「男も女も、結婚のために何かを諦める必要なんてない」そんな価値観の中生きてきた私たち。やりがいのあるキャリアと愛するパートナー、この2つがあれば安心なのか? INSEAD(インシアード、欧州経営大学院)准教授が説く、現代版『愛するということ』(エーリッヒ・フロム)ともいうべき本書から「愛の技術」を学びましょう。
Contents
「私たち、無敵!」ハネムーン期には見えていないもの
無我夢中で働き、自分らしいキャリアを模索する20代・30代。体力もあるし気力もあるし、多くの人が大人の青春を謳歌している年頃でしょう。
そしてある日、恋に落ちます。自分と同じように仕事と自己実現にまい進し、ジェンダーについて進歩的な価値観を持った「運命の相手」と。
そうね、私たちもいい年頃か。そろそろ結婚して、人生の次のステージに進んでも良いのかも。周りの年長者は、「結婚は人生の墓場」みたいなことを愚痴ってばかりだけど、私たちに限ってそんなことはありえないよね? 家事も育児もいくらでもアウトソーシングできるって聞くし、今どき家庭のために仕事を諦めるなんてナンセンスでしょ。
きっとなんとかなる、大丈夫。だって私たちは2人とも自立した、対等な関係のカップルだもの。
そんな浮かれたカップル=ハネムーン期のカップルに警鐘を鳴らすのは、ビジネススクールINSEAD准教授のジェニファー・ペトリリエリ。彼女は自分自身がまさにこの幻想の当事者だった経験から、100組以上のカップルへのインタビューを実施し、本書を執筆したと言います。
デュアルキャリア・カップルは、カップルになってから退職するまでに3つの大きな転換期を経験する。――『デュアルキャリア・カップル』より
第1の転換期(20代~30代半ば)「どうしたらうまくいく?」
第2の転換期(30代後半から40代)「ほんとうに望むものは何か?」
第3の転換期(50代~60代)「いまのわたしたちは何者なのか?」
対象となる世代は大体の目安です。今回は、Paranavi世代が最初にぶつかるであろう第1の転換期について見ていきましょう。
子どもや転職、予想できたはずのイベントなのに……
「それぞれ自立した私たちなら、どんな困難にも対処できるはず」
キャリアと愛情への自信から、前向きな希望に溢れたハネムーン期のカップル。そんな2人が最初にぶつかるのが第1の転換期。それは、人生のビッグイベント発生を引き金とする、「自立した2人」から「互いに頼り合う関係」への移行です。
引き金の典型例が、「子どもの誕生」や「転職や異動などによるキャリアの転機」。いずれも人生に大きな影響を与えるイベントであり、多くの人は、これらをいつどのタイミングで決断をするか何度もシミュレーションしていることでしょう。
なのになぜ、カップルの関係性を揺るがす引き金になってしまうのか。それは、これらが2人にとって初めて「カップルとしての選択」をしなければならないイベントだからです。
妻が「産まれてみると子どもがかわいく、離れがたい」と育休を延長することを望めば、夫は妻の分まで生活費を稼がなければなりません。夫が「海外赴任にチャレンジしたい」と言い出せば、妻は自身のキャリアをどうするか決断を迫られます。
これは、旧来の「どちらかが働き、どちらかが家庭を守る」形のカップルには縁がなかった課題と言えるでしょう。2人とも経済的にも社会的にも自立しているからこそ、「私はこう生きていきたい」という意思が強く、「誰かと共に生きるための決断」に心理的ハードルがあるのかもしれません。
作るべきは、スケジュール表よりも「2人の協定」
まだ若い2人がいきなりぶつかる第1の転換期。ここを乗り越えられるかどうかで、その後待ち受ける2つの転換期の厳しさも変わってきます。著者がここで提案するのは、「2人の協定づくり」です。
盛り込むのは、以下の3つの要素。
①価値観「何を幸せと感じ、何を誇りと思うのか? 何に満足を感じるのか?」
②限界「地理的限界、時間的限界、在・不在に関する限界」
③不安「2人の関係やキャリアについて、どんな不安を抱いているか?」
これらについて対話を繰り返し、互いの考えを可視化することは、転換期の様々な課題に答えを出していくにあたりとても役に立ちます。
価値観は道の方向性を決め、限界は道の太さを決め、不安は両脇に崖があるかもしれないと意識させ、2人が一緒に道を歩くための役に立つ。――『デュアルキャリア・カップル』より
経済合理性で判断したり(夫の方が高収入だから妻が家庭に入る)、すべてをこなそうとしたり(残業も出張も子育ても……2人の体力に任せて全部頑張る)するのは、パニック状態からの脱出に焦るカップルが陥りがちな罠。
頭痛がひどいから頭痛薬を飲む、熱が出たから解熱剤を飲む……。カップルにとって大切なのはそんな対処療法ではなく、サバイバルな長距離マラソンに耐えられる健康な身体。この協定は、そんな2人の体力づくりにも役立つことでしょう。
本書は、日本の私たちにとって「これからの新しい地図」とも言うべき存在だ。――『デュアルキャリア・カップル』より
元「ほぼ日」CFO、エール株式会社取締役の篠田真貴子さんは本書の序文にこう書いています。
カップルのキャリアは複雑で、紙に横線を引いて点を打っていくようなシンプルなスケジュール表では対応しきれません。デュアルキャリア・カップルに必要なのは、自分たちの人生にはどんな選択肢と落とし穴があるか見渡せる地図であり、それが「2人の協定」であり本書なのです。
人生に「絶対安全」なんてないけれど、地図さえあれば歩いて行ける。2人の明るい未来のために、本書を参考に協定を作ってみませんか。