2017年にアメリカのエンタメ業界からはじまった「#MeToo運動」。著名人の告発に端を発し、これまで沈黙していた女性たちが、自分が経験した性暴力・セクハラを次々と告白しています。1月13日には、ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者が、「#MeToo運動」の発端となったハーヴェイ・ワインスタイン事件の記事をどうやって世に出したかを追った映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が全国で公開されます。世界のフェミニズムを大きく動かした#MeToo運動について、今改めて振り返ってみましょう。
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「私も!」声を上げはじめた女たち。そのきっかけは?
「#Me too(私も!)」
#(ハッシュタグ)をつけて、自分が経験した性暴力・セクシャルハラスメント(セクハラ)を告発する。世界のフェミニズム・ジェンダー平等活動が、大きく歩を進めるきっかけになったのが、この「#Me Too運動」だったのは多くの人が認めるところでしょう。
Me Tooを合言葉に告発と連帯をよびかける運動はもっと以前からあったそうですが、ここまで大規模に広がったきっかけは2017年のこと。ニューヨーク・タイムズにおいて、ハリウッドの大物・ハーヴェイ・ワインスタインが長年のセクハラ・女性への暴行・それらの隠ぺい工作を暴かれたことが発端でした。
ワインスタインは、「シカゴ」「キル・ビル」「英国王のスピーチ」等のプロデュースで知られる映画プロデューサー。
大ヒット作品に出演していた女優たち(彼がプロデュースした「恋におちたシェイクスピア」主演女優のグウィネス・パルトロウも!)・女性スタッフたちの生々しい告発に、世界は衝撃を受けました。そして、恐怖を乗り越えて告発に及んだ女性たちに続くように、「#MeToo」と自分たちの被害を告白するツイートがオンライン上であふれていったのです。
強者と弱者がくっきり色分けされるエンタメ業界ではじまった
#MeToo運動がここまで広がった要因は、セクハラの存在が暗黙知であっただろうエンタメ界からはじまったこと・多くの告発がオンライン上でおこなわれたことが挙げられると思います。
「セクハラは必要悪」くらい割り切っていそうなエンタメの世界で、「あれはハラスメントだった」「私たちは傷ついていた」と声を上げることがどんなに難しいことだったかは想像に難くありません。事実、「身体を使って営業していたんだろう」「彼(加害者)のお陰でチャンスをつかんだのに図々しい」というような心無い誹謗中傷は今もやみません。
しかし考えてみれば、「女を使う」ことがビジネスに有用なのは、それに価値を見出す人間がいるからです。本来切り分けられているはずの「セックス」と「ビジネス」が彼らによって結び付けられているからこそ、「性的搾取も時には必要」といったゆがんだ理屈がブラックボックスの中では成立してしまうのではないでしょうか。
そうやって強者の理屈で封じ込めてしまえば、弱者たちは従うしかない。ルールを作る側で強固に連帯している男性たちと違い、そのルールのもとで踊らされ・互いに競わされている側はつながることなどできない。
……そう高をくくっていただろう人々が予想できなかったのが、インターネット・SNSの力でした。
どんな人も連帯できる、SNSの力
現代の#MeToo運動の発端となったのは、権威あるマスメディアであるニューヨーク・タイムズの記事でした。しかしその後の大々的な拡散は、おもにオンライン上での出来事。
ニューヨーク・タイムズで記事が公開されたのと同じ年、アメリカの女優・歌手のアリッサ・ミラノがこんなツイートをしました。
If you’ve been sexually harassed or assaulted write ‘me too’ as a reply to this tweet.
(意:もしあなたがセクハラを受けたことがあるなら、このツイートに「me too(私も)」と書いてリプライして)
「多くの女性の声が集まれば、この問題の深刻さが世界に伝わるかもしれない」という意図によるもので、「MeToo」リプライは今でも増え続けています。
「メディアを制するものはビジネスを制す」と言ったのはマーケティングの権威ダン・ケネディですが、従来のメディア戦略は「マスメディア」と呼ばれる大手テレビ局・新聞・雑誌などを中心に展開されるものでした。何が正義で、何が流行最先端で……自分のビジネスに都合の良い価値観を流布させるために、権力のあるビジネスマンはメディアを利用してきたのです。
ワインスタインのような映画プロデューサーや、その後次々に告発された各界の権力者もきっとそうしてきたのでしょう。しかし、SNSの普及で「メディア第3勢力」が生まれていたということを、MeToo運動が世界に知らしめたのではないでしょうか。
SNSは自由に見えて、ユーザーの想像以上に「偏った世論」が作られやすい偏向的なメディアではあります。しかし、「声なき者」とされてきた人々が声を上げ・連帯するのにこれほど便利なツールはないのも事実。テクノロジーの恩恵を受け、タブー・ブラックボックスに切り込む勇気を得た女性たちの運動が、今後も勢いを失わないことを祈るばかりです。
1月13日には、#MeToo運動を映画化した「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」が日本でも公開になります。ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者が、どうやってワインスタインの記事に世に出したか。被害を公にすることを拒む多くの現実・葛藤が描かれているであろう本作、映画館に観に行きたいと思います。