Paranaviトップ ライフスタイル 旅/留学 「知らない場所に出かける楽しさ」は無限大。地域と若者を繋げる「おてつたび」の挑戦

「知らない場所に出かける楽しさ」は無限大。地域と若者を繋げる「おてつたび」の挑戦

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日本各地の事業者と若者をマッチングする「おてつたび」の経営者・永岡里菜さん。旅先でお手伝いをする代わりに交通費・宿泊費相当の金額が支給されるという画期的なサービスで、ビジネスコンテストでの受賞歴も豊富な、注目のベンチャー企業です。怒涛の立ち上げ期を終え、「魅力のない地域なんてない」とにこやかに語る永岡さんには今、どんな未来が見えているのでしょうか。

「これは、一生かけても叶えたい」と思った

――もともと、小学校の先生という夢をお持ちだったとか。

はい、大学は教育学部に進学しました。でも一度は社会に出て修行しようと思って、新卒で広告のベンチャー企業に就職し、約3年半を過ごしました。ただ、慣れてくるにつれて「私は、どこの誰を幸せにしているんだろう?」という疑問が持ち上がってきて。エンドユーザーの顔が見える仕事をしたいと思って転職し、農林水産省と組んだ和食関係の事業を1年ほどやりました。

――そこから「おてつたび」起業に至ったきっかけは何だったんですか?

きっかけは、私の故郷・三重県尾鷲(おわせ)市ですね。自然豊かでお魚のおいしい素敵なところなんですが、正直その良さはあまり知られていません。でも、考えてみれば当たり前です。東京でもおいしいお魚は食べられるし、観光地は全国にたくさんあるから、どうしても埋もれちゃう。それなら「まず来てもらう」ことが重要だと思うようになったんです。
それで、まず私自身がいろんな地域に足を伸ばしたら、どこの地方も似た課題を抱えているとわかりました。ここで「地方の魅力を自然に感じられるきっかけを作りたい、これは一生かけても叶えたい」と思ったのが始まりです。

――ご自身の体験や思いが、最初にあったわけですね。
はい! まずは興味を持ってくれた全国の旅館や農家の方々とつながって、全国を奔走しました。そうしてできた1つめの事例は、志賀高原で有名な長野県の山ノ内(やまのうち)町でした。ここからユーザーがどんどん増えていって、2019年1月にはリリースに至りました。

一歩中に入れば、現地の「人々の営み」が見えてくる

おてつ旅の実際の様子

おてつたび初期に受け入れてくれた、岩手県八幡平(はちまんたい)市にある「七時雨山荘」

――お手伝いは、具体的にどんなことをするんですか?
旅館などの場合は掃除、食器洗い、接客が中心ですね。農家さんの場合は、収穫のお手伝いが多いです。ユーザー募集の時点でわかりやすく伝えるようにしていますし、ユーザーも自分の特技や強み、やりたい事を記載して申し込めるようにしています。

――交通費や宿泊費がかからず地方に足を伸ばせるってすごい! と思いました。

実費支給ではなく、まとめて一定の金額をお渡しする形式をとっています。現地までの移動手段をはじめ、どこにどれくらいお金をかけるかはユーザーの意思決定にお任せしています。ヒッチハイクで行く方もいますよ(笑)。浮いた分、現地で遊んだりお土産を買いたいといって。

――「理想形」としてイメージされているものはありますか?

例えば「その地域のことを誰かに話したくなる」「大切な人を連れて行きたくなる」「名前を見るだけで嬉しくなる」みたいな、地域の方とおてつたびユーザーの間に、中長期的で温もりのある関係性ができるのが理想ですね。そのためには、地域の外側の部分だけじゃなくて、裏側についても知ってほしい。たった一歩でもその地域の裏側に入らせてもらうと、キレイに作られた「観光地」とはまた違う、現地の方々の営みや文化、大切にしているものを知ることができます。

旅の期間について7〜10日間と長めの設定を推奨しているのは、そんな濃い関係性を作りたいからです。おてつたびは現在、6割くらいの再訪率がありますが、いろいろな共同作業を通じて地域の方とユーザーの間に濃い繋がりが生まれた結果、旅先をいわば「自分の居場所」と感じてもらえている証拠かなと思います。

――参加にあたって、不安に思われるユーザーはいませんか?

