Paranaviトップ ノウハウ 制度/法律 契約 インボイス制度って何?個人事業主と企業担当者が知っておきたい12のポイントを税理士うばとしこ先生がわかりやすく解説

インボイス制度って何?個人事業主と企業担当者が知っておきたい12のポイントを税理士うばとしこ先生がわかりやすく解説

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

2023年101日からスタートする、インボイス制度。「めんどくさい」「複雑でよくわからない!」「なんだか最近話題だけど、私に関係あるの? そんな声が多く聞かれます。実はこの制度、複業を頑張るみなさんやフリーランスはもちろん、発注者となる企業側にも大きな影響があります。税理士のうばとしこ先生に、私たちがやるべきことは何なのか、そのときの注意点など、気になる12の質問に答えていただきました!

個人事業主には「課税事業者」と「免税事業者」の2種類がある

Q1.「インボイス制度」は耳慣れない言葉ですが、いったいどういう制度ですか?

いろいろな税金がある中で「消費税」にかかわる制度です。まず、個人事業主やフリーランスには「課税事業者」と「免税事業者」の2種類があります。実際には、基準期間(2年前)の課税売上が1000万円に満たない「免税事業者」が大多数です。

  • 課税事業者:その課税期間の基準期間における課税売上高が1000万円を超える事業者
  • 免税事業者:その課税期間の基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者
  • その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間(個人事業者の場合は、その年の前年の11日から630日までの期間、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間)における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間から課税事業者になる。なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできる。

現在は、どちらの事業者も、本体価格に「消費税」を乗せた金額あるいは消費税込の金額(内税計算)で取引を行っています。しかしインボイス制度が始まると、インボイス(適格請求書)の形式をとった請求書でなければ、受領者側が税額控除できないという仕組みに変わるんです。そして、インボイスを発行できるのは課税事業者で、かつ適格請求書発行事業者のみ。制度の開始は2023年10月1日です。

インボイス制度って何?「個人事業主と企業担当者が知っておきたい12のポイント」税理士うばとしこ先生が解説

インボイス制度について教えてくれた、税理士のうばとしこ先生。

Q2.複業の収入が1000万円に届かない人は、消費税を請求するのを諦めなければなりませんか?

課税事業者になるという選択をして、税務署に「登録申請書」を提出し「適格請求書発行事業者」の資格を得ることで、これまでと同様に消費税を受け取ることができます。提出できるのは、2021101日以降。なお、この届出は、2023年3月までにするのが望ましいとされています。適格請求書発行事業者になれるかどうか、形式上ですが審査があるためです。

正確には「課税事業者になる」手続きと、「インボイスを発行できる権利を得る」手続きの2段階があります。ただし、制度開始のタイミングは特例扱いで、この2つが合体した申請書1つで済むことになっています。インボイスに対応することのハードルが高いため、1段階分が緩和されたという経緯があるんです。

Q3.課税事業者になった場合のデメリットはありますか?

毎年3月(所得税は315日、消費税は331日まで)に確定申告を行う際、消費税の申告もしなければならなくなるという点です。消費税の申告は、かなり煩雑です。今だってかなり面倒なのに……と不安になりますよね。

消費税の申告が負担な場合には、簡易課税の適用条件を満たしていれば、「簡易課税制度」を使うことでだいぶ楽になります。自分が取引先から受け取った消費税額に、該当する業種ごとの決められた率をかけるだけで、納めるべき額を計算できるという制度です。この制度を使うには条件がありますが、インボイス開始後には制度適用のスタート時期に関する緩和要件があります。現在免税事業者で、インボイス制度の開始に伴って課税事業者になる人でも、簡易課税を選択したいと申請を出した人であれば適用できます。

慌てて課税事業者になる必要はない

インボイス制度って何?「個人事業主と企業担当者が知っておきたい13のポイント」税理士うばとしこ先生が解説

Q4.消費税分の収入は諦めて、免税事業者のままで活動を続けるという選択肢もあるでしょうか。

もちろんあります。ですから、慌てずに考えてください。「消費税を受け取ることができる」という課税事業者のメリットと、「自分が払った経費の消費税についても、所得から控除できる」という免税事業者のメリットをてんびんにかけて、自分の場合はどちらが得をするか考えてみましょう。

