最近、議論を巻き起こしている「同性婚」問題。東京都渋谷区や世田谷区など一部の自治体では同性パートナーシップ制度ができていますが、この制度は結婚した場合と同じ保護を与えるものではありません。日本の法律ではいまだに認められていない同性婚ですが、「性的マイノリティの人権問題は、すべての人にかかわっています」と語るのは、弁護士の寺原真希子さん。「結婚の自由をすべての人に」訴訟東京弁護団 共同代表でもある寺原さんは、性的マジョリティでありながら、同性婚の実現へ向けて活動してきた一人です。そのモチベーションは、どこからくるのでしょうか。
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「法律上の『ふうふ』として扱われない」という理不尽
――日本で高まってきている「同性婚」への動き。海外では、正式に認められているんですか?
2001年に、オランダで同性婚制度が認められたのが始まりでした。同性婚は今や30の国と地域で認められていて、G7の中で同性カップルへの法的保障がないのは、日本だけです。
――21年3月、札幌地裁で「同性婚を認めていない現在の法律は憲法違反」という判決がくだりました。
あれは大きな一歩でした。ただ、政府はその後も、同性婚に対して消極的な姿勢を崩していません。2019年に野党から婚姻平等(同性婚)法案が提出されましたが、政府は「家族のあり方の根幹に関わる問題なので、慎重に判断しなければならない」の一点張りです。
――同性婚が認められていないと、具体的にどんな問題が生じるんでしょうか?
普段あまり意識されていないと思いますが、実は結婚には無数の権利・利益がくっついていて、法律婚をしたカップルは法律でとても手厚く守られているんです。例えば配偶者としての相続権、子どもに対しての共同親権、離婚したときの財産分与などですね。税制にも配偶者控除があったり、社会保障上もさまざまな優遇制度がありますし、お互いに扶養しあったり、助けあって生きていく義務もあります。
――そういう一連の権利が、同性カップルには与えられないということですね。
はい。同性カップルは法律婚ができないので、例えばパートナーが入院して意識不明になっても、病状を教えてもらったり手術に同意するという立場に、当然にはなりません。同じカップルでも、異性同士なら事実婚の状態でも住民票に「未届けの妻(夫)」などと関係性を記載でき、社会保障上の権利も認められますが、同性カップルには認められていません。コロナ禍になってからは、「パートナーがコロナで入院しても、それを知らせてももらえないかもしれない」という不安も聞きます。さらに、同性婚が認められていないという事実が、国が「正式な関係」だと認めていないという負のメッセージとなり、性的マイノリティへの差別・偏見を助長しているという側面も否定できません。
「性的マジョリティ」なのに同性婚に力を入れる理由
――寺原さんは、Marriage For All Japanという、同性婚の実現へ向けたキャンペーンを行う団体の代表理事としても活動されています。
私は、Marriage For All Japanの代表理事、そして「結婚の自由をすべての人に」訴訟における東京弁護団の共同代表という2つの立場で、同性婚の実現へ向けて活動しています。訴訟は全国5カ所で進行中ですが、札幌に続いて東京でも「憲法違反」という判決を勝ちとりたいと考えているところで、弁護団は全員無償で参加しています。。
Marriage For All Japanは、訴訟を全面的にサポートするとともに、イベントや動画拡散によって世論を高めたり、同性婚を認めるための法律改正を速やかにしてもらうよう、国会議員と面談したりといった活動をしています。50〜60人のメンバーがいますが、事務スタッフ2名を除いて全員無償のボランティア。弁護士だけでなく、会社員やLGBTの活動を長く続けている人など、さまざまなバックグラウンドがあります。
――Marriage For All Japanの活動も弁護団も、いずれもボランティアでされているんですね。寺原さんは異性愛者という性的マジョリティでありながら、なぜ積極的にかかわっているんでしょうか。
きっかけは個人的な話になりますが、私の父が母に暴力をふるうDV家庭で育ったこと。自分が母に何もしてあげられない無力な存在であることを痛感した幼少期だったので、「自分らしく生きられない、辛い思いをしている人の力になりたい」という気持ちで弁護士になったんです。
弁護士の仕事をしながらやはり無償で女性支援の活動をしていた中、2010年にLGBTの方々の苦悩を知る機会があって、母の問題との共通点を感じました。子どものころの私は無力だったけど、今は法律という武器を持って立ち向かえる、自分がやれることはすべてやろうと決意しました。
みんなの「無関心」が差別を放置する
――同性婚について、異性愛者などの性的マジョリティができることは何かあるのでしょうか?
