この春、新たなスタートの季節を皆さんはどう迎えましたか? 転職や異動で環境が変わったり、職場のメンバーが変わって新しい人間関係が生まれたり。ほかにも昇進や引っ越しといった新生活の変化は、一見すると前向きで喜ばしい出来事のように思えますが、同時に気分の落ち込みや疲れを感じる人も。それは、脳が“変化そのもの”に大きなエネルギーを使うからであり、「良い変化」かどうかに関係なく起きることなんです。今回は、こうした良いストレスとの付き合い方についてお話しします。
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脳は「いつも通り」が好き
私たちの脳は、本来とても省エネを好む臓器です。いつもの道、職場、人間関係、生活リズム……こうした“慣れた環境”では、脳はあまりエネルギーを使わずに済みます。
しかし春は、その「いつも通り」が一気に変わる季節です。 新しい職場、上司、同僚、役割などに加え、家族の入園や入学が伴う人もいるでしょう。脳はそんな変化に対して常に「どう振る舞えばいい?」「失敗しないかな?」「空気を読めているかな?」「次は何を準備するんだっけ?」 と、フル回転で情報処理をしています。例えるなら、パソコンで大量のアプリを同時に開いているような状態。だから疲れるのは当然なのです。

嬉しいことのはずのことなのに、なんで疲れるの?と感じるかもしれません。とくに真面目な人ほど「こんなことで疲れるなんて」「もっと頑張らないと」「みんな普通にやれているのに」 と、自分を責めてしまいがちです。しかし、厄介なのは“楽しい変化”でも脳は疲れるということです。 結婚や出産、昇進など、一見ポジティブな出来事も、実は大きなストレスになります。
心理学では、ストレスには「悪いストレス」だけでなく、「良いストレス」もあると言われており、新しい挑戦や環境変化は、人を成長させる一方で、脳にとっては負荷でもあるのです。
「ちゃんとしなきゃ」が、自分を追い込む
とくに春は「ちゃんと適応しなきゃ」と無意識に力が入りやすい時期です。そんな中で「良い印象でいたい!」 「迷惑をかけたくない!」「ちゃんとやらなきゃ!」……そんな思いが積み重なると、人は知らないうちに緊張状態を続けてしまいます。これは、責任感が強い人ほど注意が必要です。 疲れていても「まだ大丈夫」「今は頑張りどき」「ここで弱音を吐けない」と、自分の疲労を後回しにしてしまうからです。
精神科の診療でも、”真面目で頑張れる人”がある日突然、朝起きたら「あれ?起き上がろうと思っても身体が全然動かない……」ということがあります。頑張ろうという気持ちとは裏腹に、動かないといけない、頭ではわかっているのに身体が動かない……そういったケースは決して少なくありません。
頑張れることは、素晴らしい能力です。でも、“頑張れる”と“壊れない”は同じではありません。

子どもの変化は、親の脳にも影響する
さて、ここで子どもがいるお母さんの話も。この時期、保護者の方からよく聞くのが「子どもが不安定で、こちらも余裕がなくなる」という声です。
私の息子も保育園に通っていますが、4月は毎朝親と離れたくない子どもの泣き声が止まりません。今までずっと一緒にいた親と離れて、急にほかのお子さんもいる環境に行くのは子どもにとってはすごい勇気のいること。そんな新しい環境に適応している子どもは、家では不安定になりやすいものです。
不安定の出し方もその子によって、急に甘えが強くなったり、癇癪が増えたり、夜泣きが出たり、登園しぶりが出たりとさまざま。子ども自身も、小さな体で一生懸命頑張っています。すると親側も、「今日は機嫌大丈夫かな」「園でうまくやれてるかな」「また夜泣きするかな」と、常にアンテナを張る状態になります。
つまり春は、“子どもだけが頑張っている季節”ではなく、親の脳もずっと緊張している季節なのです。
とくに働きながら育児をしている人は、仕事では“社会人モード”、家では“親モード”と、頭を何度も切り替えており、これだけでも脳にはかなりの負荷がかかります。
「なんだかずっと疲れている」……それは、怠けでも気合い不足でもなく、脳が一生懸命環境に適応しようとしているサインかもしれません。

ストレスを「悪者」にしすぎない
では、こうしたストレスを減らすにはどうしたらいいのでしょうか。大切なのは、「ストレスをゼロにしよう」としすぎないことです。変化がある以上、ストレスそのものを完全になくすことはできません。ですから、変えるのは”ストレス”そのものの捉え方。そのストレスを「危険」ではなく、「適応している途中」と捉えてみる。それだけで、脳の反応は変わり、自分へのプレッシャーは少し和らぎます。
また、新生活の時期ほど、“変えないもの”を意識的に残すことも大切です。お気に入りの飲み物。夜のルーティン。好きな音楽。家族とのいつもの会話。脳は、「いつもの安心」があるだけで負荷を下げやすくなります。身の回りの簡単な”お気に入り”を持っている人はとても強いです。なぜなら、お気に入りはちょっとだけ自分の気持ちを上げてくれるから。
趣味をしようとか、大掛かりな行動をしようと思うと「今そんなことをしている時間はない!」とできない自分に対し、逆にイライラしてしまう可能性も。でも、身の回りのちょっとしたお気に入りを持っておくと、ほんの少しだけ気分が晴れやすくなります。
こうして見ると、春は「できていないこと」にばかり目が向きやすい時期なんですよね。でも本当は、朝起きられた。子どもを送り出せた。仕事に行けた。今日一日を終えられた。それだけでも十分、小さな適応の積み重ねです。脳は、“できている感覚”を持つことで安心しやすくなります。だからこそ、自分に対して必要以上に厳しくなりすぎないことが大切なのです。

「疲れる」のは、頑張っている証拠
春に疲れるのは、あなたが弱いからではありません。それだけ多くの変化に向き合い、適応しようとしているからです。責任感が強く、周囲に気を配れる人ほど、“頑張れてしまう”ので、自分の疲労に気づくのが遅れます。
だからこそ「まだ動けるうちに休む」「安心できる時間をつくる」「完璧を目指しすぎない」ことが、とても大切です。
新生活をうまく乗り切る力とは、無理を続けることではなく、自分の脳を安心させながら目の前のことをできた自分に一個ずつマルを付けてあげるようにしてあげる、そうして変化を楽しむ第一歩にしていきましょう。










