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助産師のキャリア継続と産後ケアをマッチング、「ジョサンシーズ」が目指す「産みたいと思える」社会

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医療が発達した現在においても、出産により女性が身体に受けるダメージは「全治3ヶ月以上の交通事故と同じレベル」とも言われるほど。加えて、赤ちゃんのお世話に伴う寝不足やホルモンバランスの変化による心身の不調なども重なり、産後ケアの重要性が注目されています。ホテルやサービスなど産後ケア関連の事業が急速に拡大する中、先駆けとして2022年にサービスを開始したのが、助産師による育児サポートを提供する「ジョサンシーズ」です。代表の渡邊愛子さんがサービスを立ち上げた背景には、利用者への支援だけでなく、専門資格を有する女性たちの能力を活かす場を作りたいという思いがありました。

産後の不安に24時間寄り添う

——育児の疑問って夜中に突然出てきたりしますよね。「ジョサンシーズ」は実際に助産師さんが家庭に訪問してくれるだけでなく、オンラインでも24時間サポートしてくれるというのが、とてもありがたいサービスです。

産後2週間の時点で初産婦の約25%が「うつの可能性がある」とされるデータ(※1)もあるほど、産後ケアの必要性が示されています。こうした産後うつ」は、ホルモンバランスの変化や身体的な疲労、育児のプレッシャーから引き起こされることが多く、適切なケアが欠かせません。

「ジョサンシーズ」では、新生児から利用できる低月齢向けのシッターサービスとLINEを使った相談サービスを提供しています。助産師がサポートするということで、新生児室に預けるような感覚で安心して利用できると評価いただいています。一方、LINEの相談サービスは、月額3500円で担当の助産師に24時間いつでも相談できるという内容です。

ミルクや授乳の方法に始まり、ゲップの仕方、排泄、睡眠、離乳食など……。これだけインターネットなどに情報が溢れていても、どれが自分達のケースに当てはまるのか、初めての育児であれば不安や心配はつきものです。このサービスでは全国を対象に、専属の助産師が、一人ひとりのご家庭やお子さんに合わせたアドバイスをしてくれます。お子さんの成長に合わせて、ネントレや保活についてなど、ご要望があったお悩みについてはすべて必要なときに解決策にアクセスできるようにサービスを提供しています。

(※1)厚生労働省の調査による、東京都世田谷区の妊産婦約1,300人を対象にした調査(2014年度)

——最近では、三菱地所の都心宿泊型産後ケアサービス「YUARITO(ユアリト)」とも提携されています。

2024年5月から提携していて7月に東京・日本橋のロイヤルパークホテルで、睡眠不足や育児不安に悩むママと家族を、助産師の方達が24時間体制でサポートし、安心して休める時間・空間と、信頼できる情報を提供しています。「丸の内の森レディースクリニック」にも医療監修で入っていただき、安心・安全を最優先とした体制を整えています。また、9月には日帰り型産後ケア施設「YUARITO DAY 日本橋浜町」もオープンし、産後の赤ちゃんとママの様々なニーズに対応し、サポートをしています。

働き方の問題で多くの助産師が「潜在化」

——「ジョサンシーズ」に登録されている助産師さんの数は日本でもトップクラスだそうですね。

今「ジョサンシーズ」には1000人近くの助産師の方が登録しています。助産師になるには看護師の資格を取得した後に、助産師の国家試験に合格する必要があるのですが、これは女性にしか与えられない国家資格です。私自身、助産師の資格を持っていて、働き方の観点から長期的なキャリアを築きにくいという課題を感じていました。実際に、妊娠出産などライフスタイルに変化が訪れる20代後半から30代前半に現場を離れてしまい、そのままになってしまっている「潜在助産師」の方の数は約6万人にも及ぶと言われています。(※2)

そうした方達の能力が生かされず、埋もれてしまうのは非常にもったいない。そこで、助産師のシェアリングプラットフォームを構築することにしたんです。病院勤務や助産院の開院という形だとキャリアを諦めざるをえなかった彼女たちの力を、テクノロジーを駆使することで、産前産後を包括的にサポートできる社会のインフラとして、より身近に利用できるようにしたいというのが私たちの狙いです。