普段、自分の家族や友達、同僚が困っていたら、何かしてあげたいと思いますよね。それと同じで、まずは「知るということ」が大事です。その上で、もし何か感じたり考えたり共感したりすることがあれば「誰かに伝えること」。そうやってじわじわ広がっていったらと思います。
あとは、裁判の傍聴に行くのもおすすめです。目の前で原告の生の声を聞くと、この問題の深刻さが実感できると思います。また、傍聴希望者の数が多いということはつまり、その問題が社会的関心を集めているという証なので、傍聴に行くことで、同性婚が世間に注目されている重要な問題なんだと、裁判官やメディアに伝えることもできます。
――性的マイノリティじゃなくても、できることはたくさんあるんですね。
はい! そもそも同性婚がないのは、同性愛者などの性的マイノリティに非があるからではなく、私を含む異性愛者などの性的マジョリティがこの問題に無関心で、結果として差別を放置してきたためです。そういう意味では、性的マジョリティにこそこの問題を解決する責任があるし、その力もあります。マイノリティへの「支援」ということではなく、同じ時代に生きる人として「これは自分たちの問題でもあるんだ」と考えてもらえたらと思います。
ただ法律が変わればいい、わけじゃない
――国会を動かすには、どうしたらいいのでしょうか。
国会が動かないのは、国会議員に悪意があるというよりは、同性婚がないことで性的マイノリティがどれほど困っているのかという苦悩を、国会議員が実感できていないというのが大きな理由の一つだと思います。国会議員の中には、同性婚は都会のごく一部の人の問題だと誤解している人もいるので、性的マイノリティに限らずさまざまな人が、自分の地元から選出された国会議員へ「同性婚を認めてください!」と手紙を書くこともとても有効です。実際に、地元の有権者から手紙をもらって、同性婚への考え方が変わったという議員さんもいらっしゃいます。
――法律が変わることで意識が変わるのと、意識が変わることで法律を変えていけるのと、両方の側面があるということでしょうか。
そうですね。ニワトリタマゴですが、世の中を変えるには法律が変わる必要がありますし、法律を変えるには世論の動きが大事です。例えば、セクハラ。今でこそ絶対NGなものと知れ渡っていますけど、30年くらい前までは「まあ、仕方ないことだよね」と感じていた人も少なくないと思います。司法判断が出たり、国がセクハラ防止の指針を出したりしたことで、みんなの意識が「セクハラ=NG」に変わっていったわけです。法制度によって意識が変わった、一つの例ですね。
同性婚についても、ただ法制度が整えばいいというわけじゃなくて、それによってみんなの意識が変わることが大事だと思っています。性的マジョリティの人たちにこそ、一人ひとりの意識の持ち方が、世の中を動かし、法律を変えていくということを知ってもらえたらと思います。
寺原真希子(てらはらまきこ)●弁護士(日本・NY州)、「結婚の自由をすべての人に」訴訟東京弁護団 共同代表。一般社団法人「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」代表理事、選択的夫婦別姓訴訟弁護団。長島・大野・常松法律事務所等の都内法律事務所勤務,ニューヨーク大学ロースクール留学,メリルリンチ日本証券(株)でのインハウスロイヤーを経て,2010年より弁護士法人東京表参道法律会計事務所共同代表。無償の人権擁護活動として,女性及びセクシュアル・マイノリティーの問題に尽力中。20年には、JWLI(日本女性リーダー育成支援事業)のチャンピオン・オブ・チェンジの一人にも選ばれた。