Paranaviトップ ライフスタイル ジェンダー/フェミニズム アルテイシアさん×能條桃子さん×愛媛新聞労組・秀野太俊さんトークセッション|新聞労連公開シンポジウムイベントレポート#3

アルテイシアさん×能條桃子さん×愛媛新聞労組・秀野太俊さんトークセッション|新聞労連公開シンポジウムイベントレポート#3

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

ジェンダー表現を、どう変えていったらいいのか――。解決策を探るため、作家のアルテイシアさんと、一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事・FIFTYS PROJECT代表の能條桃子さん、愛媛新聞労働組合の秀野太俊さんでトークセッションを実施。司会は、朝日新聞労組の中塚久美子さんが務めました。3人が縦横無尽に語り合ったトークセッションの内容をお送りします。

※本記事は、2024年6月29日に東京・水道橋で行われた「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(小学館)発刊2年記念シンポ「ジェンダー表現たのしんでいますか~アルテイシアさんを囲んで〜」の内容から構成しています。

大きな組織の中でジェンダーの話をするには、根回しが必要

能條

私は、「一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN」という若い世代の政治参加を促進する団体の代表理事をしています。また「FIFTYS PROJECT」という団体で、政治分野のジェンダーギャップ解消に向けた活動をしています。地方議会に立候補する20〜30代の女性を増やそうという試みです。私がフェミニストになったきっかけは、デンマークに留学したことです。ジェンダーギャップが日本よりずっと少ない、男女差別もない国で暮らして、「あ、居心地いいわ」って思ったんです。同時に、日本の景色がおかしいって言ってもいいんだと気づきました。

中塚

能條さんには今回、「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(小学館)を読んでいただきました。ご感想を教えてください。

能條

この本はぜひ、マスコミの上層部、意思決定力を持っている人に読んでほしいと思います。私が普段取材を受けていても、ジェンダーに関心がある記者さんにインタビューされると「あ、仲間だな」と感じるし、本当に心地よくて話しやすいです。逆もしかりで、「取材しろって言われたから来ました」というレベルの人はすぐわかる(笑)。この本にも、ジェンダーに興味がない人のあるある発言がたくさん載っていて、よく聞く身に覚えがあるなと思いました。

能條桃子さん(一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN設立者、代表理事。FIFTYS PROJECT代表)

能條桃子さん(一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN設立者、代表理事。FIFTYS PROJECT代表)

能條

2021年2月、森喜朗さんが女性蔑視発言をして大問題になりました。あの発言はすごく大きなニュースになって世界中に広まったし、いろんなメディアで取り上げられましたよね。私は森氏の処遇の検討と再発防止を求める署名をして、国内外の60社から取材されましたが、そのうちなんと59社が女性記者でした。
やっぱり、メディアという男尊女卑が根深い世界で戦ってきた人たちがいるからこそニュースになり、広く世に伝わっていくんだと改めて感じたんです。今回本を読んで、あのときの経験を思い出しました。

アルテイシア

私も取材を受ける側の立場として、「デスクとの戦い」はたびたび感じさせられてきました。例えば取材の中でジェンダーの話や既得権益の話をしても、後日「デスクに削られちゃいました」とか「陰謀論扱いされました」と言われて削除されたことは何度もあります。組織の中でジェンダーの話をするには、根回しが必要なんだと感じます。

秀野

取材する側も、社外でつい弱音を吐きたくなっちゃうくらい追い込まれているんだと思います。たぶん、みんなジェンダーについて問題意識を持っている中、能條さんのように若い人が行動してくれていることがうれしく、心強かったんじゃないかと。少しずつでも着実に世の中が変わっていくかもしれないと思って、希望を託すような気持ちだったんじゃないかと思います。

