ここ最近、聞くことが多くなった「男性育休」。しかし、女性に比べるとまだまだ少なく、子育て世代が思い描く“理想”には程遠いようです。この現状を打破すべく、育児・介護休業法が改正されました。2022年4月1日から段階的に施行を迎え、10月1日には、子どもの誕生直後8週間以内に男性が最大4週間の休みを取得できる制度、いわゆる「男性版産休」も新設。改正によって、どのように変わったのか、その内容についてまとめました。
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男性育休、取得率も取る日数も依然低いままの現実
厚生労働省が2021年7月に発表した調査(※1)によると、2020年度、男性の育児休業取得率は「12.65%」。2019年度の7.48%と比べて、大きな前進となりました。一方、女性の取得率は81.6%。育休取得率において男女で大きな差があることは、未だ変わらない事実です。
また同調査によると、育休を取った男性のうち、育休期間が「5日未満」の割合が28.33%。これが影響してか、出産後は育児のために仕事を辞めなきゃ……という女性がたくさんいます。第1子出産後には「約5割の女性が出産・育児により退職している」(※2)のが現状です。
男性の育休取得率について、国は「2025年に30%」と目標を定めています。今のところこの目標実現にはかなり遠いため、今回の法改正で状況を前進させようという狙いがあるんですね。
今回の法改正は、段階的な施行を予定しています。いつ、どんな変化があるのか、時系列でみていきましょう。
2022年4月1日〜企業は、育休制度の個別周知などが義務に
すでに試行されているのがこちら。まず、企業には2つのことが義務付けられました。
妊娠・出産(本人または配偶者)を申し出た労働者に対して、育休制度について個別に周知し、取得の意向を確認すること
企業は、申し出のあった従業員に対して、育休中の待遇、賃金の規定なども含めて、制度の内容を周知しなければなりません。また、周知するだけではなく「取得の意向を確認する」ところまでが企業側の義務になりました。これらは義務なので、企業が育休の取得を拒否した場合は法律違反となり、違反した場合の罰則も定められています。さらに、解雇や降格はもちろん、給与を減額するなどの不利益な扱いをすることもNGです。
育児休業の申し出・取得がスムーズになるような環境を整備すること
育児休業の制度が存在していても、職場に「男性なのに育休を取るの?」「休業中、メンバーが減るから迷惑だ」「普通の有給で、数日で済ませてよ」「奥さんがいるからいいでしょ」といった雰囲気があったら、申請しづらくなりますよね。
実際、育休の取得を希望していた男性労働者のうち、希望していたが実際には取れなかった人の割合はなんと4割(※2)。パパ・ママたちの悲痛な叫びが聞こえてきそうです。育休・産休の制度を整えるのはもちろんのこと、男性が取りやすくなるような環境を作るのも、企業の務めですね。
制度があるだけではなく、実際に「申請しやすい環境ができている」「現実的に、使える制度に仕上がっている」というレベルまで引き上げる必要があります。今回、環境の整備が「努力義務」ではなく「義務」として定められたことで、社会全体の意識が少しずつ変わっていきそうです。産休・育休への考え方については、取得する本人や家族だけではなく、職場全体でアップデートしていく必要があります。
有期雇用労働者の、育休取得条件を緩和
さらに、契約社員やアルバイト、パートタイマーなど「有期雇用労働者」といわれる人たちについても、今までより育児休業を取りやすくなりました。
これまでは、有期雇用労働者が育休を取得するには「勤続1年以上」という条件がありましたが、それが撤廃され、勤続1年未満の有期雇用労働者も、原則的には育児休業を取れるようになったのです。ただし、労使協定の定めにより例外となる可能性もあるので、該当する人は職場に確認が必要です。
2022年10月1日〜「パパ休暇」がスタート!ポイントは5つ
10月からは、男性が、子どもの誕生直後8週間以内に、最大4週間の休業を取れるようになります。この「パパ休暇」とも呼ばれる男性版産休は、今回の法改正の目玉! 気になっている方も多いのではないでしょうか。出産した女性は、原則的に産後8週間は働くことが法律で禁止されているため、実質的に男性向けの制度となっています。
この男性版産休、主なポイントはこちらの5つです。
- すでにある育休制度はそのまま。それと別に“産休”を取れるという制度
- 申請期限は、取得日の2週間前(会社に申請すればOK)
- 時期を分けて「2分割」で取得できる
- (労使協定を締結している場合、事前に事業主と合意した範囲内で)休業中の就業も可能
