教育格差、という単語を見るたびに気になる子どもの教育。「習い事や塾はいつから?」「小学校・中学受験ってワーママでもできる?」……疑問は尽きませんよね。この連載では、小・中学受験をテーマにした小説「天現寺ウォーズ」「御三家ウォーズ」の作者・佐野倫子が、取材やワーママ実体験をもとに、働くママから寄せられた疑問について一緒に考えていきたいと思います。
Contents
小学校お受験が終わる前に、某大手中学受験塾を検討!?
みなさんこんにちは、教育コラムニストの佐野倫子です。都内で小5と小1の男子2人を育てながら、どうにかワーキングマザーとして試行錯誤中です。
そろそろ師走も近づき、我が家ではいよいよ来年から長男が受験生。戦々恐々とする中、先日、1通のメールが届きました。
件名で長男が通う大手中学受験塾からであることはわかっていましたから「ああ、また恐ろしいテストの結果か、はたまた授業料の引き落としのお知らせね……」と遠い目になりながらクリック。
しかしそのメールは次男のことについてでした。要約すると「現在小1で、入塾希望スタンバイしている方へ。長らくお待たせしました、入塾テストを受けてもOK! ただし、これを機に並んでいた順番はバラします。今月も途中で受付を閉め切ったらごめんなさい。来月以降は欠員が出たらその都度告知するから、また試験受けてね」という内容でした。意訳ですが。
そう、これこそ都心で中学受験を考えている母の頭痛の種「塾に低学年から通うべきか問題」です。
このメールと時期を同じくしていただいたご相談を紹介しましょう。
Q.都内で、幼稚園の年長女子を育てるワーママです。先日、小学校受験を終えたばかりのママ友から「まだ私立小の結果は出ていないけど、ダメだったときのためにSAPIXの新1年生入塾試験を申し込んだの。去年は、近所の校舎、年長の11月で定員一杯になったのよ」と聞き、動揺しています。我が家は漠然と中学受験を考えていますが、塾に通うのは4年生からだと思っていました。低学年から通ったほうが有利なのでしょうか? またもしも定員が一杯になってしまったら、どうすればいいのでしょうか。
どこまで進む!?中学受験スタート時期の低年齢化
近年、「中学受験参戦の低学年化」が議論を呼んでいます。
ご存知の通り、たいていどの中学受験塾も小学校4年生から本格的なカリキュラムがスタートするもの。ところが、数年前から、人気塾の都心の一部校舎で低学年から定員が一杯になり、高学年からでは入れないという状況が見られます。そうなると「低学年から席を確保するために通う」という方が出現。何を隠そう、私もその1人です(涙)。
言い訳をさせていただくと、私自身も中学受験をした経験から、勉強は4年生からで充分間に合うと考えています。しかし、現実問題、働いている身で子どもをサポートすると考えたとき、塾は近いに越したことはありません。
中学受験塾は、低学年では週1回程度ですが、4・5年生では2~3回、6年生では4~5回通うところがほとんど。受験生になれば、お弁当を昼と夜の2食分必要などというところもあり、夕飯を届けることを考えるとますます近所がいい……。何より子どもの通塾の負担を考えると、より近くて、評判のいい塾に通わせてやりたいのが親心。
近年の中学受験に参戦する子どもの数は上昇の一途をたどっていますから、過熱した都心の一部では確かに1年生から募集を締め切った塾もあるのです。
そのような事情で、長男は2年生の秋に、最寄り校舎が締め切ると聞いて、泣く泣く入塾テストを受験。通塾をスタートしました。
そこで、せっかくですから実際に通ってみて、どう感じたかをレポートします。
率直に言って、低学年の通塾はさほど合否に影響を及ぼさない、と私は感じました。自身の経験、そして取材で集めたエピソードから、「メリット」と「デメリット」をまとめてみました。
【低学年から通塾するメリット】
- 人気塾の場合、席を確保できる。一般的な通塾開始のタイミングである新4年生(3年生の2月)は、入りたくても満席、というリスクを回避できる。
- 学習の習慣が無理なく身に着く。
- 早い時期から子どもに「中学受験」というものを認識させ、目標を持たせるきっかけになる。
【低学年から通塾するデメリット】
- 4年間以上通塾することになり、子どもが飽きてしまう、「中だるみ」してしまう可能性がある。
- 通塾に時間を取られるので、ほかの習い事と合わせて忙しくなる可能性がある。
- 低学年で子どもが塾に1人で行けない場合、夕方に送迎する必要があり、共働きの場合調整が必要。
デメリットの3つ目。これがなかなか侮れません(涙)。私の場合、逆説的ですが、これを回避するために低学年からの通塾を選びました。つまり、なんとしても送迎を回避すべく最初から1人で往復できる塾を狙い定め、結果的にそこが非常に早く締め切ってしまいそうになり、入塾したという次第です。
やむなく始めた通塾ですが、通ってみると3年生までは週1回、2時間程度だったので懸念していたほど親子ともに負担にはなりませんでした。子どもは先生方のお話と授業が面白いと、楽しく通ってくれたのです。それまではプリント学習を繰り返すタイプの教室に通っていたのですが、2科目合わせると授業料もさほど変わらず、一カ月当たり2万円ちょっとでした。
多少は勉強や受験への意識付けにもなったと思います。低学年とは言えテストによるクラス昇降はあったので、試験に向けて漢字や計算練習はするようにしました。3年生になると、基本のキではありますが理科と社会も始まり、やらないよりは知識が頭に入ったかもしれません。
周囲のお母さんにインタビューしてみましたが、皆さんほとんど同様の感想でした。「無理に低学年から通う必要はないし、余裕のある今のうちにやりたい習い事に打ち込むのもいい。早くから塾に慣れる、勉強の習慣をつける、通いたい校舎が満員になる可能性があるので席を確保、という意味では通塾するのもアリ」といったところ。
また、ほかにも「夏期講習などの季節講習だけ通った。学童に行くはずの時間だったが、いい刺激になった」とおっしゃる方も。
さほど焦る必要はありませんので、小学校に入るタイミングで一度、以下のことを検討しておくのがおススメです。
【低学年の通塾を検討するときのチェックポイント】
- 通塾の目的をはっきりさせる。塾には難関私立中学受験塾、学校の勉強の補習塾、公立の中高一貫校受験に特化した塾、など特色があるため、塾に入る前にしっかり考える。
- まずは近隣の塾の資料を取り寄せ、場所を確認。通塾が始まってからのライフスタイルを親子でイメージする。
- 候補の塾にできれば実際に電話などで問い合わせ、正確な状況を確認。定員に達している学年やクラスがあるかどうかを情報収集。満員になりそうな場合、通える他の校舎や他塾と比較し、「席とり」をしてまでその塾に通うメリットを話し合う。
まずは近隣にお出かけの際に、「こんなところに塾があるな」「子どもはこのくらいの時間に通うんだな」など、意識してみてください。早くからイメージを持っているお母さんは、いざというときに決断が早いもの。塾は入塾説明会を定期的に開催していますし、行ったからと言って入塾する必要はありません。校舎ごとの合格実績も教えてもらえるので、近隣の先輩たちがどの中学校に進学するのか、イメージをすることもできます。
一方で、低学年に塾に行かない場合も、読書や漢字・計算練習、自然に親しむ、ニュースを家族で見る、などが大切だと感じています。やっておけば良かった……という私の反省を、ぜひ生かしてください(笑)。
情報に踊らされ過ぎることなく、ご家庭にぴったりの選択ができるといいですね。