「元祖ジャニオタ男子」として知られる霜田明寛さん。前著『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)の出版から約5年、2024年12月に著書『夢物語は終わらない~影と光の“ジャニーズ”論~』(文藝春秋)を出版しました。騒動を経て、新しい道に踏み出し始めた旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)に対し、霜田さんが思うこととは?
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推しが炎上すると、魅力を語ることすら許されなくなる
――旧ジャニーズ事務所といえば、2023年から、ジャニー喜多川氏による性加害問題が大きな騒動となりました。元祖ジャニオタ男子である霜田さんは、どう感じられていましたか。
大前提、芸能界であろうが、そうでない場所であろうが、性加害は絶対に許されません。ただ、「ジャニーズ事務所は性加害の起きた芸能事務所である」というだけの見方をすることによって、見えなくなってしまうことがあると思っています。
批判の渦の中で、タレントたちの輝きやジャニーズ事務所が築いてきた文化、実績のすばらしさまで「無かったこと」にされてしまうのは違うと思うんです。創業者はジャニー喜多川であり、源流ではあるとはいえ、その中には、タレント自身やその他の方々が築いてきたものもたくさんありますから。長年かけてつくってきたすべてに目をつぶり、否定するのはおかしいというのが僕の考え方です。
ジャニーズ事務所問題に限らない話ですが、誰かが一度炎上し始めると、第三者がよってたかって何から何まで、昔のことまで掘り起こして袋叩きにしますよね。本人が本来持っていたいい部分や魅力について、ファンたちが語ることすら許されない雰囲気になります。ジャニーズ事務所の騒動でもそういった反応をする人が多くて、僕のところにも過激なコメントがたくさんきました。
SNSには全部を黒か白かの二択で見る人が多いので、僕の考え方はなかなか伝わらず苦しい思いをしました。とくにジャニーズ事務所の問題は、当事者であるジャニー喜多川がすでに亡くなっているという特殊な状況でした。人々の感情が「ジャニーズ事務所=悪!」と日に日にエスカレートしていき、いちジャニオタである僕もだんだん「ファンはどうあればいいのか」がわからなくなりました。すごく辛い時期でしたね。

僕は、どんなものごとも「100%悪」ということはないと思うんです。99%悪でも、わずかにいい部分が含まれているし、ぱっと見いい人に見えても実はグレーなこともあります。先日芸能界を引退した中居正広さんだって、トークがうまくて面白い司会者であった反面、疑惑が出ている人でもあるんですよね。どっちかが成立すると、どちらかが消えるわけではなく、この2つは同時に成立します。僕は、著書の中で「真っ白でも真っ黒でもないジャニーズ」という表現をしました。
――性加害問題によって、事務所の名前もいくつかのグループ名も変更されることになりました。
僕は子どものころにSMAPに憧れ、18歳のときにジャニーズJr.のオーディションを受けました。ジャニーズと共に歩んできた人生といっても過言ではありません。そんな僕が持っているたくさんの思い出と「ジャニーズ」の名前はとても切り離せません。だから、社名やグループ名が変わったときは、まるで思い出の一部が改ざんされてしまうようで寂しかったというのが正直なところです。
5年ぶりの「ジャニーズ本」を文藝春秋から出版した理由
――今回のご著書は、どんなきっかけで出版することになったのでしょうか。
性加害問題をBBCが報じると世の中がザワつき始めた2023年2月ごろ、文藝春秋の編集者さんからオファーをいただいたのがきっかけです。僕が強い意志を持って企画を立てたわけじゃなかったんです。ご存じのとおり、ジャニーズと文藝春秋は非常に食い合わせが悪いです(笑)。本を読んでいない一部の過激なジャニオタのみなさんからは、「文藝春秋から本を出すなんて、霜田は身売りしたんじゃないか」「裏切り者!」といった声を多数いただきました。
僕自身も当初は腰が引けましたし、今でも文藝春秋社のすべてを肯定するつもりはありませんし、そもそもすべては知りません。本文の中でも週刊文春の報道へ疑問を呈したほどです。
ただ、いろいろ考えた結果「この本を文藝春秋から出すのは逆に面白いんじゃないか」と思うようになりました。当時は性加害問題が連日報道されていて、とにかくジャニーズ事務所への風当たりが強い状況でした。比較的フラットなweb媒体でさえ「絶対にジャニーズを褒めてはならない」という空気感で、実際にそう言われたこともありました。だから、どこの出版社でも、僕の「性加害は絶対NG。だけど、事務所の功績やタレントの輝きは変わらない」というスタンスは到底受け入れてもらえないだろうなと思っていました。
だからこそ、出版社はどこであれ、このジャニーズ批判一辺倒の空気に水を差す意味で、僕の考えを世に出すことは必要だと考えたんです。むしろ、“敵陣”に乗り込むことで、「それでも、ジャニーズは素晴らしい」というメッセージもより際立って、説得力が出ると考えました。
もちろん、文藝春秋だから何でもありというワケではなく、「ジャニー喜多川について、たとえ芸能的な実績であっても肯定してはいけない」など修正指示は多く入り、その調整には時間がかかりました。ジャニー喜多川の功績に触れずに、ジャニーズを語ることは不可能に近いですからね。そのやり取りの中で「事務所を全面的に肯定する“意見”はNGだが、ジャニーズに生かされてきたという霜田個人の“経験”ならOK」という出版社側の判断もあり、僕自身の経験も多く入れ込んだ書籍になりました。その意味で、かなり小さい針穴に糸を通すような作業を経てできた書籍です。
ビジネスにも通じる「ジャニーズから学べること」
――霜田さんのご著書には「自分たちで考えることの大事さ」「相手を受け入れ、肯定する育成」など、ビジネスにも通じる示唆があると感じました。
霜田さんの新著『夢物語は終わらない ~影と光の“ジャニーズ”論~』
ジャニー喜多川さんの人材発掘や育成に関しては前著の『ジャニーズは努力が9割』に詳述して、多くのメディアに取り上げていただいたのですが、プロデュースの際にはタレントのルックスだけでなく、人間性ややる気を長期的に見て判断していたようです。
また、これは新刊の方に書いた話ですが、グループのメンバーは、野球のメンバーを決めるように、それぞれの個性がバラバラになりつつも、ひとつのグループとしての方向性ができるように決めていたと中居さんが証言されています。グループ同士も、グループの中でも、個性や色が被らないように組み合わせが考え尽くされています。タレントが放つ輝きには、ジャニー喜多川さんがいう「人形づくりではなく人間づくり」が詰まっていると思います。
井ノ原快彦さんも、2023年に開かれた会見の対応で、その意志の強さと誠実さ、コミュニケーション力が話題になりましたよね。きっと、ジャニー喜多川さんの「人間づくり」に通じている部分があるんだと思います。
――読者の日常生活にも役立つ読み物というのは、霜田さんの執筆スタンスが生きているのでしょうか。
僕が本や記事を書くときは「何かしら、読者の方のお役に立ちたい」と思っているので、みなさんの仕事や日常生活に役立ててもらえるならとてもうれしいです。僕の師匠は、『夢をかなえるゾウ』(文響社)の著者である水野敬也さんです。水野さんは、“面白さ”と“実用性”を両立させる天才で、それを文章でやらせたら右に出るものはない第一人者です。2011年に弟子入りしたときから、水野さんの「ただ面白いだけの話ではなく、誰かの役に立つようなエッセンスを抽出すべし」という教育を受けてきましたので、今でもその教えを破ることなく本を書いています。
それから、僕がやり続けてきた、就活アドバイザーの視点も生きていると思います。僕はかつてジャニーズJr.のオーディションに落ちた経験から、ずっと「なりたいものになれなかったときにどう考えるか?」という問いがベースにあって。自分がアナウンサー試験に落ちた直後に書き始めた最初の就活本も、その延長線上でした。
アナウンサー志望の学生と対話する経験もたくさんしてきましたが、落ちたあとに、起業したり、大手出版社の編集者になったりと、自分の進むべき道を見つけた方も多数います。アナウンサー試験の倍率を見てもそうですが、むしろ、世の中ではなりたいものになれなかった人の割合のほうが多い。ある意味、この経験やノウハウが、今回の新刊にも生かされているというか、この本を通じて“なりたいものになれなかった人”に語りかけているのかもしれません。
話題になった「timelesz project」の新しさ
――2025年はNetflixで配信された「timelesz project」(タイプロ) が話題になりましたね。

ジャニオタじゃなかったけどタイプロは見ているという方が僕の周りにも多かったです! 普通の男の子が、“ジャニーズ”という特殊な環境に投じられて周りと切磋琢磨し、スター候補として育っていくストーリーは見応え十分です。採用する側はどんな観点で新人を採用し、どうやって育てていくか。成長させるためにはどんな環境が必要か。そんな、ビジネスにも生きる要素がたっぷり含まれています。
『ジャニーズは努力が9割』で分析したのですが、育成のカギは「分不相応な体験をさせる」ところにあると思います。一般の男の子に、ジャニーズ流の考え方やカルチャーを教え、大きなステージに立たせる。そうすることで、スターとしての目線を持たせられる。タイプロでは、まさにそれが実践されています。
また、ジャニーズタレントが見せる華やかな舞台の裏側にどんな仕組みがあって、タレントたちがどんな考えで向き合っているのかよくわかります。僕のような長年のジャニオタにとっても新鮮ですし、それがtimeleszメンバーや候補者たち本人の言葉で構成されているのもすばらしいですよね。SNSで大バズりした、菊池風磨さんの名言が象徴的です。
timeleszメンバーの3人が候補者たちと向き合う中で「ジャニーズとは何か」や「ファンに対する考え方」が見えるのは面白いです。普段、コンサートやイベントの後に振り返り的なインタビューが出ることはあっても、リアルタイムの映像で見られる機会はこれまであまりなかったので。
――ほかにも、旧ジャニーズ関連のトピックスで、働く人におすすめのコンテンツはありますか?
2019年の年末から、嵐のドキュメンタリー「ARASHI's Diary -Voyage-」(アラシズ ダイヤリー ボヤージュ)という番組がNetflixで配信されました。その中で松本潤さんが言っていた「『PDCA』に対して、順番が違って、いきなり『Do』がある」という言葉が印象的です。まずはやってみて、どんどん経験値を積んでいく。それがジャニーズ流の育成であり、カルチャーなんだと思います。
あとは、『RIDE ON TIME』(ライド・オン・タイム)です。ジャニーズタレントに密着取材するドキュメンタリーで、これまでKing & PrinceやTravis Japan、SixTONESなど人気グループが出ています。いろんなグループの裏側を堪能できておすすめです!
息を吸うようにジャニーズを推してきた人生
――子どものころから、長年ジャニオタ男子でありつづける霜田さん。推し続ける原動力はどこにありますか。
原動力……。特に「推さなきゃいけない」という義務感があるわけではなく、自然と発生してくる感じですかね。僕自身の人生にジャニーズが色々な影響を及ぼしてくれているので、ジャニーズなしで生きている自分は想像ができません。
仕事にも通じると思いますが、「やろう」「やらなきゃ」と思うことは大抵長続きしませんよね。ジャニーズを推すのは、僕にとっては息を吸うのと同じこと。好きな人のことを考えて、どうしたらああなれるのだろうかと考えるのが、僕の性格に向いているんだと思いますね。
――旧ジャニーズだけでなく、テレビ局やアナウンサーの世界も激動の時期にあります。
これまでなんとなく許されてきた「芸能界独特の空気」みたいなものに対して、世間が「それって、モラル的にどうなの?」という疑問や違和感を持ち、さらにSNSを通して噴出してきた。これ自体はすばらしいことだと思います。今、テレビの力がどんどん凋落し、芸能界の力も弱まってきています。
新刊でも詳述しましたが、「芸能界で成功すること」と「芸事を追求すること」は、一緒にされがちですが分けて考える必要があると思います。ジャニーズは「芸事」が最初にあって、みんなそれに真剣に向き合っている。だからこそ、テレビや芸能界の力が弱くなっても、タレントとしての魅力を失うことなく、ずっと輝いていられるんですよね。
芸能界の力が弱まっているからこそ、芸事を磨いてきたタレントの輝きが際立つはず。芸能界での役割にも、芸事のプロフェッショナルとしても対応できる幅を持っているのがジャニーズタレントなので。いっとき、テレビ番組でジャニーズタレントを起用しない風潮がありました。今、新刊でも指摘した、番組などを“自前で作る”動きが進んでいて、今後は、むしろジャニーズを回避したことが、テレビの首を絞めることになるだろうと思います。
――今後の旧ジャニーズについて、どんな期待がありますか?
かつては、誰と誰がどんなグループを組むのか、それをどうプロデュースするのか、ジャニー喜多川さんの一存で決まっていました。いわば、ジャニー喜多川の感覚のもとにできあがっていた世界です。でも2019年に亡くなってから、まだ彼の目を通っていないグループはデビューしていません。
ファンとしては、ジャニー喜多川の感覚がなくなったことが不安でもありますが、その魂の善い部分は確実に継がれていっているとタイプロを見ても思いました。今後その土壌の上にどんな輝きが生まれるのか。すごく楽しみです!
霜田明寛(しもだ あきひろ)●1985年・東京都生まれ。早稲田大学商学部在学中に執筆活動をはじめ、2009年発売の『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!?』を皮切りに、3冊の就活・キャリア関連の本を執筆。企業講演・大学での就活生向けセミナー等にも多く登壇し、自身の運営する就活セミナーからも累計100名以上のアナウンサーを輩出している。また、編集長を務める『文化系WEBマガジン・チェリー』や雑誌などで記事を執筆。映画監督や俳優を多く取材し、トークイベントの司会なども担当する。自身の観点でドラマ・映画等を紹介するVoicy『シモダフルデイズ』は累計200万回再生を越える人気コンテンツに。ジャニーズタレントの仕事術をまとめた4作目の著書『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)は3万部を突破している。