(※2) 出典:「政府統計の総合窓口(e-Stat)」衛生行政報告例(厚生労働省) 「令和4年度衛生行政報告例」
潜在助産師数約6万人は、「助産師国家試験合格者数-就業助産師数」より算出

――渡辺さんご自身も第2子ご出産を機に起業されたということですが、助産師として働く中で育児との両立に悩まれたのでしょうか。

ジョサンシーズ渡邊愛子さん

実は、2人目の子が生まれつき免疫力が低く、集団生活をさせないほうがいいと医師から言われてしまったんです。そのため仕事を休みがちになってしまいました。それで病院勤務を辞めたのですが、辞めた瞬間にまったく仕事がなくなってしまったんです。助産師の仕事は、例えばライターさんのように、空いた時間にリモートで少し働くというようなことができません。ゼロか100かの選択肢になってしまうんです。

また、私自身、助産師として働いてきた経験から、赤ちゃんとの関わり方は理解しているはずなのに、自分の子となると思い通りにできないことも多く体験しました。自分ですらそうであれば、たいていのご家庭はもっと大変だろうとも思ったんです。2022年当時、ベビーシッター利用に補助ができるということで、さまざまなベビーシッターサービスが利用を呼びかけていました。それを見て、ベビーシッターよりも一歩踏み込んだ助産師によるサービスが今後はいっそう求められるのではないかと感じ、自分の子どもが幼稚園に入るタイミングで起業しました。

退院後の「いちばん辛いとき」を支える

——実際にサービスを利用される方はどんな方が多いのでしょうか?

単発で少しずつ利用されるというよりも、長期的に決まった時間に利用される方が多いですね。朝の11時から夜の7時までを毎日といった利用方法です。こうした形で利用いただいているのも、単なるベビーシッターではなく、助産師という資格に価値を感じて信頼いただいているのかなと思います。

もちろんお預かりするだけではなく、ミルクの調整を一緒にしたり、赤ちゃんのお世話についてレクチャーしたりといった、ご家庭ごとのニーズに合わせたケアをしています。言葉としてはベビーシッターというのがわかりやすいため使用していますが、単なるシッティングの枠に留まらない包括的な産後ケアを提供しています。

——赤ちゃんの沐浴についてなど、パパへのレクチャーもしてくれるそうですね。

現状は結局、退院後にママがパパに育児のレクチャーをする必要がありますよね。実は、LINE相談のお悩みを集計すると、パパについてのことがいちばん多かったんです。パパにレクチャーをしてほしいというニーズは多いですね。核家族や共働きが当たり前の今、パパにもしっかりと育児に参加してもらうのは大前提となっています。育児のハードルを下げるために必要なのは、かかわる大人を増やすこと。LINE相談でもできるだけその地域に近い助産師をアサインするようにしていて、何かあったときに駆けつけられるような人たちをなるべく意識しています。

ジョサンーズ

——孤独にさせないというのもありがたいですね。産院って退院してしまうとそれきりで、もう少し頼りたかったというママも多いように思います。

そうなんです。まさに産後2日で帰らされてしまい、育児の仕方が何もわからないから明日から来てくださいという方もいらっしゃいます。産院の先生からすれば、やはり安全に出産を終えることが最大の目標で、帰ってからのことは見えないところ。ですが、これだけ少子化が進んでいる今、実は産院にとっても、2人目出産の際は、また自分たちの病院に戻ってきてもらえるようにすることがメリットになるんですよね。ジョサンシーズと提携している代官山バースクリニックでは、産後半年まで連携することによって、体重や子どもの状態などのデータと専属の助産師によるケアを紐づけて、より充実した産後を過ごせるようなサービス設計をしています。

——すべての産院でそれをやってくれたら子どもを産みたいと思う人も増えそうですね。

少子化が急速に進行する中、現状を解決するためには、すでに出産・育児を経験したうえで第2子以降を希望する家庭への支援が不可欠です。第2子を諦める理由には、もちろん経済的な状況もあります。ですが、大きなハードルとして、1人目の出産・育児経験の大変さに影響されるというデータもあります。私たちにできるのは、「産後うつ」の予防と育児支援を通じて、家庭全体が安心して新しい生活に適応できる環境を整えること。親が安心して子育てに専念できる社会を実現し、誰もが産みたいと思ったときに、産んでも大丈夫と思える世界をつくりたいと思っています。

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杉森 有規
Writer 杉森 有規

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