人権意識の高いメディアでも、ジェンダー意識は緩いことが多い

能條

2015〜16年、私が高校生だったころに「SEALDs」という学生の政治団体がありました。メディアでは「政治に関心なさそうな見た目の若い女性が活動している」部分がフックになっていて、すごく消費されていたように見えました。メディアはSEALDsのことを政治に物申す英雄のように取り上げるけど、一方で若くて女性の画を欲しがるという。
つまり、「若い人の活動=新しい」みたいな目線がありましたよね。政治活動は本来年齢とは関係ないことのはずなのに、若さや見た目に託されてしまってる部分があったなと思います。もし性別や年齢が違ったら、同じ言葉を使っていましたか? と思います。
結果的にSEALDsはSNSで叩かれましたが、別にメディアがそこから守ってくれるわけではありません。私は、このとき若者の間に「SEALDsのように目立つ活動をして声を上げると、世間から叩かれるんだ」という感覚が生まれたんじゃないかと思っています。

中塚

女性や若者が声を上げることに対してどんな眼差しを向けているのか、取材者自身が自覚的であるべきですよね。
差別表現に対して、メディアの中にはかなり厳格なチェック機能があると思いますが、ジェンダーに関してはゆるいように感じます。ほかの差別問題に関しては長年の蓄積があるけど、ジェンダーだけは長年軽んじられてきたように見えます。

中塚久美子さん(朝日新聞労組)

トークセッションの司会を務めた、中塚久美子さん(朝日新聞労組)

アルテイシア

本当にそうで、他の人権意識は高いのにジェンダーに関するチェック機能は甘いなと感じます。だから、「え、こんな見出しが世に出ちゃうの?」という例が頻出するんですよね。ジェンダーをちゃんと理解している人に全部チェックしてもらった方がいいと思うくらい(笑)。
たまに政党の勉強会に呼んでいただくと、党員も支持者も、圧倒的に70代以上の男性が多いんです。法律や制度のことは学んでいても、ジェンダーを自分ごととして考えたことがないという方は本当に多いです。頭でしかわかってなくて、感覚まで落ちていない。
そういう方には、まず「ご自身の体験を話してください」と伝えています。自分ごととして考える機会を持つと、「ああ、ジェンダーってこういうことなんだ」ってわかってもらえます。

「消滅可能性都市」のキラーワードで、地方にも危機感が生まれている

中塚

秀野さんは、愛媛新聞初の男性育休取得者と伺いました。

秀野

私は政治部の記者だった2008~9年ごろ、愛媛新聞の男性記者として初めて、9カ月間の男性育休を取りました。最初は、上司から「育休を取るなんて、何か悩みがあるのか?」と聞かれました(笑)。当時はマスコミで男性が育休を取るのは相当珍しかったんです。

秀野太俊さん(愛媛新聞労組)

秀野太俊さん(愛媛新聞労働組合)

秀野

企業として、男性育休の実績ができると外向けの発信にいいという判断もあってか、戸惑いつつも受け入れてもらいました。長期的にみたら、誰もが育休を取れる環境のほうが全体の生産性が上がると思いますが……短期的に考えて「育休を取ると生産性が下がる」という見方が、未だにありますよね。
地方にも変化が生まれてきています。僕は、地方よりも都市のほうが人の流動性が高いと思っていましたが、最近様相が変わってきました。全国の4割にあたる744の自治体が、2020年から2050年までの30年間で20〜30代の女性が半減し、最終的には消滅する可能性がある「消滅可能性都市」といわれたことがきっかけです。
多くの地方自治体は、若い女性がどんどんいなくなっていることに危機感を持っています。つまり女性たちに「このまま地元にいても、自己実現できないし、やりたいことをできない」と思われているわけですから。企業も、人手不足を実感しているところが多いようです。
僕は男性育休の経験者として、企業から呼ばれてお話をする機会があります。企業向けによくお伝えしているのは「多様性がない組織には人がこない。採用市場で話になりませんよ」ということ。新聞業界も応募人数がどんどん減って、昔のような採用がかなわなくなっていますから、他人事ではありません。

アルテイシアさん(作家)

アルテイシアさん(作家)。2005年『59番目のプロポーズ』でデビュー。ほかに『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』など著書20冊。

