Paranaviトップ ライフスタイル ジェンダー/フェミニズム 「自分がいちばん生かされる場所を探して」外資ホテル業界への転職で見つけた、ジェンダーにとらわれない働き方

「自分がいちばん生かされる場所を探して」外資ホテル業界への転職で見つけた、ジェンダーにとらわれない働き方

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2023年8月にオープンした「ホテルインディゴ東京渋谷」。渋谷駅から歩いて3分という好立地にスタイリッシュなデザインで、渋谷エリア独特のアートやファッション、食、カルチャーといった空気が随所に感じられるホテルです。マーケティングマネージャーを務めるChisoさんは、以前はゲーム業界にいたという経歴の持ち主。日本のスタートアップ業界で感じた違和感から、外資系ホテル業界へ「自分が生かされる場所を探そう」と踏み出した気持ちを語ってくれました。

インターン、新卒就職を経て、27歳でフリーランスに

――ホテル業界に入る前までは、まったく違う業界で働かれていたそうですね。

もともとはIT業界出身なんです。大学のときからIT企業に興味があったので、インターンとしてECのスタートアップ企業で働いていました。卒業後は、スマホゲームをつくる会社に就職。渉外も含むマーケティングの部署で働いた後、立ち上げに参画した新規事業が畳まれることになって、営業に異動になりそうになったんです。

IT企業時代のChisoさん

IT企業勤務時代のChisoさん

そんなときにインターンをしていたECのスタートアップの社長と再会し、その会社に戻り、マーケティング職、ディレクター職の二足のわらじでしばらく働いました。ですがその働き方にも限界を感じ、退職することに。その後、新卒時に働いていたスマホゲームの会社のマーケティング本部長と再会し、責任者レベルがいないので戻ってきてほしいと言われ、その会社に戻ることにしました。2回の出戻りを経験後、27歳のときに一度、フリーランスになって企業のマーケティング支援をしていました。

――マーケティング職で企業に戻ったのに、フリーランスになったのはなぜですか?

当時のスタートアップ業界の働き方というのは結構無理をする部分も多かったんです。毎日の出社、長時間労働、自由度のない働き方など、それが自分に向いているかというと、そうは思えませんでした。そもそも会社に属して働くのが、自分に合っているかもわからなくなってきていました。そこで、再就職が難しいと言われる30歳を目前に、フリーランスという働き方を試すなら今しかないと思ったのです。

もう1つは、働いていた会社で経験したジェンダーバイアスへの違和感です。IT業界は若いイメージがあるので、いわゆるセクハラはなさそうに思いますよね。でも、実際は男性優位を感じる場面は多くありました。

「ホテルインディゴ東京渋谷」

ホテルインディゴ東京渋⾕の開放的なテラス。 出典:ホテルインディゴ東京渋谷

たとえば、人事評価でも「笑顔が素敵だからだよ」とか「周りの空気をよくすると思ったから」といった能力やスキルと関係ないことを言われたこともあります。1つ、とても辛かった経験を覚えています。男性社員が失敗続きで回ってきたプロジェクトが、私が担当した後にうまく回るようになったことがありました。相手企業の担当者は男性だったのですが、上司に、「彼があなたのことを好きだから上手くいったんだね」と言われたんです。進行方法など業務上の改善策が明らかに効果を出したにも関わらず、そう言われたことはとてもショックでした。きっと同じような経験をしている方も多いのではないでしょうか。

また、会食の場などでは、上司から女性として見ていると言われたこともありました。経験していた2社とも、経営戦略などトップに立って力を持っているのは男性で、総務などバックオフィスを担当しているのは女性が多いという組織構造にもギャップを感じていました。

男性中心の組織だったので、女性の働き方にも理解がありませんでした。私は、働きすぎたり、プレッシャーを感じたりすると生理痛が重くなるタイプなのですが、働けない日が1日でもあると、結果は出していても評価が下がることもありました。口では「うちの奥さんもそうだから気持ちはわかるよ」と言われるのですが、評価を下げられてしまうのがプレッシャーで働きすぎてしまうという悪循環になっていました。

今までの違和感に答えをくれた衝撃の一冊

――フリーランスになったら、それらのことからは解放されて働きやすくなりましたか?

独立するまでは、どれだけスキルアップできるかという視点で仕事をしていました。ですが、フリーランスになって、どんな事業をしたいのか、それを通して社会に何が貢献できるのかということを考えるようになりました。なので、理念が素晴らしいものの、まだスタートアップである小さな会社を中心に、マーケティング支援をするようになったんです。​​

ですが、フリーランスとしてお金を稼いでいく以上、自分の仕事の範囲に線引きをして、それ以外はやらないといった割り切りが必要です。小さな会社の支援だとどうしても業務の幅が増えてしまいがちですが、そういった場合に都度報酬の交渉が必要となります。それがストレスになり、結果としてフリーランスは辞めて再び会社に所属することにしました。

――適性を知る機会になってよかったですね。その後の就職はどうされたのですか?