例えば課税収入が500万円、課税支出が200万円で、収入には50万、支出には20万円の消費税が課されると想定しましょう。免税事業者の場合は消費税分を受け取れなくなる分、収入は50万円減。支出はとくに減らないため、手取りは50万円減となります。

しかし課税事業者になりインボイス発行業者になった場合、収入分の消費税50万円から支出分の消費税20万円を差し引いた30万円を、確定申告と同時に納税することになるため、手取りは30万円減で済むことになります。

Q5.免税事業者のままで事業を続けていきたいのですが、売上が減る以外にリスクはありますか?

いちばんは、取引先が減る(なくなる)かもしれないということです。今後は、免税事業者との取引を減らしたい、取りやめたいという企業も出てくるといわれています。まずは自分の取引先の意向を確認することをおすすめします。

おそらく2022年秋以降、取引先からなんらかの連絡が入って、「課税事業者ですか?」「2023101日以降、適格請求書発行事業者(インボイスを発行できる事業者)になりますか?」とヒアリングが入ると思います。担当者と話をして、免税事業者のままでも取引を続けられるかどうか、聞いてみるのがいいでしょう。例えば、自分のメインの取引先が「適格請求書発行事業者でなければ取引しない」という方向性なら、適格請求書発行事業者になることを検討してはいかがでしょうか。

Q6.適格請求書発行事業者になるかどうか迷っています。注意すべきことはありますか?

事業の形態によっては、インボイス制度の影響が少ないケースもあります。それは、取引相手が一般消費者である事業。例えばカウンセリングやエステ、ネイルサロン、そのほか美容系サービスなどがこれに当たることが多いです。こうした分野で複業をしているという人も多いでしょう。この場合は、免税事業者のままでも事業をしていくことができます。逆に、焦って課税事業者を選択すると、消費税の申告義務が生じます。その可能性を考えて判断しましょう。

また気をつけたいのが、取引によって相手が変わる場合。例えばECで商品を売っている人は、売り先が個人ならインボイス制度は関係ありません。しかし代行業者を挟んだ取引の場合は、インボイスの発行を求められる可能性があります。

企業への影響も甚大!

インボイス制度って何?「個人事業主と企業担当者が知っておきたい12のポイント」税理士うばとしこ先生が解説

Q7.インボイス制度は、フリーランスや個人事業主と取引を行う企業側にとって、どんな影響があるのでしょうか。

まず、取引先が適格請求書発行事業者か免税事業者かを確認する必要が生じます。そのうえで、企業側には主に3つの影響が生じると考えられます。

  1. 免税事業者と取引をすると、納税額が増える
  2. 免税事業者との間で取引価格の交渉をする場合、それ自体がコストになる
  3. 請求書をチェックする事務作業が膨大に!

企業には、納付する消費税額の算出の仕方に影響してきます。企業は原則として「顧客から受け取った消費税額から、取引先に払った消費税額を差し引いて、手元に残った分を納税する」決まりになっています。しかしインボイス制度が始まると、免税事業者に対しては消費税を払うことができなくなります。そのため売上分の消費税から控除できる金額が少なくなり、結果的に免税事業者との取引が多いほど消費税の納税額が増えてしまうわけです。

例えば、免税事業者が「消費税はいりません。実質的に10%値引きになってもOKです」と言えば、企業としてはそれでいいですね。でも、免税事業者に対してもこれまでと同じ報酬を支払うのであれば、企業側は実質的に値上げしたことになってしまいます。「課税事業者でなければ取引しない」という判断をする企業もあるとされているのは、こういう理論です。

