「外国人との交流」というと、お互いの国の話を聞く異文化交流パーティのようなイメージがありませんか? 大学の英米語学科を出て、製造業の多い愛知県岡崎市で働いていた長尾晴香さんもかつてはそうだったと言います。でも、日本に住んでいる外国人の存在を知り、「日本で働く外国人のために本当に役に立つ情報は何?」と疑問を持ち始め、地域の多文化共生を進めるためのNPO団体「Vivaおかざき!!」を立ち上げることに。そして、企業への働きかけを目指して株式会社も起業。資金を得るための持続化補助金申請をプロボノでサポートした小山晋資さんも交えて、事業として続けていくようになるまでのお話を聞きました。
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「国際交流パーティ」では肝心なことは何も伝わらない
出典:Vivaおかざき!!
――まず、長尾さんが今、運営されている「Vivaおかざき!!」の活動と成り立ちをお聞きしたいと思います。
長尾 「Vivaおかざき!!」は、国籍や文化の壁を越えて誰もが「住んでよかったViva(=バンザイ)おかざき」と思える地域社会を目指して、外国人住民への情報提供や、地域の日本人と外国人の交流の場づくりを行っています。
私は長野県の出身で、大学を出て就職で岡崎市にやってきました。英語専攻だったので国際交流には興味があって、最初は岡崎市国際交流センターの国際交流ボランティアに参加していたのですが、これは外国人の方たちとのパーティが主流だったんです。
ここで、愛知県で働く外国人事情をお話ししないと背景がわかりにくいと思うのですが、愛知県はものづくりの県で、中小企業製造業で働く外国人労働者が多いのです。いちばん多いのがブラジル人、ほかに中国、フィリピン、べトナム人などです。なので、英語が共通言語とも言えません。多くの方が、「出稼ぎ」から「永住」へと指向が変化してきています。
製造業の労働力として外国人が必要不可欠な状況で、まず在留に門戸を開いた対象が日系外国人でした。日系といっても日本で生まれ育っているわけではないので、日本語がわからない。一方では、岡崎市でも高齢化が進んでいて、「日本人と外国人が共生できなければ地域社会が継続していかない」時代になっています。それに対して、行政から外国人の方が日本で暮らすにあたっての情報は十分に発信されていません。その時に、やるべきことは異文化交流のパーティではないと思ったんです。
――そこで一歩踏み込んで「Vivaおかざき!!」を立ち上げるきっかけはなんだったんでしょうか?
長尾 2008年に岡崎で豪雨があった際に、何を見て、どう行動してよいかわからなかったという外国人の方が非常に多かったんです。命に関わることなのに外国人の方には何も情報が伝わっていないということに危機感を覚えました。
もう一つは仲間との出会いです。元々は出稼ぎで来日していて、市役所で通訳をしている日系アルゼンチン人の女性と、元保育士の日本人女性と知り合いました。3人とも、外国人住民への情報共有についての課題感や外国人教育の重要性などについて同じ思いを持っていたんです。それで2010年に9月に「Vivaおかざき!!」を立ち上げました。
地域での関係づくりから企業への働きかけへ
――活動はどのように広げていったのですか?