マーケティングの仕事は場所に制限されることもないし、日本から出てしまおうかと考えて、ベトナムでの仕事を探したり、海外駐在のエージェントに登録してみたりもしました。

それで就職したのが、シンガポールを母体とする、物流問題を解決するDXサービスの会社でした。日本の企業でしたが、シンガポールに母体があるので、将来的には海外に行けるチャンスがあるかもと思ったんです。入社してみるとまったくそのチャンスはなく、古いタイプの日本企業のような会社でした。

――理想の会社にたどり着くのは難しいですね。今のホテル業界に行き着いたのはどういうきっかけからでしょうか?

仕事をすること自体は好きなのに、どうしてストレスが溜まるんだろうと考えていたときに、1冊の本と出会って、自分の今の状況がものすごく腑に落ちたんです。

それは『ぜんぶ運命だったんかいーーおじさん社会と女子の一生』(亜紀書房刊)という本で、笛美さんという広告代理店で働く女性がフェミニズムと出会い、変わっていく過程をまとめたエッセイ本でした。容姿で判断されたり、会議での意見も通らない、といった経験が、結局は日本の社会であり会社が男性中心に回っていることに起因していたことに気づくまでの日常が描かれているのですが、読んだときに「これはまさしく自分の状況と同じだ」と思えたんです。

今まで自分は職場で働く人として見られていたのではなく、女性として見られていたんだ――そう思うと、自分の努力だけではどうしようもない、スキルを伸ばすだけでは解決できなくて、「自分が働きやすい環境を求めていくしかない!」のだと思い至りました。日本の「おじさん社会」には求める環境はないと察し、なんとかして外資系や海外で働くことを本格的に目指して動きはじめたんです。

物流企業にいるときから、将来的に外資系や海外で働くことを視野に入れるのであれば、英語力をもっと伸ばす必要があると感じていました。英会話スクールなどには行きませんでしたが、一人暮らしからシェアアパートメントに引っ越して、そこで暮らす海外の方と英語で会話をするようになりました。さらに、交友関係も広げ、日常的に英語を使う環境をつくりました。だいたい1年くらいかと思います。その上で、仕事でも英語を使ったという実績をつくらないといけないと思い、LinkedInを使い英語で職探しをはじめたんです。

男女の差なく「自分らしく働ける」場所へ

――それまで理想の会社との出会いがなかったなかで、今の職場に決めた理由はなんでしたか?

まず、「ホテルインディゴ東京渋谷」ではボスとなるレベッカ・ソーン総支配人がダイバーシティにとどまらず、社会問題全般に高い意識を持っていることに惹かれました。入社に際して「ホテルでは髪の色やファッションに制限があるかと思いますが、どんなルールがありますか」という質問をしたら、レベッカは「制限は設けないので、ネイルもタトゥーもOK。髪の毛をピンクにしてきてもいいですよ」と回答してくれました。従来から黒髪が基準で正しいと決めつけることに違和感を感じていたので、入社を決心する1つの大きな理由となりました。

withRebecca

レベッカ・ソーン総支配人(右)とChisoさん

そして、IHG(インターコンチネンタルホテルズグループ)は、会社全体で社会問題の解決や、ダイバーシティ、LGBTQなどへの取り組みもすごくしっかりしていますし、RISE(ライズ)という女性管理職を生み出すためのプログラムも持っています。今までの会社では、上を目指すという気持ちが持てなかったのですが、ここだったら考えられると思いました。

――「ホテルインディゴ東京渋谷」にもそうした社会問題への意識が現れているのでしょうか?

いちばん、社風が表れていると思ったのがユニフォームを決めていく過程です。まず男女関係なくパンツスタイルのユニセックスなデザインを採用して、ジャケットなど腰まわりのボディラインを個人に合わせて調節し、全員が心地よく過ごせるものにしていたこと。さらに、渋谷のCOTÉ MER(コートメール)という着物と洋服の古着をアップサイクルした洋服を制作しているブランドに、巻きスカートをつくってもらいました。ジェンダーフリーなので、もちろん巻きスカートを男性も選択することができますし、女性だからといって、スカートを履かなければいけないことはありません。

ホテルインディゴ渋谷制服

「ホテルインディゴ東京渋谷」の制服

今はマーケティング・広報担当としていろんな人と出会い、業務の幅が広いのが楽しいですね。今までは、パソコンの数字だけを見て広告効果を測るというマーケティングをしてきて、デジタルで出る数字や仮説を検証することに面白さを感じていました。ですが、ここに来て、感動したり、驚いたりといった人の反応をダイレクトに見られるというのは別の嬉しさだと感じました。

――今までにないやりがいも感じておられるのですね。最後に「夢」と、いろんな仕事にチャレンジしていくための気の持ち方など教えてください。

夢は、一度は海外に出たいということです。今は、英語を使っての仕事をきちんとやるというステップなので、次のステップとして、海外に出るのかオンラインで繋がるのか、いずれにせよ新しい世界に出て自分を広げていきたいですね。私が笛美さんの本に影響を受けたように、そんな自分の経験が、人の助けになるかもしれないと思っています。

好奇心が強く、楽しいことを増やしていこうという性格でキャリアを開いてきました。「死にはしない」のが明確であれば、新しいことにどんどん踏み出してみるという基本姿勢を大事にしたいと思っています。実は「やりたい」と思っていることに取り組むときほど、いろいろ悩んだり迷ったりしてしまいがちです。大事なのはやれないと思う理由をどうつぶすかを考えること。そして最後は「死にやしないから!」と思うことですね。

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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