大学卒業後、一般企業での経理・財務部門を経て税理士になった戸村涼子さん。ITに強い税理士として、多くのクライアントから支持されています。戸村さんの独自のキャリアについて伺いました。
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簿記を見て「暗号みたいで面白そう!」と思ったのがきっかけ
――戸村さんが、経理・財務の分野に興味を持ったきっかけは何でしたか。
簿記に興味を持ったのがきっかけです。姉が金融系の仕事をしていて、簿記検定を取るといって勉強していたんです。その中身を見せてもらったら、文字と数字がばーっと並んでいて、暗号みたいで面白いなと思ったんですよね。これを読み解けば貸借対照表(バランスシート)や損益対照表ができあがると知って、不思議だなあと(笑)。
私もこの謎解きをやってみたい! と思って、大学生のとき、簿記の勉強を始めました。貸借対照表の左右が一致するというのがなぜなのかわからなくて、ワクワクしたのを覚えています。
そうして始めた簿記の勉強の先に、「経理」という仕事があると知って、きっと私にはこの仕事がいちばんだと思うようになりました。個人の会計事務所でアルバイトをして、大学卒業後はそのままそこに就職しました。
――就職活動はしなかったのでしょうか。
しませんでした。周りのみんなは就職氷河期の中、企業説明会に行ったり面接を受けたりしていましたが、私はどこか他人事でした。みんな、よく毎日こんなに精力的に動けるなあ……と思っていたくらいです(笑)。やらなきゃいけないとはうっすら思ったけど、やらなくてもいいかなと。
就職して約1年で結婚し、その後すぐ妊娠して事務所を辞めました。子どもが1歳になる前に、いくつかの派遣会社に登録して、紹介された外資系の企業の経理部門で社会復帰しました。当時としては結構早い復帰だったと思います。
当時は2000年代初頭で、わりと景気が良かったんですよね。だから、初心者の私も受け入れてもらえたんだと思います。英語も好きなので、働いてみたいなと感じました。それから8年間くらい、ずっと非正規スタッフとして、外資系の企業を渡り歩きました。企業の合併や買収も多い世界で、変化が激しく刺激的でしたね。
外資系企業を辞めた後、日系の上場企業の経理部門に3年半勤めました。THE日本企業という感じで、それまで生きてきた外資の世界とはあまりにもカルチャーが違ってびっくりしました。休み時間は毎日きっちりとるし、ヒエラルキーもすごくて、そういうすべてが新鮮でした。
手に職がほしくて、簿記の延長線上にある「税理士」を選択
――働きながら税理士の資格を取得されました。なぜ資格を取ろうと思ったのでしょうか。
私は大学卒業後すぐに結婚・出産したので、とにかく手に職がほしかったんです。簿記の延長線上で取れる資格として、税理士があると気づいて。しかも1科目ずつ勉強して合格していける制度なので、子育ても仕事もしながらマイペースに進められると思い、税理士に決めました。
まずは働きながら勉強して、税理士試験の5科目のうち、3科目の試験に受かりました。残りの2科目は大学院に通って、論文審査を受かれば税理士になれるという状況だったので、大学院に行こうと決めました。
――働きながら税理士の資格を取るのはすごく難しいですよね。勉強の時間をどうやって捻出されましたか。
試験勉強をする時間は、朝しかありませんでした。朝会社に行く前に、カフェで計算問題を解いたり、歩きながら暗記したり、電車に乗っている間にインプットしたりと工夫しました。大学院はそもそも平日夜と土日だけだったので、子育てや家事は家族に協力してもらって、なんとか回しました。
大学院では、すんなり論文の審査が通りました。自分で先行研究を集めてまとめて、自分なりの意見を出していくプロセスだったんですが、どうやら私にはそういう作業が合っていたみたいです。
私、自分の頭で考えないといけない勉強は好きだし得意なんだなと気づきました。暗記の試験勉強はめっぽう苦手なので、それとは違う頭の使い方が好きなんだと思います。
今振り返っても、本当に、大学院に行ってよかったです。通っていた2年間、確かに忙しく大変でしたが、辛さは全然感じませんでした。それまでは、子育てと家事と仕事だけで1日が終わっていましたが、大学院に行ったことで自分だけの時間を持てるようになりました。時間を自由に使える大義名分ができたというか。まさに生きがいとやりがいを感じましたね。
「組織で働くのは合わない」と気づいた
――資格を取ってから開業するまで、税理士法人に勤務されたそうですね。
私、本当に組織で働くのがダメで(笑)。税理士法人時代に「あ、これは無理だな」と思いました。残業時間も多くて、身体的にも精神的にもこのまま続けていたらまずいなと思ったこともあり、税理士法人を辞め、2016年4月に税理士事務所を開業したんです。独立するために辞めたというよりは、ただ現状から逃げ出したかっただけです。
――税理士としての戸村さんの特徴に、「IT(テクノロジー)の活用」があるのではないかと思います。そこに目をつけられたのはなぜでしょうか。
ネットを使いこなしたり、Microsoft Excelを使ってデータを整理したりするのは、私にとっては当たり前でした。私はVBA(Visual Basic for Applications=Microsoft Officeのアプリケーションの機能を拡張するためのプログラミング言語)で作業を効率化するのが好きで、自分でいろいろと工夫していました。
でも、これは意外と当たり前じゃないスキルなのかもしれないと、税理士法人で働いてみて気づいたんです。職場では、紙で情報が渡されたり整理されていたりすることが多くて。「どうしてこんなアナログなやり方を続けているんだろう?」「なんのために書類を手書きしているんだろう?」と疑問に思うことが多かったんですよね。
一般企業では当たり前に使われているGoogleAppsや基礎的なプログラミングも、税理士業界では使える人がそう多くありません。私が昔から遊び半分でいじっていたExcelやVBAも、勤めていた会計事務所や税理士事務所ではほとんど生かせませんでした。
独立して、何でも自分の自由にできるようになったのを機に「ITに強い税理士です」とアピールしてみたところ、すぐに周りと差別化できました。そうやってちょっとだけでも目立てれば、ほかの税理士にはない強みとしてクライアントから見てもらえます。
たぶんこの業界には、デジタルのよさを知らない人が多いんだと思います。そこにたまたま、私の得意分野がピッタリハマった感じです。
「ITを使って楽したい」願望が人一倍強い
――IT分野には、いつごろから興味を持っていたんですか?
子どものころから、パソコンにさわるのが好きでした。父の趣味で、マイクロソフトが1981年から出していたパソコンOS「MS-DOS(Microsoft Disk Operating System)」の時代から、家にパソコンがあったんです。Windows95が出たときも父がすぐに買ってきたので、私も見よう見まねでさわっていました。
私が大学生になったころ、インターネットが一般化したので、ISDNを設定したり、自分でコードを書いてHPを作ったりしていました。このころの経験がいまだに生きていて、実は今でも自分のHPを手作りしています。
とにかく「ITを使ってラクしたい!」という感覚が強く、その願望も人より大きいんだと思います。かつて組織で働いていたころは、仕事の進め方を、自分で自由に決められるわけではなかったので。今は独立してひとり仕事をしているからこそ、自由にプログラミングを使い放題。それがとてもうれしいです!