2025年4月、育児・介護休業法が改正されました。ワーク・ライフ・バランスの浸透や価値観の変化とともに、より自由な働き方ができるようになってきた近年。一方で、育児や介護など、家庭との両立に悩む人たちはまだまだ多くいます。結果、本当は仕事を続けたいけれど辞めざるを得ない、といったことになれば個人にとっても社会にとっても大きなマイナスです。現在、育児や介護をしている、あるいは将来そうなる人たちにとって、今回の法改正は働き方や生活にどう影響するのか、ポイントをまとめました。
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育児や介護による離職は大きな社会課題
厚生労働省は2025年6月、2024年の出生数が統計以来初めて70万人を下回ったことを発表し、ニュースでも大きな話題になりました。改めて、日本の少子化の深刻さを実感した人も多いのではないでしょうか。
一方、子ども家庭庁の「令和6年版こども白書」(※1)を見ると、第1子を出産した既婚女性で、仕事を続けた人の割合が増加傾向にあることや、夫の家事・育児時間が長いほど、女性(妻)の就業継続や第2子以降の出生割合が高い傾向にあることが紹介されています。
このことからも、母親、父親ともに出産・育児と両立しやすい働き方を実現していくことは、仕事を続けたいと思う女性個人にとっても、少子化対策に取り組む社会全体にとっても、ますます重要になるでしょう。
また、仕事と家庭の両立という課題を抱えているのは、出産・育児をしている人だけに限りません。東京商工リサーチが2025年4月、5,000社以上の企業を対象に実施した、「介護離職に関するアンケート」調査(※2)によると、過去1年間に介護を理由とした退職者が発生したと回答した企業は、全体の7.3%にのぼりました。
育児や介護が大変で「仕事が続けられない」と離職する人が増えれば、世の中の労働力が減り、経済活動に大きな影響を及ぼします。国も、これまでさまざまな対策を進めてきており、その一つが、「育児・介護休業法」です。ベースとなる法律は1990年代にできたもので、これまでに何度か改正を重ね、制度の適用範囲などが段階的に拡充されてきました。
そして2025年(令和7)年4月の改正(一部は10月から施行)では、男女ともに、仕事と育児や介護を両立できるよう、より柔軟な仕組みが示されました。制度の認知や利用を促すため、企業側の義務や努力義務も追加されています。
育児に関する改正ポイント:看護休暇や残業免除の対象年齢が拡大
ではここからは、厚生労働省が育児・介護休業法についてまとめた資料(※3)をもとに、今回の改正のポイントを見ていきましょう。
まずは育児についてです。

1.子の看護休暇の見直し
看護休暇を取得する場合の対象年齢や取得理由が拡大されました。
- 「小学校就学の始期に達するまで」⇒「小学校3年生修了まで」に変更
- 看護休暇が取得できる事由として「病気・けが/予防接種・健康診断」に、新たに「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式」が追加
- 除外できる労働者のうち、「継続雇用期間6か月未満」を撤廃
特にコロナ禍以降、学級閉鎖で急きょ自宅で子どもの面倒を見ないといけない、といったイレギュラーな事態に戸惑った家庭も多かったのではないでしょうか。また、看護のためだけでなく、入卒園式でも取得できるようにするなど、より子育ての実態に即した内容に見直されたようです。あわせて、名称も「子の看護“等”休暇」に変更されました。
2.所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
こちらについても、下記のように対象年齢が拡大されました。
- 「3歳未満の子を養育する労働者」⇒「小学校就学前の子を養育する労働者」
3.テレワークの推進
3歳未満の子を養育する労働者について、
- 短時間勤務制度の代替措置(短時間勤務制度を講ずることが困難な場合)に新たにテレワークを追加
- テレワークを選択できるように措置を講ずることが事業主の「努力義務」に
4.育児休業取得状況の公表義務の適用拡大
すでに大手企業では、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」についての公表義務がありましたが、より従業員数の少ない企業にも適用されます。
- 公表義務のある企業が、「従業員数1,000人超の企業」から「従業員数300人超の企業」に変更
2022年の法改正で産後パパ育休(出生時育児休業)が導入されるなど、近年急速に広がりつつある男性の育児休業。一方で、先ほどの「子ども白書」でも「制度はあるが取得しづらい」といった回答が多く挙がっています。今回、取得率の公表義務の対象が中規模の企業にも広がりましたが、「男性社員の育休」の前例が増えることで、それが当たり前の社会に近づいていくことが期待されます。
介護に関する改正ポイント:介護離職防止へ、企業の対応の義務化も
続いて、介護に関する改正のポイントです。育児と同様に、テレワークなどの柔軟な働き方ができるように改正されました。また、介護に関する各種制度の認知と利用を促すため、企業には個別周知や意向確認が義務化されました。

