女性には生理があるから、心配するほどのことじゃない……そうやって放置されがちなのが貧血です。日本では、鉄不足の方が非常に多く、特に55歳以下の有経女性(月経のある女性)の大半は鉄不足といわれています。さらにこれからの季節は、汗をかいて、水分と共に鉄分が不足する可能性が。これを機に一度、貧血予防について考えてみましょう。
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間違えやすい、貧血と脳貧血
よく「貧血で倒れた」という言葉を耳にしますが、 このほとんどの場合が、貧血ではなく、「起立性低血圧(脳貧血)」です。
おそらく「脳貧血」という言葉からの連想で、貧血で倒れたんだ! という捉え方になったのだと思いますが、脳貧血と貧血はまったく違います。脳貧血とは、一時的に脳への血流が少なくなり、めまいや立ちくらみが起きる現象のことで、血液内の成分そのものは正常なことが多いです。そもそも脳貧血という言葉自体、専門用語ではなく、医療従事者が使うことはほとんどありません。
では、正しい「貧血の症状」とはどんなものでしょうか。貧血でよく見られる症状が、こちらです。
- 倦怠感がある
- 疲れやすい
- 動悸、心臓がバクバクする
- 息切れしやすくなる
- 味覚がおかしくなる
- 氷が無性に食べたくなる
- 顔色が悪くなる
- 爪が割れやすくなる、もろくなる
- 口角炎や舌炎が生じる
- 気分の落ち込みがある
- なんとなく元気がわかない
- イライラしやすい
- 立ちくらみがある
立ちくらみやめまいも症状に含まれますが、バタっと倒れてしまうことはほとんどありません。味覚や精神面への影響については、知らなかったという人も多いのではないでしょうか。
意外と強い関係がある「メンタルと貧血」
メンタル面と貧血なんて関係あるの? と意外に感じる方も多いのではないでしょうか。実は、この2つはとても密接な関係性にあります。少し前に話題になった「うつを改善するご飯」も、鉄分不足を解消するということがポイントになっています。
では、なぜ鉄分不足がメンタルに関係するのでしょうか。私たちが日常で嬉しい、楽しいという感情を持つのは、セロトニンやノルアドレナリンなどさまざまな脳内ホルモンの分泌状況が関連しています。
やる気を高める効果のあるノルアドレナリン・ドーパミン、興奮と抑制のバランスを調整するセロトニンなど脳内ホルモンは、タンパク質を原料としてつくられていますが、その際に必要なのが鉄なのです。そのため、鉄が欠乏すると落ち込んだり不安になったりと、メンタル面でも不調をきたしやすくなります。
私も診察をしていて、採血結果を見てびっくりすることがあります。患者さん自身には、鉄不足がメンタルに支障をきたすイメージは持っていないことがほとんど。そのため、メンタル不調の原因になっていると気づかないまま貧血を放置していたという例もよくあるのです。
貧血には大きく3つの種類がある
貧血とひとことでいっても、実はその種類はさまざまです。大まかに分類すると、正球性貧血、大球性貧血、小球性貧血の3つです。
- 正球性貧血:慢性腎障害による貧血や白血病
- 大球性貧血:胃摘出後の貧血やアルコール依存症による貧血
- 小球性貧血:鉄欠乏性貧血
全貧血の約70%が、3つめの「小球性貧血(鉄欠乏性貧血)」ですので、今回はこれについて説明します。大量のお酒を飲む方や、基礎疾患がある方は注意してください。
貧血とは、血液の中の赤血球やヘモグロビンが減少した状態です。ですので、血液検査で「Hb」と書いているところに注目してください。Hbの量が、成人男性で13g/dl未満、成人女性で12g/dl未満の方を貧血と診断します。ただし女性は月経があるので、11g/dlくらいの方は結構多く見られます。ですので、そうした方には、食事に気をつけながら少し様子を見ましょう、というお話をします。
これが10g/dlを切ってしまうと、貧血の症状が出てきやすいので、処方させていただくことが多いです。また、貧血になっているそもそもの原因を探った方がいいとお伝えします。子宮筋腫や子宮腺筋症、慢性的な消化管出血などの疾患が隠れている可能性があるからです。
貧血気味の方は、採血結果の中で「フェリチン」も見ておくといいでしょう。小球性貧血のほとんどが鉄欠乏性貧血ですが、膠原病や慢性炎症の場合も、小球性貧血を示します。この中で鉄欠乏性貧血の場合にのみフェリチンが低下するので、ここをチェックすることでより明確な診断を下せます。
たまに「顔色が青白いから貧血かもしれない」という発言がありますが、もともと肌が白い人もいますから、それだけで正確な判断はできません。それより適切な見方は、下まぶたをめくってみることです。本当に貧血の場合は、そこが白くなります。
日常生活の中で、採血するタイミングはそんなにないと思いますが、下瞼は鏡があればすぐに確認できますね。鏡に向かって、あっかんべーとしてみてください。
貧血予防に効く食事「4つの大原則」
貧血予防のため、食生活はどうしたらいいのでしょうか。まずは4つの大原則がこちら。
- エネルギー・タンパク質を十分に摂る
- 鉄分の豊富な食品を取り入れる
- 鉄分とビタミンCを同時に摂る
- 食事中、食事前後は、“タンニン”を多く含む「濃い緑茶、紅茶・コーヒー」などは摂取を控える。
※緑茶は極力薄めに淹れるか、麦茶に。それ以外の時は通常の濃さでも可
以上のことに気をつけてみてください。タンパク質は、ヘモグロビンの材料になるので重要です。
また、食品に含まれる鉄は、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けられます。ヘム鉄は身体に吸収されやすく、非ヘム鉄はそのままでは消化吸収されにくいという特徴があります。そのため、非ヘム鉄を吸収しやすい形に変える作用を持つ、ビタミンCを同時に摂ることが有効です。なお、タンニンは鉄の吸収を阻害すると言われています。
ヘム鉄を多く含む食材はこちら
豚肉・牛肉・鶏肉、かつお、いわし、まぐろなど
非ヘム鉄を多く含む食材はこちら
卵、しじみ、あさり、大豆、ほうれん草、ひじき、レーズンなど
仕事もプライベートも充実させるためには、まずは健康な食事から! 貧血知らずでアクティブに、暑い夏を満喫しましょう!