最近、健康や美容にいいと大注目の「発酵食」。神楽坂の古民家で発酵食の教室を開いてきた「神楽坂発酵美人堂」(以下、美人堂)の清水紫織さんは、2児の母でもあり、オンライン教室の開催、発酵食グッズのEC、そしてパートナーと一緒にシャンパンバルなど飲食業の運営も手がけています。先日、初の著書「発酵料理のきほん」(朝日新聞出版社)を出した清水さんに、みなぎるパワーの秘密、そして手軽にできちゃう発酵食メニューを教えてもらいました。
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アレルギーがきっかけで「発酵」に興味を持った
――発酵食教室を開く前、清水さんはどんなことをされていたんですか?
大学では興味があった犯罪心理学を学び、卒業後は歌手を目指しました(笑)。今とはまったく違う道を歩んでいたんですが、もともとおいしいものを食べるのが好きで、食にも関心があったので、27歳のときに飲食業界に就職しました。はやりのチェーン店の本部で、新業態開発を任されたりして楽しかったんですが、朝から夜中までとにかく働きづめの毎日。体調を崩して肌もボロボロになっちゃって……退職しました。
――仕事が楽しいばかりに、ついオーバーワークになりがちですよね。
はい。でもやっぱり食に関わる仕事をしたくて、30歳手前でスクールに通い、ワインソムリエの勉強をスタートしました。このとき、神楽坂でバーやシャンパンバルを経営していた今の夫と出会って、結婚・出産したんです。
私、20歳を過ぎたころから突然、食材アレルギーが出るようになって。夫も同じくアレルギー体質だったので、子どももひょっとして……と心配になり、いろいろ調べたんです。すると「発酵食品を使って食事を改善し、腸内環境を整える」という方法があるとわかりました。
それで一念発起して発酵食品教室に通い始め、味噌を手づくりしてみたら本当ににおいしい! 最初は、自分や家族の体質改善のためにと始めた発酵食づくりですが、続けていくうちに、自然のうま味こそ『最強のおいしさ』だと気づき、これをもっと知りたいと思うようになりました。
発酵食は日本古来の文化、和の心も伝えたい
――ご自身の体験がきっかけで、発酵食のすごさに気づいたんですね。
そのころ、発酵食がだんだん注目されてきていた時代で。ママ友たちに、味噌や麹、醤油のつくり方を教えて! って頼まれるようになりました。そこから、発酵食という日本文化のおもしろさ、魅力をもっと伝えていきたいと思うようになって、教室をオープンしたんです。
――古民家というロケーション、たすきがけの着物というスタイルがすごく素敵ですね。
プロとして教室を開くなら、学ぶ場の雰囲気も大事にしたいなあと考えたんです。そこでこの古民家を見つけて、教室の看板も手書きしました。実家が呉服屋なので、着物を着るのはもともと慣れてるんです。
――手書きの看板、こだわりを感じます!
ときめきがない場所じゃ、人の心は動かせないですよね。発酵食をつくって楽しかったな、で終わるんじゃなくて、何かしら発見してもらう場にしたいんです。
――生徒さんはすぐ集まりましたか?
最初は1人か2人でした(笑)。でも3ヶ月ぐらい続けていたら、日経MJさんが記事にしてくれて、それがきっかけでメディアに出る機会が増えましたね。J-WAVEの別所哲也さんの番組にも出させてもらって、お問い合わせの数がぐっと増えました。
――教室だけでなくECや、パートナーさんの飲食事業の手伝い、そして家事・育児……どうやってこなしているんですか?
私は美人堂がメインですが、家事や育児も含めてぜんぶ、夫婦で分担しながら一緒にやっています。夫が経理などお金の管理をはじめ、美人堂を手伝ってくれています。飲食事業においては2人で共同経営者になっていて。私はメニュー開発の担当。美人堂とはまた違うメニュー開発で、楽しいですよ!
教室のYouTube配信という新しいチャレンジ
――美人堂の内容を深めるために、これまでどんなことをしてきましたか?
東京農業大学の応用生物科学部醸造科学科に、3年間通いました。最後は2人目を妊娠していて、大きなお腹で本当に大変でした(笑)。でも、発酵のことを体系的に学べてすごく面白かったです。発酵食について、「好き!」っていう感情だけじゃなく、化学の知識を交えて理論的に語れるようになりました。
それから、日本ならではの魅力として発酵食を海外の方にも伝えたいと思い、英語の勉強をしました。フレンチのシェフが発酵食品を料理に取り入れていますし、発酵食のおいしさは世界中で共有できるものなんです。2019年にはフィリピンのセブに2週間、家族みんなで留学に行きました。
――教室の運営に、コロナは大打撃でしたよね。
はい。2020年3月中旬に、20名以上の味噌づくりイベントを企画していて。材料も発注済みだったんですが、コロナでリアル開催がNGに。キャンセルするのはもったいないな……と思って、食材を生徒さんのご自宅にお送りしたうえで、つくり方をYouTubeで配信するというやり方に思い切って変えました。
――コロナをきっかけに、新しいチャレンジをしてるんですね!
