日本でデザイナーとしてのキャリアを磨く傍らで、エコ、エシカルをテーマにしたアートグッズブランドでもフリーランスデザイナーとして活動していたTaeさん。双方で働くうちに、洋服をデザイン、大量に生産し廃棄される背景や現状に疑問を持ち、アパレル企業を退職。ニューヨークへの留学などを経て、異なる価値観、スタイルを目の当たりにする中、デザインの新たな可能性に出会いリペア・テーラーの道を模索。“自分のデザインの意味”を常に考えるTaeさんだからこそ辿り着いた“自分らしさ”について話を聞きました。
——これまでのご経歴を簡単にお聞かせいただけますか?
文化服装学院のデザイン科を卒業した後、アパレル関連の会社3社でデザイナーとして働きました。ベースはOEMでオリジナルブランドも展開している会社で、取引先はユナイテッドアローズ、エストネーション、バーニーズニューヨーク、べイクルーズなど、キャリア層のブランドでした。また、エシカルをテーマにしたアートグッズブランド“MAKOO”でもフリーランスデザイナーとして活動していました。
——会社員としてデザインをやりながら、フリーランスデザイナーとして活動されていたのですか?
はい。MAKOOはコンセプトが素敵で学生時代からお手伝いさせてもらっていたので、就職してからもフリーランスでデザイン提案などをする機会をいただいていました。私が本格的にデザインに携わったアイテムが「ボトルホルダー」で、現在のシグネチャーになっている「リサイクルレザー」を使ったアイテムです。
——本業で働きながらフリーランスとして働かれていたとのことでしたが、どんな風に時間を捻出していましたか?
アパレル企業で働いていたときは正社員だったので、休日などの空いている時間にフリーランスの活動をしていました。本業は洋服のデザイナー業をメインでやっていたのですが、2,3カ月に1回展示会に向けて、何パターンもの新たなデザインを延々と考えていたので、気持ち的には毎月展示会をしているようなハードな状態でした。そこにプラスして、クライアントへのデザイン提案もやっていたので、週末の活動も含めると当時はあまり休みなく働いていた気がします。
——多忙な日々が続くなかで何がモチベーションになっていたのでしょうか?
当時、私がデザインした「ユナイテッドアローズ」のパンツがブランド内でいちばん売れたと聞いたときは嬉しかったです。でもいちばんは、実家に帰省したときに、そのパンツを偶然姉が履いてくれていたことですかね(笑)。売れている話を聞く以上に、身近な人が身につけてくれているのを見るのはモチベーションにつながりました。
——それはハッピーサプライズですね! そこからどんな流れでニューヨークに拠点を移したのでしょうか?
忙しくて馬車馬のように働いて体調も崩しかけていたので、2社目から3社目に転職する間に少し休憩を取りました。ちょうどその時期は、日本にH&Mが上陸してファストファッションブーム真っ只中だったのですが、モノづくりをする身としてアパレル業界自体への違和感を覚えるようになっていったんです。また、エコをテーマにものづくりをしている環境と、日々忙しく新しいトレンドものを何型も提案していかなければならない環境のギャップもありました。自分がデザインしたものが売れるのは嬉しいですが、トレンドにフォーカスしてモノづくりをすると、息が短くなってしまうので。
——一度立ち止まって考えたときに2つの働き方のギャップに気が付いたと。
そうですね。もともとデザインの意味を考えてじっくり突き詰めることが好きだったのですが、働いているうちにスピードに流されて、デザインひとつひとつに意味があるということ忘れてしまっていたんですよね。キャリアも実績も積んでいましたが、このモヤモヤした気持ちを一度クリアにするために、「環境を変えて語学留学をしてみよう」と思い立ちました。
——初めからニューヨークで活動しようと思ったわけではなかったのですね?
はい。そんなつもり全然はなくて。ニューヨークは世界の人が集まるので、いろんなところに行かなくても世界の人の様々なライフスタイルが見られるだろうと思い選びました。実際、語学学校でも世界の人がいて文化や風習の違いを知ることができたのは収穫でしたね。
——どのタイミングでテーラーの活動を始めたのでしょうか?
始めはテーラーという形ではなくリペアとして始めました。語学学校に通っていたときに、偶然使わなくなったミシンをいただく機会があったんです。ものをつくることが好きなので、手作業で何かつくってみようかなと思い立ちました。ニューヨークの人は、みんな自分のオリジナリティを大切にしています。それがオシャレでもオシャレじゃなくても、自分が着たいから着ているという感じで、古着もすごく身近です。ストッキングを切り裂いて履いている人がいたときは驚きましたが、一見ハチャメチャな恰好していても、本人が自信を持って着ているのでオシャレに見えてきてしまうんですよね(笑)。そこで自分のアイデンティティを主張している人たちを見ていて、「ファッションのあるべき姿」を考えさせられました。一人一人がアイデンティティやオリジナリティを持つことが今後のファッションの未来に必要になっていくのではないかと思います。
——古着とオリジナリティと、今の活動につながるキーワードを見つけられたのですね。
はい。リペアは環境問題について考える中で行き着いた活動で、いかに洋服をムダにしないで長く着ていけるようにするかということを大切にしています。もともとは、古着を自分で直して着ていたのを、周りの人に「良いね」と言われるようになったことがきっかけでした。リペアはその人のサイズに合わせたり、逆にひとクセあるデザインに直したりできるので、実は需要がありそうだ思って始めました。古着は探す楽しさもありますが、ちょっとデザインを変えたらもっといいのにということも。それをリペアによって、1つ新しくデザイン吹き込めば自分にとってパーフェクトなものになります。そうなれば、シーズンが終わっても愛着が湧くし、オリジナリティやアイデンティティにもつながっていくと思います。
——リペアという方法を発見したときに「これだ!」みたいな感覚はありましたか?
