Paranaviトップ ライフスタイル ジェンダー/フェミニズム 広告やメディアの「ステレオタイプな表現」、企業がつながることで変革を起こす

広告やメディアの「ステレオタイプな表現」、企業がつながることで変革を起こす

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

「食事をつくるのはお母さん」「職場の上司は年配の男性」――広告やメディアには、いまだにこうしたいわゆる「ステレオタイプ(画一的・固定観念にとらわれた)」表現を見かけることは珍しくありません。UN Women(国連女性機関)が主導する「アンステレオタイプアライアンス」は、広告やメディアにおけるジェンダーステレオタイプな表現を撤廃するために2017年に世界的に始まった取り組みです。UN Women日本事務所でアンステレオタイプアライアンス日本支部をリードする市川桂子さんに、日本の広告やメディアでの表現におけるジェンダーギャップの問題について聞きました。

多様な視点が入ることで「違和感」に気づける

――広告やメディアにおけるジェンダーステレオタイプにはどういったものがあるのでしょうか?

わかりやすく言うと、「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」といった暗黙の固定観念です。最近は減ってきましたが、例えば、洗剤や食品など家庭内で使う商品のCMに女性ばかりが起用されたり、リーダーシップを取るポジションの役を演じる人には男性ばかりが起用されたりといったことです。テレビ番組でよく見かける、司会者は男性、それをサポートするアシスタントは女性という構図もその典型です。

私はもともとテレビ局にいて報道記者として働いていたのですが、実際にジェンダーギャップを感じる場面も多くありました。「女子アナ」という言葉で、女性のアナウンサーを持ち上げる日本特有の文化などはまさしくそうです。一方で、報道のデスクやトップに立つ人は圧倒的に男性が多かったです。夜勤や24時間対応が求められるという勤務体制だったので、仕方なかったのかもしれません。

UNWOMEN市川さん

ただ男性ばかりの組織だと、例えばニュースで子どもに起きた事件を伝えるときに「母親が目を離した隙に」というフレーズを自然と使ってしまうことに、違和感を持つことが難しくなってしまいます。「目を離してしまった」のは母親だけではない、育児に関わっているのは父親も同じなのではないかという疑問を持てるかどうか。受け取る側の人が多様化している現在において、伝える側もそうした表現に気を配らなければいけません。そのためには広告やメディアにかかわる企業も、多様性を持った組織である必要があるのではないでしょうか。

――炎上をおそれるあまり、コンプライアンスを気にし過ぎて表現が制限されているという声もあります。

家庭向けの商材で、男性がずらっと並んでいるという例もありますね。それはそれで確かにちょっとやり過ぎかなという気もしますが、今はちょうど過渡期なのかもしれません。女性やLGBTIQ+の方達、障がいを持った方達といったマイノリティの人々を排除したり、過度に特別扱いしたりするのではなく、普通の存在として描くのが当たり前になるといいですね。

賛同する企業とともにジェンダー平等を目指す

――世界的に広告やメディアにおける表現への意識はいつ頃から高まってきたのでしょうか。あわせてアンステレオタイプアライアンス発足の経緯についてもお聞かせください。

アンステレオタイプアライアンスは2017年に「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」にて発足し​​ました。

UNWOMEN市川さん

「男性、女性はこうあるべき」といったステレオタイプは、企業や人を縛ったり、型にはめたりすることで、イノベーションや自由な発想を遠ざけます。消費者もステレオタイプを描くブランドや商品からは、離れていきます。またステレオタイプは、ジェンダー平等を達成するための大きな障壁にもなっています。

日本支部では、メンバーとして広告主となる企業や広告エージェンシー、同盟としてNGOなどの非営利団体に賛同いただいています。こうした企業や団体とともにジェンダー平等を達成していくのが、私たちの目標です。

――活動内容としては具体的にどのようなことをしていますか。

日本支部ができたのが2020年の5月で、当時はコロナ禍の真っ最中でした。そのため、主な活動はすべてオンラインで行っていました。日本以外の国の支部としては、イギリス、南アフリカ、トルコ、ブラジル、オーストラリアなどがあります。月に1回、グローバルのメンバーを集めたオールメンバーコールという会議を実施しており、世界での取り組み事例やトレンドなどを共有しています。

グローバルでは「Say Nothing,Change Nothing」というキャンペーンを行い、3つの異なる状況で起こる「ステレオタイプ」による差別を描いたショートムービーを制作しました。実際、生活の中でジェンダーや人種などさまざまなステレオタイプによる差別に直面することはあっても、集団の中でそれを指摘することは難しいかと思います。このキャンペーンでは、そういった差別に直面したときにどのようにしてアクションしていけばいいのかというガイダンスを提供しています。

企業の枠を超えてムーブメントを起こしていく

――3月の国際女性デーには、日本支部でも初となるオフラインのイベントを開催したそうですね。

国連大学で、「ジェンダー平等とダイバーシティについて考える」というイベントを実施しました。前半は、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所の方や内閣府の男女共同参画局の方に講演をしていただき、後半はメンバー企業の方々から各社で行われている取り組みの事例についてご共有いただくといった内容でした。初の対面でのイベントということで、反響も大きかったですね。企業のD&I担当者や人事・広報の方などに参加いただいたのですが、今後も定期的に開催してほしいという声も多かったです。

アンステレオタイプイベント

国際女性デーに行われたイベントの様子

リアルでできたことの良さとして実感したのは、参加者同士の横のつながりを促せたということです。D&I(Diversity&Inclusion)についての取り組みは、各企業ごとにそれぞれ実施されているのですが、どうしても点在的になってしまっているように見えます。ですが、日本社会にインパクトを与えていくためには企業の枠を超えて一つになっていかないと解決できません。国内では現在9つの企業や団体、中には資生堂やPOLAといった同業界の企業も参画いただいていますが、皆さんから、こうした取り組みは競合するものではなく、むしろ横の連携が課題解決に向けて重要だというお声をいただいています。ですので、私たちからの呼びかけを通して、同じ目標を共有する企業を増やし、大きなムーブメントを起こせたらと考えています。

――楽しみですね。そのために計画していることなどありますか。

「アンステレオタイプ」という言葉自体、まだまだ認知されていない状況なので、まずはその認知を高める活動をしていきたいですね。何かを正解として示すのではなく、みんながステレオタイプについて考えるきっかけを与えられるようなキャンペーンを日本でも実施していきたいです。また、そうした啓蒙活動の根拠となるような調査を行って、日本独自のデータとして活用していきたいと考えています。

日本はジェンダーギャップ指数でも低迷していることから、諸外国に比べて「遅れている」のではという意見もあります。ですが、私としては「日本だけが遅れている」わけではなく、それぞれの国でそれぞれのステレオタイプの特徴があり、その状況に合わせてそれぞれ取り組んでいるということを伝えていきたいです。一つひとつは小さな動きでも、集まれば社会にポジティブな変革を起こせるかもしれません。私たちは「アライアンス=同盟」として、ご賛同いただける企業の方々と一緒に、いろいろな試みに挑戦していけたらと思います。

市川 桂子(いちかわ けいこ)● 大学卒業後、大手日本メディアの外信部にて難民問題など国際ニュースに携わる。退職後、イギリスの大学院にて修士号を取得。帰国後、国際NGO、複数の国連機関でメディア連携や広報を担当。2023年2月より現職。

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

Keyword

岡部 のぞみ
Writer 岡部 のぞみ

VIEW MORE

Page Top