- 育休と同じく、休業中の給与は手取りで「休業前の約8割」ほどになる
既存の育休制度では、スタートの1カ月前までに申請が必要で、これだと「出産予定日がズレた」「産後の入院期間が長くなった」などの事態に対応するのは難しいですよね。なので、2.の「2週間前までに、会社に申請すればOK」に変わることで、柔軟性が高く、不測の事態にも臨機応変に対応しやすくなりそうです。これは、勤め先の会社に申請するだけでOKで、自治体やほかの行政機関などへの特別な手続きは不要です。
また、4.の「一定の条件のもとで、休業中に仕事をすることも可能」という点も注目です。現行の育休制度では、就労は原則不可ですが、この新設された「パパ休暇」では合意の範囲内で就労が可能です。もちろん、育休中に仕事詰めになってしまっては元も子もありませんので、就労には上限の日数が定められています。
5.の「普段の約8割ほどの収入を確保できる」ということも、1つの安心要素ですね。正確には、給与水準の「67%相当」が育児休業給付金として支給され、厚生年金保険料や健康保険料などの負担が免除されるため、手取りで8割ほどになるという仕組みです。
パパが育児や家事をしっかりこなしてくれれば、ママの「産後うつ」防止にもなるでしょう。産後うつは、ママの10人に1人がかかるといわれており、誰にとっても他人事ではありません。そしてそのリスクは、産後〜2週間後にいちばん高くなるといわれている(※3)のです。
また、このタイミングで、育休がぐっと使い勝手のいい制度になります。内容はこちらの2つ。
1歳以降に育休を延長する場合の育休スタート日を、柔軟に設定できるようになる
育休を取れる期間は「子どもが1歳になる前日までの間」が基本ですが、保育所に入れないなどの場合は、最長2歳まで延長できます。ただし、延長した場合の育休開始日が「1歳」または「1歳6カ月」に限定されていました。例えば夫婦で交代して育休を取ろうとすると、この2回のタイミングでしか切り替えることができなかったんです。
10月1日からは、延長した場合の育休スタート日を柔軟に設定できるように、また、育休をパパ・ママそれぞれが2分割で取れるようになります。自分たちの職場やライフスタイルに合わせて、「夫婦で交代して育休を取る」という作戦を立てやすくなりますね! 厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」では、具体的なパパ・ママ交代での育休取得のスケジュールイメージも紹介されています。
2023年4月1日〜大企業では育休取得状況の公表が義務に
従業員1000人超の企業は、男性の育休取得状況などについて、最低年1回の公表が義務付けられます。これまでは、トップレベルの子育てサポートをしているとして「プラチナくるみん企業」に指定された407企業(2022年1月時点)のみが義務づけられていました。
SDGsに取り組む、地球環境に配慮する、ニューノーマルに対応する……といった企業の経営課題の1つに、「育休取得率アップ」が挙げられるようになるでしょう。特に男性が育休を取れない企業・取っていない企業は、今後は消費者からも学生からも、支持されなくなっていくかもしれません。
パパが出産に立ち会いできる保証はない、などの課題も
全体的にポジティブに受け止められている今回の法改正。しかし、課題もまだまだ残されています。主に考えられるのは、こちらの2つ。
- 男性の産休・育休は、出産予定日前をスタート日として申請できない
- 事実上、条件付きで「男性のみが、産休中にも働ける」ようになるため、性別役割分担がかえって固定される
1.は「絶対、立ち会い出産したい!」というパパ・ママにとって、かなり厳しい条件です。休業取得日のギリギリ前、出産予定日の2週間前まで粘っても、実際の出産日を確実に読めるわけではありません。予定日よりも前に出産となった場合は、通常の有給を使って立ち会い出産に間に合わせるしかないのが現状です。
2.は、先述した新設の「パパ休暇」でのみ「一定の条件のもとで休業中の就労が可能」という点です。これにより、名目だけの「なんちゃって産休パパ」が増えることで、ママの家事・育児負担が却って増えてしまうという本末転倒な結果を招く可能性もあります。
今回は、2022年4月から段階的に変わる法制度について解説しました。パラナビでは、もっとリアルな「男性育休・男性産休」を追究するべく、実際に育休を経験したパパたちに取材を実施。日本の現実を掘り下げていきます!
※1 厚生労働省発表「令和2年度雇用均等基本調査」
※2 令和3年1月18日労働政策審議会建議 参考資料
※3 NHK福祉情報サイト ハートネット 2020年1月17日