意味のある活動だなと思いましたね。大量につくらなくてはいけないデザインと違って、あまり頭を抱えずに手が動くというか(笑)。それまでは企業の中でデザイナーをやっていたので、毎シーズンどんなモノが売れるのかなとか、常に違う頭を使っていたので、そこにもハッとしました。リペアをしているとどんどんアイディアが沸いてきて「こんなデザインをいれてもいいかな」とすべての工程が楽しいと思えたので。自分の手を使って作業できることも私には合っていましたね。
——手を動かすことが得意だったり、1つのことを突き詰めたり、職人気質ですよね。リペアのような意味のある活動がこれからの未来には必要ですね。
なんでも循環させていかないといけないと思っていて。トレンドは繰り返していて、Y2Kは若い子からすればすごく新鮮だけど、私たちからするとまた巡って来たなという感じですよね。トレンドが循環しているなら、洋服も循環させてもいいのでは?と思っています。手先を使うテクニックは、海外では高く評価され需要があるんです。特に日本人は細かい仕事をするということで重宝されているように感じます。日系の美容室やネイルサロンが多く、すごく人気なところを見ると、やはり私たち日本人だからできる芸の細やかさがあるのだろうなと。洋服のリペアやリメイクは、コロナが始まったあたりから始める人も増えていて、原点回帰してきている風潮は感じます。
——個人的にリペアプロジェクトをやっていく中でテーラーにつながる出会いがあったのでしょうか?
そうですね。私はファッションがバックグラウンドなので、ニューヨークで暮らしているうちに、友人を介してLars Nord というテーラーアーティストに出会いました。彼はスタジオを構えてお直しをしつつ、撮影現場やセレブリティの衣装の補正、カスタムする事で衣装をデザインしていました。手作業をその場で行うという、日本にはない新しいテーラーの形を目の当たりにして、自分の中で点と点がつながり、1つの線となった感覚でした。私は0を1 にする仕事よりも、リペア、リメイク、カスタムのような可能性を広げられることに、希望を見出すんだということにも気が付きましたね。
——また新たな気づきがあったのですね。ニューヨークでは撮影現場にはお直しがいるのが当たり前なのですか?
有名ブランドになると一般的なようですね。同じテーラーでも現場で直すのはまた違うジャンルという印象で、ラーズも現場で働いているとみんなが「マジックだ」と言ってくれると言っていました。限られた時間内にお直しして、デザイン力も試される。そんな仕事聞いたこともなかったので、自分のキャリアを活かせるのはもちろん、エネルギッシュで刺激的な仕事なのでとても興味が湧きました。
——今後はどんな活動をしていきたいと思っていますか?
形を整えてテーラーの活動を本格化したいです。あとはデザイン業もやりつつ、デザインのコンサルをしたり、ビンテージショップで売り物にならないものをリメイクしたりして、新しい縫製やデザインの可能性を見せていけたらなと思っています。ほかにも、私は日本でのアパレルのキャリアがあるので、今後日本で働く人たちにこんなキャリアの活かし方もあるのかと見せられたらうれしいですね。
——日本でもたくさん活躍の場がありそうですが、やはりニューヨークが拠点になりそうですか?
今はありがたいことにもお仕事のお話をいただいているので、今後は仕事としてNYでまたチャレンジしていきたいと思っていますが、ゆくゆくはどちらもできたらなと思っています。実は今週末に東京でのPOPUPが実現することになり、今はその準備を急ピッチで進めているところです(笑)。内容は開催するショップで購入いただいた服や持ち込んでもらった私服をその場でお直しするイベントになっていて、この機会を通してまたテーラリングの魅力を伝えていきたいなと思っています。
——今、日本でモヤモヤしている人たちに向けて、メッセージをお願いします!
行動してみると必ず行き着く先に結果は出るということです。自分が何をやりたいのかわからなくても、何か1つにトライすることで絶対クリアになるし、次の疑問が生まれてそれがやりたいことにつながります。私自身もニューヨークへ行ってみてまだ結論が出たわけではないですが、自分が欲しいものの整理がつきました。次のステップは何をしようという段階を踏めたことに価値があったなと思います。行動しなければ得られるものは何もないですが、やってみれば何かしらの形で前に進むはずです。
Tae Yoshida:1987年広島県生まれ。2009年文化服装学院 アパレルデザイン科を卒業後、数社のアパレル企業でデザイナーとして働く。様々なブランドへのデザイン提案やヒット商品を生み出すなど、デザイナーとしてのキャリアを磨く傍らで、在学中にインターンで働いていたエコ、エシカルをテーマにしたアートグッズブランド “MAKOO “でもフリーランスデザイナーとして活動。双方で働くうちに、洋服をデザイン、大量に生産し廃棄される背景や現状に疑問を持ち、アパレル企業を退職。
その後、ニューヨークへの語学留学を決意。語学を学ぶ傍ら、オリジナリティを表現することに長けているニューヨークの人々のファッションに影響を受け独自でリペア、リメイク、カスタムに重点を置いた縫製プロジェクトを始める。