それまではYouTubeを見たこと自体あんまりなかったんですけど、お料理系人気YouTuberの動画を見るようになりました(笑)。みなさん、視聴者を飽きさせないための工夫を凝らしてますよね。映画みたいにつくりこまれた動画か、時系列に沿ってやり方を見せていく親近感あふれた動画か、2パターンあるなと気づきました。私は両方のパターンを使いわけてます。
発酵食のルールは「たった3つ」、すごくシンプル
――今年9月にはご著書「発酵のきほん」を出版されました!
本を出したいとは以前から思っていましたが、ここ2年で、コロナで教室に来られない人のために「絶対、発酵食の魅力を1冊の本にまとめたい!」と思うようになりました。でも類書はたくさんあるし……とテーマを思い悩んでいたら、ある日突然「本を出しませんか?」とメールをもらったんです!
――すごい! 何がきっかけだったんですか?
以前『婦人画報』に載った記事を見て、出版社の方がご連絡くださいました。いろんなメディアに出て、あちこちで本を出したいと言ってたのが功を奏しましたね。『発酵のきほん』では、「発酵食は特別なものじゃなくて、普段の食事に少しプラスすればできる」ということを紹介しています。発酵食のルールはたった3つ、すごくシンプルなんですよ。
――えっ、3つだけですか?! その部分だけちょっと教えてください。
こちらです! シンプルですよね。
- 塩を塩麹に代える
- 醤油を醤(ひしお)に代える
- 砂糖を甘酒に代える
本では、これに「漬ける」「味をつける」「あえる」といったテクニックや発酵調味料3品などを紹介しています。もちろん、肉・魚・野菜など材料別に、ハンバーグなどおなじみの家庭料理を発酵料理にするレシピも。
――身近なメニューも、かんたんに発酵料理に変えられるんですね。レシピもぜひ教えてください!
「玉ねぎ麹の卵焼き」と「玉ねぎ麹」をご紹介します! 材料さえあれば、忙しくてもぱぱっとつくれちゃうはず。
玉ねぎ麹の卵焼き
<材料>
・卵 2個
・玉ねぎ麹 小さじ1弱 ※つくり方は下でご紹介しています!
・クリームチーズ 10g
・オリーブオイル 少々
<つくり方>
- ボウルに卵を割り入れ、玉ねぎ麹とクリームチーズを加えてよく混ぜる。
- オリーブオイルを熱したフライパンに1を入れ、卵焼きをつくる。
玉ねぎ麹
<材料>
・玉ねぎ 200g
・乾燥米麹 65g
・塩 20g
<作り方>
- 清潔な瓶に、米麹と塩を入れてよく混ぜる。
- フードプロセッサーで細かく攪拌した玉ねぎを1に汁ごと加え、全体をよく混ぜる。
- 7日間常温で保存し、1日1回スプーンなどで混ぜ、麹が柔らかくなればできあがり。冷蔵庫保存で4カ月以内に食べきる。
――ありがとうございます! コロナをむしろ追い風にして飛躍している清水さん。最後に今後の夢を聞かせてください。
毎日忙しいParanavi読者の皆さん。毎日ゆっくり自炊する時間はとれないし、かといって外食もなかなかできず……と、お料理に対してマイナスな感情がある人もいそうでね。せっかくの食卓をそんな気分で囲むのは、すごく残念! 食材を発酵調味料であえるだけで、健康にも美容にもいい一品ができますよ。私はお料理がみなさんの自己肯定感に結びついて心が満たされていくように、発酵食のレシピや商品をつくっていけたらと思います。
この秋目白押し!出版記念イベント
2021年9〜10月 書籍付きワークショップ、各所イベントの情報&お申し込みはこちらから! いずれも東京開催です。
※いずれも感染対策の上、皆様のご参加をお待ちしております
清水紫織(しみずしおり)●日本ソムリエ協会認定ソムリエ。日本アンチエイジングフード協会アンチエイジングフードマイスター。20代で、突然食物アレルギーを発症。結婚、妊娠をきっかけにアレルギーについて学ぶ中で、腸内環境を整えることによる アレルギーの抑制、食事改善による体質改善を経験する。うま味たっぷりの和食のおいしさや発酵食品を継続して摂る事の大切さを実感し、発酵料理専門の料理教室と食品ブランド「神楽坂発酵美人堂」を立ち上げる。自身も2児の母で「0歳からの腸活」を掲げ、キッズ教室や保育園訪問など 食育にも力を注ぐ。