Paranaviトップ お仕事 起業/独立 「障害のあるこどもや、学校に行きづらいこどもの支援を」教育のプロ2人が営むカフェ「ヨリドコロ mani mani」で起きている変化

「障害のあるこどもや、学校に行きづらいこどもの支援を」教育のプロ2人が営むカフェ「ヨリドコロ mani mani」で起きている変化

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

千葉県鎌ケ谷市で2024年2月にオープンしたカフェ「ヨリドコロ mani mani」(マニマニ)。木のぬくもりを感じるあたたかい雰囲気の店内では、カフェのほか、学校に行きづらいこどもたちとその保護者への支援活動をしています。mani maniを二人三脚で経営している伊藤祥子さん、川崎彩さんに、その狙いを聞きました。

違う経験を持っている2人だからこそ運営できるカフェ

――mani maniでは、カフェ以外にどんな活動をしているんでしょうか。

伊藤 主に学校に行きづらさがあるお子さんの支援「マニマニプロジェクト」や、育児に悩む保護者の個別相談「ヨリドコロ」などをしています。2024年4月に始めたばかりで、こどもたちの反応を見ながらベストなかたちを探している段階です。

教育現場での経験が長い私たちですが、学校の外でこどもたちと過ごすのは初めてで、毎日新鮮なことばかりです。新しく出会えたこどもたちや保護者の方々との時間は私たちにとって学ぶことが多く、とても大切なものになっています。

川崎 こどもに「普段はなかなかお家から出られないけど、mani maniは楽しみだから来られる」とか「mani maniから家まで、1人で帰れるようになった!」と言われるとうれしいですね。それぞれ状況も個性も違うので、私たちに何ができるか日々考えています。家族でも学校の先生でもない、私たちの立場から「大丈夫だよ」と伝えていきたいです。

かつて小学校で働いていた頃の私は、「学校に毎日来られるようになった=頑張っている、良くなっている」と思っていました。もちろん皆勤賞はすばらしいですが、唯一の正解ではないんですよね。

私たちはどうしても、そのとき自分が置かれている立場からこどもたちを見てしまいます。マニプロを始めたからこそ、学校とは違ったこどもたちの面を見られるようになりました。

mani maniを二人三脚で経営している伊藤祥子さん、川崎彩さん

左:川崎彩さん、右:伊藤祥子さん

――マニプロは、伊藤さんと川崎さんの2人だからこそできる活動なんですね。

川崎 そう思います! 伊藤さんがカフェの1階で保護者の方のケアをして、その間に私が2階でこどもたちをみるというのがおおまかな割り振り。ゆっくり保護者の相談に乗れるし、こどもたちと一人ひとりの成長に応じた橋渡しもできます。私たちの経験や資格を活かせているな、と手応えを感じています。

私たち2人は、性格もものの考え方も過去の経験も違うので、何か決めるたびにそれぞれの目線で確認しながら進めていけることが良いのかなと思っています。

伊藤 こどもたちがマニプロに参加する頻度はバラバラで、毎週必ず来る子も、突発的に参加してくれる子もいます。共通しているのは、みんなすごく優しい心を持っていること。ほかの人の気持ちを察してあげられるのは、きっと、自分が傷ついた経験があるから。しんどい思いをした結果、身につけた糧があるんですよね。

内側にこもってしまった人が、一歩動き出す後押しをしたい

――お2人が、mani maniをスタートしたきっかけは何だったんでしょうか?

千葉県鎌ヶ谷市、人が行き交う馬込十字路に誕生したmani mani。カフェとしては週に4回運営しており、ランチは日替わりメニューが2つ。ほっと一息つきながら、ゆっくり味わえる店内です。

川崎 2022年7月ごろ、「私たち2人で、一緒にワクワクすることをやろうよ!」「子育て支援のカフェをやったら、いろんな人たちの役に立てそう!」と盛り上がって。私は勤めていた小学校を2023年3月に辞めて、実家に帰ったりしながらのんびりした時間を過ごして、キャリアブレイクを取りました。

伊藤 私は2023年6月に仕事を辞めて、mani maniの準備をスタートしました。そのとき思ったのは「人が気軽に集まれる場所にしたい」ということ。例えば学校に行きづらい子や障害を持つこどもや保護者も、地域に開かれたかわいいカフェなら来やすいかなと。まずはお店に入るハードルを下げて、足を向けてもらおうと思いました。

川崎 資格と経験を活かして、こどもの発達や障害についての相談に乗ったりアドバイスしたりできるかなと思ったんです。

――困っている保護者や子どもたちの力になりたいという気持ちから始まっているんですね。

店内の随所に、子育て相談をアシストする気遣いがあります

伊藤 こどものケアと保護者のケアは同等に大切だと考えています。学校でも外出先でも周りに謝ってばかりの毎日。メンタルが弱って当然だし、キャリアを諦めざるを得なかった方もいます。いちばんよくないのは孤立してしまうことなので、「mani maniの私たちがいるよ、味方がいるから大丈夫だよ」と伝えていきたいんです。