2については、免税事業者との間で取引価格の交渉が生じる可能性があるということです。リソースを割く分、当然コスト増になりますね。

3については、経理担当者の事務作業が、想像を絶するくらい大変になるといわれています。今後は消費税額や事業者登録番号の確認などのため、企業の経理担当者などがすべての請求書をチェックする必要が生じます。フローが複雑になれば、その分ミスが増加したり、混乱が起きたりするでしょう。とくに中小企業は、社内に税務に詳しい人材がいないことも多く、手が回らない事態になるのではないかと想像されます。

Q8.税理士さんの作業も増えるということでしょうか。

はい。ただ、インボイス制度に対応したからといって、企業の収入が増えるわけではありません。税理士の作業は確実に増えますが、そのぶん企業から受け取る報酬が増えるかといえば、難しいケースも現実的にはあるだろうと思います。

Q9.現状、企業の対応は進んでいるのでしょうか?

大企業を中心に、今インボイス制度に関するセミナーや研修を行っている企業は多くあります。経理担当者に限らず、フリーランスと関わる人は必ずインボイス制度についての知識が求められます。個人任せにせず、企業が周知を広げていかないといけません。

私もセミナーや講演で全国の企業を回っていますが、事業者の方々からは「インボイス制度は、仕組みとして守らなければいけないものだとわかっているが、そもそもなぜ対応しなければならないのか? 腑に落ちない」という声も多く聞かれます。「そもそも取引先と請求書のやりとりはしておらず、すべて口頭で済ませている」というケースも、実態としてあるようです。

国の考えは「むしろ、これまでの制度がいびつだった」

Q10.国は、どんな理屈のもとにインボイス制度を始めるのでしょうか。

インボイス制度は、免税事業者の益税(これまで納めていなかった消費税)を正しく徴収するための制度だといわれています。

免税事業者という立場自体、消費税が導入されたときに、スムーズな導入のための逃げ道としてつくられたものでした。国からすると、消費税の納税額の計算方法を鑑みれば、免税事業者が消費税を請求すること自体があまり面白くないのです。その基本スタンスに立ち戻ると、むしろこれまでがいびつだったわけですね。これまでもらった消費税を納税してこなかった分、今後はちゃんと納めようねという趣旨です。

Q11. 現場にはすでに戸惑いと混乱があるようですが、インボイス制度は予定通りスタートするのでしょうか?

2023年10月スタートは変わらずとも、それに向けた準備期間や対象者の条件などは、これから段階的に緩和されていくのではないかと考えています。それだけ、インボイス制度への対応は難易度が高いからです。HPなどでこまめに、政府の発信情報などをチェックしてみてください。

Q12.インボイス制度は、フリーランスも企業側も、誰も得しない制度に見えます。

確かに、関係者全員のコストが増えます。起業したばかりの人や勇気を出してパラキャリを始めた人が、課税事業者にならなかったからといってこれまでもらえていた収入の10%がカットされるとなれば、意欲が削がれてしまうでしょう。こうして増えた税収を、正しく使ってもらわないといけませんね。

また逆の見方をすると、インボイス制度にしっかり対応した人には、多くの仕事が舞い込んでくる可能性もあります。税金の申告に興味津々な人は、それほど多くないでしょう(笑)。ですから、例えば「簡易課税制度」のような便利な制度、やり方を探し出して、自分が心おきなく事業に打ち込める環境をつくることも大事です。おそらく、そういう人ほど仕事の幅も広がっていくのではないかと思います。

うばとしこ●税理士。大学卒業後、大手リース会社の営業職、税理士事務所への転職、結婚、出産を経て、2016年4月に税理士登録、2017年11月に独立開業。主に法人税務顧問のほか個人事業主を対象とした経理サポートのオンラインサロン「ゆるふわ経理部」を主宰。YouTube「ゆるふわチャンネル」での発信活動、全国各地の商工会議所や法人会、その他上場企業からの直接オファーで年間約50本のセミナー講師を務める。各種媒体への執筆活動は多数実績あり。2022年6月「経理マインドの強化書」出版 中央経済社

うば先生の事務所HPはこちら

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

Keyword

さくら もえ
Writer さくら もえ

VIEW MORE

Page Top