はい。そういう不安を取り除くべく、月に1度、ユーザー同士のミートアップを開いています。おてつたびの経験有無にかかわらず、アットホームなゆるい雰囲気で好きな地域について語り合ってもらって、毎回盛り上がります。ありがたいことにこれまで、ユーザーの口コミで広まってきたこともあって、皆さん安心して参加してくれています。

新しいものに対する正解は、誰にもわからない

――終了後、事業者さんやユーザーから、どんな感想が聞かれますか?

地方の事業者さんの共通点は「高齢化と人手不足に悩んでいる」ことです。80代の方が毎日力仕事をしているなんてこともザラです。そこに孫世代の若者が手伝いに来るわけで、人手不足解消はもちろん、来てくれたことそのものがとても嬉しいと言っていただけますね。

逆にユーザーは、例えば旅館の方が客をもてなすために毎日大変な苦労をされていると知って、感動することが多いようです。お客さんを迎える前に部屋を暖めたり、深夜まで料理の仕込みをしたり、お見送りの時はお客さんの姿が見えなくなるまで頭を下げ続けたり……それまで知らなかった小さな気遣いを知って感動した、とよく言われます。

――いちばん苦労されたことって、何ですか?

特に立ち上げ期は、「旅×仕事」という掛け合わせの発想を理解してもらうこと自体、すごく苦労しました。やっぱり「旅=楽しいもの、仕事=辛くて大変なもの」という先入観は根強くて、周りに「旅行先で仕事する人なんているわけない!」って何度も言われました。起業家の先輩に相談して深夜までPCに向き合い、ユーザー調査をしたりFacebookやInstargamに出稿したりして仮説検証を繰り返しました。新しいことに対する正解って誰にもわからないから、どんな小さいことでも結果を積み上げていかないと次のステップにはいけないなって実感しました。

価値あるものが、ちゃんと認められる世の中になっていく

――もはや、「おてつたび」という新ジャンルですね。

そうなんです! 見て食べて楽しむ「旅行」とは別の、「おてつたび」という概念を作りたいんです。知らない地域を知るのってこんなに面白いんだ、というムーブメントを起こしたい。そのためにも、ソーシャルインパクトとビジネススケールの両輪をしっかり回すよう意識しています。株式会社にしたのはその覚悟の表れです。社会に何か価値を提供して課題を解決できるものは、ちゃんと注目され、認められる世の中になっていくと思います。

対象地域は日本全国ですが、特に、長らく応援してくださっている岐阜県の飛騨地域を重点的に展開したいと思っています。飛騨地域の方々や観光協会さんとは、起業した頃からお付き合いがあるんです。おてつたびの可能性を信じてくれている皆さんとのご縁は、どれだけ年月が経ってもずっと大切にしていきたいですね。

――最後に、パラキャリを目指す女性たちにアドバイスをお願いします!

おてつたびも、2つめの仕事として関わっているスタッフが多いです。私自身は崖から飛び降りるように前の会社を辞めて独立したんですが……自分のやりたいこと、自己実現できることをやり続けていれば、自然といろんな縁がつながっていきます。経済的な心配をせず「やりたいこと」にどっぷり浸かれるのは、パラキャリならではのメリットではないでしょうか。

それから企業側も、今は正社員に限らず多様な人材を求めていますよね。特にうちのように、ベンチャーで余白ばかりの状況だと切実です(笑)。皆さんの個性や興味、人柄、培ってきたスキルは、必ず誰かに求められていると思いますよ。

おてつたびはこちら永岡里菜(ながおか りな)●三重県尾鷲市出身。千葉大学卒業後、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。官公庁・日本最大手のEC企業をはじめ数多くの企業のプロモーションやイベントの企画提案・プランニング・運営を一貫して担当。退職後は、農林水産省と共に和食推進事業を0から作り上げ、コネクション0から全国の市区町村と連携し、実際に自分の足を運びながら業務を遂行する。その後フリーランスを得て、地域に惚れ込み起業。困りごとを通じて、地域のファン作りを行うweb上のマッチングプラットフォーム「おてつたび(お手伝い×旅)」を運営する。日経ソーシャルビジネスコンテスト優秀賞 / セイノーホールディング株式会社主催「地方創生ビジネスプランコンテスト」最優秀賞受賞 / 女性起業チャレンジコンテスト グランプリ受賞

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Writer さくら もえ

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