川崎 子育てに困っている人が、予約もせずぷらっと遊びに来て、ごはんを食べたりお茶を飲んだりしながらカジュアルに子育ての話をする場所にしたいなと。インテリアも「子育て相談所」的な雰囲気じゃなく、あくまでもかわいくおしゃれに仕上げて、立ち寄りやすい場所にしたいと思いました。

mani maniで子育ての悩みを吐き出して、少しでも楽になってくれればいいし、「ああ、来てよかった」と感じて帰ってもらえたら最高にうれしいです。一人で抱えていた人が一歩動き出す、その後押しになれる場所でありたいですね。

伊藤 店内にはこどもたちが描いた絵などを飾ってあり、それを来てくださった方が目に留めてくださり、話題になることもよくあるんですよ。こどもの力や可能性を感じてほしいですね。

開店から10カ月経って、ようやく手応えを感じられるように

mani maniの店内。木やグリーンの温かみにあふれた、みんなの居場所です。

――mani maniがオープンして10カ月ほど経ちました。ターゲットとなる子どもたちや保護者は、お店に来てくれるようになりましたか?

伊藤 手応えを感じるようになったのはつい最近のことです。開店当初は知り合いや関係者、教え子が開店祝いがてら来てくれましたが、お客さんはあまり来なくて、悩んだこともありました。私たちはごはんやドリンクをつくる仕事じゃなくて、子育て相談をしたくて始めたはずだったのにおかしいな……と(笑)。

もしかして、私たちのやりたいことは世の中のニーズとはズレてるのかなと複雑な思いにもなりました。2人でいくら話しても結論が出ず、長いトンネルの中にいる気分でしたね。

9月ごろからだんだん潮目が変わってきました。「いつかmani maniに行きたいと思っていて、今日勇気を出して来ました」と言っていただいたり、たまたまランチを食べに来たら相談できることが分かってそのままお話ししたり、お友達に紹介してくださったり、ということが多くなったんです。ようやく、mani maniを必要としてくれている人たちにたどり着けたんじゃないかという感触があります。

川崎 最近は、売り上げは少なくても、本来私たちがやりたかったことに近づけてきた感じがしています。オープン前は2人で「mani maniがすぐ大人気になっちゃったりして!」なんて言い合っていたんですけど(笑)。かつて小学校に勤めていたときは、何もしなくても当たり前ですけど毎日子どもたちが集まってきたので(笑)。お客さんを呼ぶというハードルをつくづく感じています。

経営なんて全然わからないのに、カフェを始めちゃった

――mani maniを経営するうえで、難しさを感じている部分はありますか?

mani maniを二人三脚で経営している伊藤祥子さん、川崎彩さん

川崎 いちばんは、mani maniのコンセプトをうまく伝えられないことです。子育て相談を全面に押し出すと、そうでない人が来にくくなってしまいそうですが、でも何も発信しなければ誰にも伝わらない。言葉の選び方や発信方法が本当に難しくて。毎日、このせめぎ合いです。

伊藤 ただお店を開いて待っているだけでは来てもらえない。かといって、デリカシーなく「困ったら、来てね!」と呼ぶのも憚られる。伝え方についてずっと2人で相談しています。ニーズがあることと、私たちがやりたいことと、そしてできること。3つの円が重なる部分を、試行錯誤しながら探しています。

川崎 ニーズでいうと、不登校支援は想像以上に求められているんだなと感じますし、一生懸命それに応えている状態です。1人で全部やれば自由度は高いけど、どうやったらいいか全然わからなかったはず。いつも伊藤さんと相談し合って判断できるので、2人でやっていて本当によかったと思います。

伊藤 私たち、経営のことなんて全然わからないのにmani maniを始めちゃったみたいなところがあります(笑)。売り上げの目標もとくにありません。我ながら、まっしぐらに向かう先のゴールがないのに、よくやっているなと思います(笑)。

川崎 お店の名前につけた「mani mani」は、「なるようになる、なるようにしかならない」という意味。まさにそのとおりの経営スタンスですね。多分、あんまり儲からないんだろうなあということだけはわかっています(笑)。

こども一人ひとりが持つ魅力に、目を向けるきっかけをつくりたい

――今後、mani maniをどんなお店にしていきたいですか?

川崎 障害を持つ人やこどもが作る作品を店内に飾ったり、販売したりして、魅力を伝えられる場にしたいです。「障害があるのにすごいね」ではなくて、純粋に才能を感じてほしいですね。

伊藤 夢でいえば、障害を持つ人が作品を作ったり、カフェで働いたりする就労支援の場も作れたらいいなあと思っています。

「みんなと同じように行動する」ことだけを正とすれば、障害はマイナスです。でも、一人ひとりが必ず魅力を持っているし、周りがそれに目を向けるきっかけになりたいですね。そのためにはバリアフリーが必須だし、もっと広い場所にお店を移す必要があるかもしれません。

SHARE

Xでシェア Facebookでシェア LINEでシェア

Keyword

さくら もえ
Writer さくら もえ

VIEW MORE

Page Top