないと実現できないなと改めて思ったんです。

――そんな時に、味の素の新規事業創出プロジェクト「A-STARTERS」の募集があったんですね。どんな内容の募集だったんですか?

それまでの弊社の新規事業というのは、商品開発のベテラン経験者がキャリアの締めくくりに立ち上げるというのが常でした。ですが、今回の「A-STARTERS」は、そこまで経験はない若手から新しいアイデアを募集して、思いのあるプロジェクトを推進していこうという初の試みだったんです。

そしてこの募集時期が、ちょうど自分も一営業から「マーケターとして商品開発をしたい」という次のキャリアを考えているときでした。両親から「商品開発は目的ではなくて、手段だね」と言われ、誰に向けて何をすればいいのかというのを考えていたんです。「A-STARTERS」であれば、それを考えながら進めていけるのと、「経験がなくてもできる」、翻して言えば「挑戦しながら経験も積める」と思い、手をあげました。

誰のために何をする? まず自分の悩みPMSに向き合ってみた

――そこで、PMSに向き合うためのプロジェクトにしようというアイデアはどこから生まれたのですか?

誰に役に立つプロジェクトにするかを考えたときに、自分が悩んできたことに対してなら案が生まれるだろうと思って「自分が悩むPMSについて取り組みたい」と親友に話したら「実は私もPMSで悩んでる」と初めて聞かされたんです。15年間も仲良しの友達なのに知らなかったということに衝撃を受けました。

LaboMe画面

自分に合ったセルフケアが試せる月額会員制のサブスクリプションサービス

それでFacebookで「PMSで悩んでいる人いますか?」と呼びかけたら、200人以上回答が返ってきて、みんなPMSについてこんなにも言いたいことがあるんだなと気づかされたんです。2019年頃まだフェムテックも出てくる前で、モヤモヤしていてもみんな我慢していたんですね。生理のことがタブー視されていることもあったし、PMSという言葉も浸透していなくて、メンタルが上下するのは半人前で恥ずかしいことだと思っていたんです。

同じ味の素に勤めている夫も一緒にこのプロジェクトに取り組もうと背中を押してくれました。そのときに、「男性からしても、PMSへの触れ方がわからない」と言われたんです。夫がこのプロジェクトに入ることで、この「触れ方がわからない」という部分も変えていけたらなと思いました。

――応募から事業として実現するまでの3年間は、どのように進めていたんですか?業務とプロジェクトは兼務されていたのですか?

応募してから数カ月、中間採択に採用されるまでは、新規事業のことは完全に業務時間外のみの稼働でした。採用された後は、20%の時間をプロジェクトに使っていいというルールでした。といっても営業は続けているので、パフォーマンスは落とさないように上司と相談しながら計画をつくって、ここまで営業ができたら残りの時間で新規事業のことをやるという感じでしたが。

――パフォーマンスを落とさずにというのは大変ですね。具体的にはどのように「LaboMe®」の中身をつくっていったんですか。

アンケートやインタビューをして、こんなサービスだったらいいんじゃないかという仮説を立てて商品のプロトタイプをつくり、それを実際に使ってもらってフィードバックをもとに改善していくというのを何回も繰り返していきました。

実は、採択されるまでは今の「LaboMe®」とは違うアイデアのものを1年間試していました。スマートウォッチのようなデバイスでPMSを予測してセルフケア提案をしようというもので「PMSの波を予測することによってモヤモヤをなくそう」という意図でしたが、いろいろヒヤリングしたり自分とも向き合うなかで、毎月症状も違うPMSの波をなくすというのは辛いし、現実的ではないなというのに気がついたんです。

LaboMeコミュニティ

有識者やコミュニティの仲間と共に、セルフケアを学び、体感するイベントを毎月開催。

この過程でPMSについて話をするコミュニティをつくっていたのですが、話をすることで波がなくなるわけではないけれど、なくすことを目指すのでなく、波と付き合っていくというのが大事なのかもしれないと気付いたんです。そこで起案内容も、PMSの波をあるものとしてどうやって寄り添って生きていくかという方向に変えました。

――コミュニティを作られたのは意義が大きかったですね。どうやってつくられたのですか?

