フリーのWebプランナーとしてIT業界でキャリアをスタートさせた後、2005年にWeb制作会社を創業。その会社を合併させる形でトレンダーズで役員をつとめ、2017年にクックパッドに入社し、Japan執行役員も務めた影山由美子さん。プライベートでは38歳から6年間不妊治療を続け、子どもを持つことができなかったという経歴の持ち主です。影山さんのキャリア遍歴と、日常ではあまり話されることのない不妊治療を諦めたエピソードについて聞きました。
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時間とお金と努力を費やして、はじめて手に入らなかったもの
――6年続けた不妊治療。辞めるのも勇気がいりましたよね。
トータルでクリニックは3カ所通いました。最後に通っていたのはとても有名なクリニックで、ここで、それまでのクリニックでは問題ないと言われていた筋腫の位置がどうも悪さをしているようだ、と指摘されたんです。「筋腫がある限り妊娠は難しいと思うけれど、手術したら術後半年は体外受精できない。あなたの年齢を考えると筋腫があるまま進めるしかないけど、どうする?」と聞かれて、心が折れました。「あと2回だけやって、ダメだったらどうするか考えます」と言って、2回ダメで。
当時45歳でしたが、不妊治療がライフワークみたいになっていたんです。それまでの人生で、時間とお金を費やして、努力して、手に入らないものはなかった。それなのに子供ができない、そのことが認められなかったんです。子どもを産んで育てるというライフイベントがなくなると思ったら、これからの人生がものすごくつまらなく思えて虚無感に襲われました。「私の人生、あとや何があるのかな」って。
養子縁組などの方法を考えなかったわけではありませんが、夫との間で子どもができないならもういい、と決めました。今でも料理をしているときなんかに、「食べ盛りの子どもにたくさん料理を作ってあげたいな」と思うこともあります。
――不妊治療を辞めた後、ご夫婦では今後のことをどのように話していますか?
「子どもにお金を使ったり残したりする必要もなくなったし、やりたいこと・やれることを思いっきりやろうね」と話し合っています。今いちばん怖いのは、パートナーがいなくなったら一人になること。いざとなったら一人になるという現実に向き合えるようにしたいです。そしてなるべく長く2人とも健康でいられるように、食生活などには気をつけようと思っています。
「広がる選択肢」と「有限な時間」の残酷なギャップ
――前編で「もっと早く将来設計をシミュレーションできていたら」とおっしゃっていましたが、後輩世代の女性にはどんなことを伝えたいですか?
今はジェンダーレスな時代だから、女性にもたくさんの選択肢がありますよね。私自身が価値観をどんどん塗り替えられていく人生だったので、それには深い実感があります。でも、生物学上の男女の違いは確固としてあるんです。子どもを持つか持たないか。その選択で、人生計画はガラッと変わるということを後輩世代には知っておいてほしいなと思います。
特に、「女性としての健康管理」と「資金計画」は大切です。
どんなに男女平等な社会になっても、産むのは女性。妊娠・出産で、キャリアを中断して時間をロスするのも女性です。私は20代・30代後半まで、キャリアの追求を最優先にしてきました。38歳という年齢は不妊治療を始めるには遅かったと思います。そもそも、普通に生きている分には健康だったので、その気になれば妊娠できると根拠なく信じていたところはあります。でも、私は妊娠力という意味では健康ではなかった。子どもを持ちたいという気持ちがあるならば、「自分が子どもを産める状態なのか」はなるべく早く確認したほうがいいですね。
お金に関しても注意が必要です。多くの人が、結婚資金やマイホーム資金は頑張って準備しますが、妊娠するための資金のことを考えている人がどれほどいるでしょうか。私は6年の不妊治療で1000万円かかりました。
――不妊治療も保険適用となりましたが制度は頻繁に変更されます。対象となる治療の種類や上限回数などの条件など、しっかり理解する必要がありますよね。
ダイバーシティ尊重の時代だからこそ、自分のセオリーは自分で考える
――いわゆる「丁寧な暮らし」に興味が出てきて、自分の身体や健康にも目を向けられるのって、結構年を重ねてからな気がします。働き始めの時期は、どうしてもがむしゃらになってしまいますよね。
今まで仕事をしている中で、いわゆる働き盛りの女性たちをたくさん見てきました。20代から30代半ばくらいの女性ほどハードワークで頑張っている人も多い。なかには、コンビニ食や外食で食事を済ます人も多くて、健康管理は大丈夫かなと思うこともありました。
マネジメントの観点からすると、結婚や妊娠ってやっぱり難しい問題です。産休・育休に入る社員がいれば、「おめでとう」と思う反面、足りなくなった分を独身者がカバーしてさらに仕事が忙しくなってしまうというジレンマもありますよね。ダイバーシティ尊重が進んでいって、新しい価値観・多様な価値観が認められるようになっていくことを願っていますが、不妊に悩む女性・不妊治療はなくなりません。
「女性は25歳までには結婚して専業主婦になって子どもを産む」みたいなセオリーが一般的だった時代と違って、生き方が多様になっているのが現代。その分、セオリーは自分で考えて決めないといけないのだと思います。年を重ねたり、不妊治療をはじめたりしてからだと考えるのもどんどん辛くなるから、なるべく早く、心に余裕がある時期から考え始めた方がいい。
――問題の渦中にいるときは、どうしたらいいかわからなくて混乱しちゃったりします。キャリアが軌道に乗ってくるとそこから降りるのが難しくなりますしね。
そう。キャリアかライフかの2択じゃなくて、どちらも合わせた自分のセオリーが必要だと思います。世の中の価値観も変わるし、他人の価値観も変わる。そういうものに振り回されちゃダメだよって、働き盛りの女性たちには言ってあげたいですね。
(聞き手/岡部のぞみ)
影山由美子(かげやま ゆみこ)●大学卒業後、営業職に3年従事したのち、WEBプランナー兼デザイナーとして独立。2005年1月、WEB制作会社株式会社クラリティ・アソシエイツ設立、代表取締役就任。東京・西麻布にタロットバーRosyオープン(2011年閉店)。2012年3月、トレンダーズと合併。2017年、クックパッド入社。2020年、Japan執行役員に就任。