アルテイシア

世界的な大企業では、性別や年齢、人種、宗教などあらゆる面で一定数の人を採用しているケースもあります。どんな業界であれ、エリート男性の目線だけではわからないこと、生み出せないことがたくさんあるはずですよね。

施策の裏には「男性が主体、女性は客体」という構造がある

中塚

「消滅可能性都市」のような、権力側にぐさっとくるキラーワードが生まれて初めて、世の中が変わってきているわけですね。

アルテイシア

でもそれって、女性を産む機械としか見ていませんよね。地方での生活をキラキラコーティングして見せることで、「生殖可能な女性」に来てほしいというのが本音では? 実際に「地元ではこんな人が活躍しています!」と紹介されるのは、男性ばかりであることも多いです。

能條

そうですね。消滅可能性都市をきっかけにした施策を、批判的な視点なく報じているメディアは多いように思います。自治体の中で施策を作っている「主体」は男性が多くて、生殖可能な女性たちが「客体」として議論されている気持ち悪さを感じます。選挙でも「若者政策=少子化政策」というくくりになっていることが多くて、本来まったく別のはずなのに、おかしいなと思います。

アルテイシア

選挙では「女性支援=シングルマザー支援」というくくりもありますよね。子どもが18歳になったらなくなる支援ですから、本当に子どもを産み育てるロボットとしてしか見られていないことを感じます。これはあくまで人権の話ですから、コスパで考えること自体が間違っていると思います。

秀野

子育て支援にしろ女性支援にしろ、「こうしたほうが経済合理性が高いから」と経済合理性の面から説得しないと伝わらないし、興味を持たれない。正面から「人権がこうだから」といっても、多くの人には聞いてもらえないんです。企業も上層部には多様性がないから、その中で出てくるジェンダー的なまなざしが影響しているんだと思います。

経済合理性を説明しないと、人権には興味をもってもらえない

能條

私は今26歳ですが、最近は大学時代よりも同級生のジェンダー感覚が悪化しているように感じます。みんなが就職して会社員になると、例えば男性育休について「理想はそうだけど、現実は難しいよ」と言うようになる。本人のもともとの思想とは違う、ジェンダーに染まってしまったわけですよね。私たちの世代はまともな人権感覚を持って育ってきたはずなのに……とむなしさを感じます。
教育現場がどれだけ男女平等になっても、一度みんなが社会に出れば、ジェンダー平等な価値観がガラガラと崩れていっちゃう。「若い世代が変わってくれれば、そのうち世の中全体が変わっていくだろう」というのは幻想だと思います。
ただ、すでにミソジニーに染まりきった上の世代が変わるのは難しいと思います。どちらかというと、ジェンダーや人権への意識をアップデートできない人、変える努力をする気がない人たちに権力を持たせ、重用し続ける側が問題ではないでしょうか。

アルテイシア

私たちの世代は、まともなジェンダー教育を受けてきていません。だから、誰かが失敗したり炎上したりしたときに、性別や年齢だけで判断して責め立てるのはよくないと思います。個人の自己責任ではなくて、教育や政治のせいだということを忘れないでいたい。
むしろ、私は最近になってようやく「燃えるべきものが燃えるようになった」と思います。森喜朗さんのような女性蔑視発言がしっかり叩かれ、立場を失うようになったのは、日本社会の進歩じゃないでしょうか。

能條

SNSで顕著ですが、誰かを責めすぎるのはよくないですね。みんなが「間違っちゃいけない」と思いすぎているように思います。誰にだって間違いはあります。私も、自分が当事者じゃないテーマには鈍感になってしまうことがよくあります。でも、その都度反省すればいいんだと思います。間違うことが前提の社会になればいいし、私はそういうコミュニケーションをとっていきたいと思います。

秀野

すべて、個人の問題じゃなくて構造の問題なんだと思います。大きな構造に対して「こう変えていきたい、こうしたら変えられるんじゃないか」と発信するほうがよほど建設的。そうしないと、社会も組織も変わっていかないと思います。

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

Keyword

さくら もえ
Writer さくら もえ

VIEW MORE

Page Top