「A-STARTERS」の応募時にFacebookの問いかけに回答してくれた200人のうち40人ぐらいに直接インタビューもしており、そのなかでご意見を聞きたいと思った方に声をかけたり、中間採択時に事務局から紹介いただいたメンターの方に参加いただいたりしてつくりました。壁打ち相手にもなってもらい、ビジョンを言語化して、形にしていくにあたって本当に助かりました。当初20人ぐらいのコミュニティで、そこで試していただく商品を自宅で夫と2人で詰め合わせて送ったりしてたんですよ。

LaboMe会員限定アプリに登録することで毎月セルフケアプロダクトが届く。 出典:LaboMe会員サービス

なかなかきれいに進まなくて不安になることもあったのですが「途中でやめない」という決意のもと、いろんな人に助けてもらったり、一緒に考えたりできたことがよかったと思います。始めたときは「自分の思ったものを自分でつくる」と考えていたのが、人との関わりが増えていくなかで「チームでつくってみんなにとっていいものを目指す」という風に考えを変えていくことができました。

その後に中間採択に選ばれてから、今の「LaboMe®」の形で進め、チームも少しずつ大きくなって、サンプリング商品を自宅から送るというような規模ではなくなってきました。そこで100人のお客様に向けて「LaboMe®」を試していただいたのが、今の原型になっています。

立ち上げの段階で、個人事業者など社外の人にも入ってもらっているのは味の素では珍しいかもしれません。そこに社員や研究所の人も入って事業が大きくなっていきました。社内にこだわらず、思いが共通の人と掲げているビジョンを一緒にやっていこうというプロジェクトなんです。

セルフケアサービスを提供していくなかでの手応えや工夫

――いろんな点で新しい事業ですね。実際に8月1日からサービスを提供されていて、反響はいかがですか?

「LaboMe®」は、月額2,980円(税込み)で毎月テーマに沿ったセルフケアのためのプロダクトとセルフケアの情報やつながりが得られるミュニティの2つを提供するというサービスです。素敵なプロダクトと出会えるという点は満足を得ていただいていると思いますが、コミュニティが盛り上がるにはただ場を作るだけではなく、きっかけとなるコンテンツをもっと投入していかなければならないなと思っています。ただ、今までPMSで苦しいと思ってきたことを我慢しなくてもいいんだというような実感を得ていただく瞬間は増えていると思います。

LaboMEコミュニティ

有識者やコミュニティの仲間と共に、セルフケアを学び、体感するイベントを毎月開催。

コミュニティでは、オンラインでそれぞれの悩みや「3分でごきげんになる方法」などのテーマに合わせて話す場の提供をしつつ、オフラインで月に1回イベントもやっています。「LaboMe®」のメンバー同士が経験を話したり、ときにはゲストスピーカーに来てもらって感じたことをシェアしたり、グループに分かれて話したりするという交流の場になっています。たとえば、6月にはフェムケアのソープをプロダクトとして送ったので、開発者の方やフェムケアのことを発信している方に来ていただいてトーク会をしました。普段なかなか話せないフェムケアや性のこと、Vゾーン脱毛などの話をできて盛り上がりました。

――今後は「LaboMe®」をどのように展開していきたいですか?

PMSをきっかけに始めようと思った「LaboMe®」ですが、今はセルフケアのために生かしていきたいと考えています。女性の悩みや関心は日々いろいろと変わっていきますし、ちょっと話し辛いことも気兼ねなく話せる場をつくって、モヤモヤや不安を解消していけるサービスになればと思っています。

短期的には、「LaboMe®」に入ってくださった方のセルケアの引き出しが増えて、ウェルビーイングな状態を実感してもらえることを目指しています。長期的には、PMSをはじめ「人にはなくせない波があるもの」というように女性や社会の認識を変えるだけでなく、男性や企業の人とも「LaboMe®」を通じて会話を開いていけるようになればいいなと思います。

橋 麻依子(はし まいこ)●2017年に味の素株式会社に入社。BtoB営業を経験後、2020年に社内起業家公募プログラム「A-STARTERS」に応募し、133件のアイデアの中から採択される。2023年、女性のセルフケアのためのプロダクト&コミュニティサービス「LaboMe®︎」をローンチ。 https://labo-me.jp/

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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