5.介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
- 除外できる労働者のうち、「継続雇用期間6か月未満」を撤廃
6.介護離職防止のための雇用環境整備
事業主は以下(1)~(4)のいずれかの措置を講じることが義務となりました。
- 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
- 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
- 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
7.介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
家族の介護に直面したと申し出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する事項の周知と、介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行うことが義務付けられました。
なお、周知する事項は、制度(介護休業や介護両立支援制度について)の内容、その申出先(例:人事部など)、介護給付金です。その際、例えば、申し出た場合の不利益をほのめかすなど、労働者に取得や利用を控えさせるようなことを行ってはいけません。
また、これらの事項についての情報提供を、労働者が介護に直面する前の早い段階(40歳等)で行うこととされています。
東京商工リサーチのアンケート調査では、介護離職者で介護休業や介護休暇を利用した人の割合は「いない」が54.7%(190社中、104社)と、半数以上で制度を利用しないまま離職したという結果が出ています。このことからも、そもそも制度の存在自体を知ってもらうことや、利用しやすい環境を整えることが非常に重要なようです。
8.介護のためのテレワーク導入
要介護状態の対象家族を介護する労働者に対して、テレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主の努力義務となりました。
10月からの施行のポイント
ここまでが4月に施行された内容です。2025年10月1日からはさらに、出産や育児に関連して、以下が事業主に義務付けられます。

9.柔軟な働き方を実現するための措置等
育児期の柔軟な働き方を実現するための措置
事業主は、3歳~小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下5つから、2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(10日以上/月)
- 保育施設の設置運営等
- 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
- 短時間勤務制度
なお、(1)~(4)はフルタイムが前提。
また、事業主はこれらの措置に関して、「3歳未満の子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期」に、個別の周知や意向確認を行う必要があります。周知事項は、対象措置の内容、その申し出先(例:人事部など)、所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度です。
10.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
事業主は、労働者の妊娠・出産の申出時や、子が3歳になる前に、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取を行う必要があります。
聴取する内容とは、勤務時間帯、勤務地、両立支援制度等の利用期間、仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)です。
また、聴取した意向については、自社の状況に応じて配慮しなければなりません。
まとめ
子どもが「小学校3年生修了まで」看護休暇を取得できるようになったり、子育てや介護をしている人のためのテレワークなど、努力義務も含めてさまざまな対策が盛り込まれた今回の法改正。
一方、いくら制度があっても、「うちは小さな会社だし、現実的にはなかなか休めない」と思った人もいるでしょう。
とはいえ、家庭の事情で退職してしまう人が後を絶たなければ、貴重な人材が失われ、困るのは企業も同じです。育児や介護はもはや、個人ではなく社会全体で抱えるべきテーマ。「自分には関係ない」と思っていても、介護のようにある日突然、当事者になることもあるでしょう。そのためにもぜひ、職場や自治体、国の仕組みについて積極的に知り、活用していきたいですね。
参考資料
※1 こども家庭庁:「令和6年版子ども白書」
https://www.cfa.go.jp/resources/white-paper/r06
※2 東京商工リサーチ:2025年4月「介護離職に関するアンケート」調査
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201287_1527.html
※3 厚生労働省:「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf