Paranaviトップ ライフスタイル 暮らし あえて“モノ”として残るZINEを制作。おうち時間全肯定マガジン「mamemame」に、菅野 有希子さんが込めた思いとは?

あえて“モノ”として残るZINEを制作。おうち時間全肯定マガジン「mamemame」に、菅野 有希子さんが込めた思いとは?

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自分のスタイルを自由に表現できる“ZINE”という個人制作のマガジンが、昨今ブームとなっています。2025年5月17日(土)、プロップスタイリストの菅野 有希子さんが、”おうち時間はセルフケア”をテーマしたZINE「mamemame」を発売しました。本記事では、外苑前NEXTWEEKEND HOUSEで開催された販売イベント「mamemame Debut PARTY」の様子をレポート。著者の菅野さんと、過去にZINEを三冊刊行している編集者・千田 あすかさんとの対談より、制作秘話とZINEという表現の可能性についてお届けします。

タイトルに込めた“まめまめしい”暮らしの哲学

千田 まずは、ZINE「mamemame」を制作した背景について教えてください。

菅野 mamemameの制作は、約一年前に執筆した「おうち時間はセルフケア|お客様と同じように自分をもてなす」というnoteに多くの反響があったことがきっかけでした。食器・お茶・リノベーションなど要素はさまざまですが、おうちの中をどのような空間にして、どのように自分を癒しているかという、自分の暮らしを整えるエッセンスを詰め込んだ内容のZINEになっています。

「mamemame」というタイトルは、“まめまめしい”という言葉から取りました。例えば、一気に掃除をして一息つく、洗濯物を干して心がスッとする、といった「ふーっ」と自分を取り戻すおうち時間が、私にとってのセルフケアだなと思っていて。それを表現するときに、静的なイメージの“ていねいな暮らし”よりも、せっせと整える動的なイメージの“まめまめしい”という言葉のほうがしっくりきたんです。

企画段階では、学びやメリットみたいなものは一旦脇に置いて、読者に「どのような気持ちになってほしいか」をゴールにしようと思いました。もし自分ならどのような本がほしいかな?と考えたときに、自分の相棒のようにおうちにあってくれる、ホッとする存在の本がほしいと思ったので、読後に温かい感情を伴う本を作ろうと制作をスタートしました。

自分自身の“B面”を表現する場所としてのZINE

千田 菅野さんは、普段プロップスタイリストとしてクライアントワークをしていますよね。今回のZINEは自分を表現するプロジェクトということで、どのようなおもしろさがありましたか?

菅野 クライアントワークでは黒衣役としてクライアントの夢を叶えるのが仕事なので、例えば「AとBができます、どっちがいいですか?」とよりよい決定のための提案はしますが、私が何かを決定することはありません。だけどZINEの制作では、私が「Aです」と決めていいんだ!みたいな体験が新鮮で、すごくおもしろかったです。

クライアントワークでは、どちらかというとナチュラルでかわいい雰囲気のスタイリングが得意なんですが、今回のZINEでは「本当は自分の持ち味としてはあるけど、あんまり出せてないな」というちょっとエッジの効いた部分も入れてみたかったんです。

そうしたエッセンスを、最初と最後のページにメタルペーパーを挟んでみたり、好きなアーティストの歌詞を引用して各章ごとに英語で入れてみたりして、ところどころで表現しました。普段の仕事の中では出せない、純粋に自分が好き!楽しい!と思うものが、このZINEには詰まっています。

千田 私は以前から、そのエッジの部分を菅野さんの“B面”と呼んでいたんです(笑)。これまではA面しかあまり見えてこなかったと思うのですが、今回のZINEにはそのB面の魅力がたっぷり盛り込まれていますね。

菅野 自分の趣味的な部分を出すことに需要があるのかな、これをおもしろいと他の人は思うのかなと葛藤する部分もありました。でも、このイベントの打ち合わせで千田さんと好きなページについて話したときに、二人とも好きなページが同じだったんですよ(P26・27)。自分の遊び心100%で作ったページが他の人から見てもいいと感じるなんて、とすごく勇気づけられました。

萎縮する本ではなく“自分を許せる”暮らしの本にしたかった

千田 制作プロセスの展示を見ると、このページのアイデアは最初からずっとあったんですね。それだけ強いアイデアだったのでしょうか。

菅野 そうですね。暮らしの本を作るとなったときに、“ちゃんと暮らさなきゃ”というプレッシャーになる本じゃなくて、自分を許せる本にしたかったので、ちょっとくすっと笑えるような要素は絶対に入れたかったんです。このパジャマでだらしなくピザを食べているビジュアルは、最初にポンと浮かんで「これだ!」と思いました。

だけど、遊び心100%の要素ってわざわざお金を出して買ってくださる皆さんにどのような価値を提供できるんだろう、という不安と葛藤が自分の中でずっとありました。あまり好きな言葉ではありませんが、How toのような実用的な“メリット”がないものじゃないですか。でも、そういう人の心に光を灯すものって娯楽としてのよさがあるし、それはそれで価値あるものなのだと思えるようになったのは、すごくいい経験だったなと思います。

私はこれまで連載などでHow to的な内容も出していて、そうしたコンテンツは知識のない最初の段階では助けになるのですが、最終的にはみんなそれぞれ自分の好みや、自分にとって本当に心地いい生活とは何かを、自分で選んで決めていかなきゃいけない。誰かが示した正解をなぞるだけだと、身が入らない人生になってしまう。だから自分が本を作るならば、正解を押し付けるものにはしたくなかったんです。

商業出版ができないから自費出版の時代ではなくなった

千田 菅野さんはもともと商業出版で本を出したいと思っていたんですよね。ZINEを制作したことによって、その夢にも繋がりやすくなったんじゃないかなと思うのですが、いかがでしょうか?

菅野 そうなんです。かねてより商業出版で本を出したいと思っていたのですが、出版社さんに持ち込めるだけの企画書が自分で書けなくて。商業出版となると、私のことを知らない人にも店頭で「この本いいな」と思って買ってもらえるものじゃないといけない。“売れる本”と思ったときに、自分の中でハードルが高くてまとめきれなかったんです。

本を作りたい気持ちだけはあるなかで、何も動いていないまま年月が経ってしまって……そのうちにZINEや文学フリマのブームで熱量がどんどん高まって、周りでZINEを作っている人も増えてきて。昔はチープな作りのものが多かったけど、今回ご協力いただいた藤原印刷さんのように、プロフェッショナルな仕上がりのものを作ってくれるところも増えていると知りました。

以前は商業出版ができないから自費出版といったネガティブなイメージを持っていましたが、商業出版でできることと個人だからこそできることって違うし、それぞれのよさもあって、ZINEの制作を経験したからこそ出版の道が開けるパターンもあります。

そうして、ZINEもこれはこれでひとつの道だなとポジティブに思えるようになったので、mamemameを作ることができました。いつかは商業出版で本を出してみたいですが、自分で売る力を持っている人やクリエイティブにこだわりたい人なんかは、自然とZINEを選ぶ時代がもう来ているのかなと思います。

紙の本で届けたい、モノとして“残る”という体験

千田 「おうち時間はセルフケア」のnoteに多くの反響があったように、このZINEの内容をnoteやInstagramで書けば、インターネットで広く拡散されるわけですよね。でもあえてZINEという形にした理由は何だったのでしょうか?

菅野 私はこれまでSNSやnote、YouTubeもやってきて、いくらでも発信する手段があるなかで「なぜZINEを作るのか?」というのは、言語化できてないとダメだなと思いました。制作の最初の段階で「自分が本に対して感じている価値とは何か?」を改めて考えてみると、物体としての手触り感だったり、雑貨としての存在感という部分に、大きな価値を感じていることに気がつきました。

mamemameは暮らしの本なので、単なる読み物として情報を得て終わるのではなく、部屋に飾ってあったり、ソファーの横に何気なくあったりした時に「なんか私の部屋っていいじゃん」と思ってもらえるような、“雑貨としてのよさ”も追求したかったので、デザインや紙の質感にもすごくこだわりました。

菅野 あとはいろんな方とお話したときに、さまざまな形で発信しているせいもあってか私の印象がすごく断片的で、散漫になっていると感じていました。自分のコアな部分を伝えたい場合には、何か一本筋が通ったものがあったほうがいいな、と思ったこともZINEという形を選んだ理由のひとつです。その人の持ち味や本当に伝えたいことを一貫した世界観として見せることは、SNSのように流れていく情報ではやっぱり難しい。一冊の本としてまとめる意味ってあるんだなと、ZINEを制作してみて思いました。

千田 私もZINEを制作したときに、ネット上の情報よりもずっと丁重に扱ってもらえて、口コミ的な本当に愛がある広がり方してくれるなというのを実感しました。

菅野 自分自身がおもしろいものを作ると、自分と似た人が共感してくれるんですよね。自分が一番の読者として最大限に好きにならないとダメなんだなと学びました。約一年に渡る制作期間、さまざまなことに対して「本当にこれでいいのかな」と迷いながら、何もかも手探りで本当に大変でしたが、製本されたZINEの物体としてのよさをしみじみと実感したときに、ようやく心から愛せるようになりました。おうち時間のお供に、mamemameを楽しんでもらえると嬉しいです。

>>mamemameの詳細はこちら

菅野 有希子(すがの ゆきこ)● プロップスタイリスト。雑誌・書籍・WEBメディア等で食や住といったライフスタイル提案のスタイリングを行う。Hanako Webにて「”センスがいい人”になりたくて」連載中。リノベマンションに住むうつわ愛好家。
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