Paranaviトップ ライフスタイル 暮らし 宮崎駿監督による同タイトル映画公開が話題!時代を超えて読み継がれてきた少年少女たちへのメッセージ『君たちはどう生きるか』

宮崎駿監督による同タイトル映画公開が話題!時代を超えて読み継がれてきた少年少女たちへのメッセージ『君たちはどう生きるか』

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2023年7月14日に公開された、スタジオジブリの新作映画『君たちはどう生きるか』。本作製作の為に引退宣言を撤回したという宮崎駿監督による、完全オリジナルストーリーとなっています。タイトルは、監督が少年時代に読み感銘を受けたという吉野源三郎による小説から。今回は、何世代にも渡って読み継がれるこの名著をレビューします。

昭和・平成・令和…どの時代の少年少女たちにも、渡してあげたい一冊

人に本を薦めるのって、実はとても難しいですよね。

面白いと思ってくれるかな? 押しつけがましいと思われないかな? ぐるぐる悩んだあげく、「この本読んでみて!」という思いをそっと心に納めたことが何度もあります。

しかし、例外だと(勝手に)思っているのが幼い甥っ子たち。

彼らが本を読めるようになったらプレゼントしたい本のリスト、すでにかなり長いものになりました。ケストナーの『飛ぶ教室』、ミヒャエル・エンデ『モモ』、そしてジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』……。あれこれと書き連ねているリストのいちばん上に、不動の存在として書いてあるのがこちらです。

君たちはどう生きるか

『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎/マガジンハウス)※岩波文庫版もあり

著者は、明治生まれの編集者・吉野源三郎。児童文学者の顔も持ち、岩波少年文庫の立ち上げに尽力した人物としても知られています。

『君たちはどう生きるか』の主人公は、中学2年生の本田潤一君。近所に住む叔父さんは彼を“コペル君”というあだ名で呼んでいます。コペル君は数年前にお父さんを亡くしていて、叔父さんと非常に仲良しです。

物語の中心は、コペル君の学校生活で起こるあれこれ。勉強は得意だけれど、お行儀はイマイチなコペル君。物静かで穏やかな水谷君、正義感の強い力持ち・北見君という個性豊かな親友もいます。彼らが出会う、いろんな事情を抱えた学友たち、上級生たち、先生、それぞれの人間関係の摩擦……。一筋縄ではいかない日常に、彼らがどう向き合っていくのかが描かれていきます。

子どもに干渉し過ぎない、「斜めの関係」の叔父さん

タイトルや物語の概要を聞いて、「大昔に書かれた説教臭い本」というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかしこの本は少し趣が違います。

多くの章は、コペル君が経験したこと・感じたことが描かれるパートと、それを聞いた叔父さんがノートに書いた感想パート、をいったりきたりする構成になっています。

君も、もうそろそろ、世の中や人間の一生について、ときどき本気になって考えるようになった。だから僕も、そういう事柄については、もう冗談半分でなしに、まじめに君に話した方がいいと思う。

――『君たちはどう生きるか』叔父さんのノートより

叔父さんのノートはいつかコペル君に読んでもらいたいと思って書かれており、最終的にコペル君に手渡されます。2人はしょっちゅう会っておしゃべりしているようなので、叔父さんからコペル君に直接伝えていることもたくさんあるでしょう。しかし、大人からの意見がすぐ子どもに頭ごなしに伝えられるのではなく、「いったん、ノートに書かれる」という距離のとり方が絶妙だと感じました。

もう1つ距離感という視点からいうと、叔父さんと甥という「斜めの」関係性もまた絶妙です。父と息子・先生と生徒等という直線的な関係ではないからこそ、大人も子どもも話せることがあるはずですよね。

こういった設定や構成こそ、子どもの視線や葛藤をなるべくねじまげないように書こうという吉野源三郎さんの強い意志のあらわれではないでしょうか。

子どもが悩み、苦しむことを肯定する

物語の後半、上級生に乱暴される友人を助けられなかった後悔と恥ずかしさで、コペル君はひどく苦しみます。

自分は裏切り者だ、卑怯者だ、弱虫だ。もう友人たちに顔向けできない……。そう思いつめて寝込んでしまったコペル君に、いつものノートブックの距離を乗り越えて叔父さんが声をかけました。

また過ちを重ねちゃあいけない。コペル君、勇気を出して、ほかのことは考えないで、いま君のすべきことをするんだ。――『君たちはどう生きるか』より

そして、いつもはコペル君に強くものを言わないお母さんも、自身の少女時代の経験を語ってくれます。コペル君の苦しみの原因を知ってか知らずか……、すでに十分苦しんでいるコペル君の傷を改めて暴くようなことはせずに、自分の言葉でエールを投げてくれるお母さんの優しさに、コペル君は布団の下で涙するのでした。

正しいこと・正しくないことを、教科書のようにして子どもに押し付けてしまうのはきっと簡単なことです。自身で経験させ、考えさせ、行動させることこそ難しい。しかし、自立して生きていくのに必要なのはそんな「自分で考える力」であり、それを身につけるプロセスでは、コペル君のように悩み苦しむことはセットとなります。

「君たちはどう生きるか」を少年少女に問い続け、彼らの悩み苦しみを肯定する。

これが、この本が80年以上に渡って果たしてきた役割。そしていつの時代も大人たちが果たさなければならない役割です。

「君はどう生きるか」とこの本に問われた少年時代の宮崎駿監督。82歳になった今、同じタイトルを冠した映画でどんな問いを世に放つのでしょうか。または、監督の個人的なアンサーが映画に込められているのでしょうか。

常にこの問いを胸に生きている元少女として、映画館にて、心して受け止めてきたいと思います。

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梅津奏
Writer 梅津奏

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