長尾 日本で暮らすにあたっての情報をもっと知ってもらえればと思ってスタートしたのですが、チラシを翻訳しても、通訳をつけても、セミナーだけでなく交流イベントでも結局は日本語がわからない外国人の参加率は低くて……。
そこで、どんな活動だったら来てもらえるかと聞いたら「子どものための日本語教室だったら行く」という意見だったんですね。そこで日本語教室を開催して、子連れで来てもらえるようになり、大人のための日本語教室にもなっていきました。
しかし、その中で、外国人が日本の就労現場で苦労している話を耳にするようになりました。同時に、企業から外国人の雇用で困っているという相談も増えてきました。ことばや仕組みの違いによって、能力を生かせなかったり、外国人が企業に評価されにくい存在になったりしていると感じ、NPOとは別に株式会社をつくり、企業内での外国人材の教育サービスも提供していこうと考えています。
――そこで、日本の女性リーダーの育成プログラム(Japanese Women's Leadership Initiative、以下JWLI)の合宿型研修「ブートキャンプ」を受けられたんですね。
長尾 はい。2019年でした。JWLIは、2006 年にアメリカ・ボストン在住の慈善事業家が、日本の女性達のために2006年に立ち上げた研修で、起業家教育で有名なボストンのバブソンカレッジでの研修などを含む4週間のプログラムです。それ以外に「CCJA(チャンピオンチャレンジ日本大賞)」とJWLIのプログラムを3日間の合宿型研修に凝縮した「ブートキャンプ」があり、2019年は名古屋で開催されたんです。
さらに今回のCOVID-19対策として、2020年3月下旬に「JWLI 緊急支援ファンド」ができて、このファンドにも選んでいただきました。ファンドを利用して「コロナウイルスの影響で失業、生活困窮した外国人住民の支援」として情報発信や食糧支援をしています。このファンドは、JWLIの卒業生が選定やサポートに関わっていて「エコシステム」と呼ばれているんです。一方で、文化庁事業を活用して、企業の中で日本語を教える教師向けの研修を実施中で、外国人を支える人材育成もしています。
「社会的な活動で感謝をされる」喜びを経験
――長尾さんと小山さんとの出会いもJWLIを通してですか?
小山 私は企業の法務部で働いていますが、3月半ばからコロナによるリモート勤務で家に籠り切りで、社会からも隔離されているような気分だったところに、以前卒業したグロービス経営大学院の柴沼先生がされている勉強会でプロボノの募集があったんです。
また、以前にNYの金融機関で働いていたことがあり、アメリカではこうした公益に貢献するプロボノ活動が法律事務所や業務委託先を選ぶ選定基準にもなっているぐらい一般的なことでした。そこで、この機会に一度やってみようと思ったわけです。
――実際にはどんなことをプロボノでされたのですか?また、お互いにプラスだった点はどんなことですか?
小山 この中小企業庁の「小規模事業者事業化補助金」の申請は、なぜ補助金が必要なのか、どういう項目でいくら使うのかを具体的に盛り込まないといけません。JWLIからの依頼があってから提出までの期間がとても短くて、私たちの場合は5日間しかありませんでした。グロービス出身者でチームを組んで、具体的な企画への予算算出などは得意な人が担当し、私は補助金の申請要項と整合しているかの確認や、全体のまとめを担当するなどしてサポートしました。
長尾 小山さんたちのプロボノがなかったらとてもこのスピードでは申請できなかったと思います。また、申請を通すためには何を説明しなければならないかという前提が自分達にはわからなかったので、客観的に教えてもらえたのがよかったです。
小山 通常の業務とはフィールドが違うところでスキルが生かせることと、それで自分の見方を広げるというのがプロボノ参加の目的でした。また、仕事で対価を得るのとは違い、社会的な活動で感謝をされるという経験もよかったですね。
――今回の補助金を得たことや経験を踏まえて、今後どんなことをやっていきたいですか?
長尾 現状の日本語教育のコンテンツは、日本語学校の留学生向けのものに偏っていて、企業が働く外国人に学んでほしい日本語とは異なっています。日本で働き、生活している外国人住民にとって、実際に知って役立つコンテンツを作ってみたいですね。また、日本のどこにいても外国人をサポートできる仕組みやキャリア教育や、仕事とのマッチングなどもやっていきたいですね。
小山 プロボノは初めてでしたが、社会的なニーズに誰かがスポットを当てて、それを手伝える人が手伝うというのはいい仕組みだと思いました。自分は東京に住んでいますが、JWLIでは相手がどこにいても助け合う機会を与えているところがいいですね。今やオンラインで知見を分け合える時代なので、こうしたつながりを今後も生かしていきたいです。
オンラインイベント「プロボノがつなぐシアワセな関係」開催!
相原恵さん(プロボノ)
大山晋さん(プロボノ)
小山晋資さん(プロボノ)
長尾晴香さん(JWLI Bootcamp卒業生)
矢上清乃さん(JWLIフェロー、JWLI Bootcamp共催)
草野由貴(フィッシュファミリー財団ジャパンオフィス ジャパンプログラムマネージャー)