Paranaviトップ お仕事 働き方 単行本累計120万部突破&舞台化の裏側──人気漫画家おしばなお先生が語る、キャリアを加速させる秘訣

単行本累計120万部突破&舞台化の裏側──人気漫画家おしばなお先生が語る、キャリアを加速させる秘訣

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大人気コミカライズ作品『王太子様、私今度こそあなたに殺されたくないんです!〜聖女に嵌められた貧乏令嬢、二度目は串刺し回避します!〜』(原作:岡達英茉、キャラクター原案:先崎真琴/発行:講談社)が単行本累計120万部を突破し、今秋には舞台化も控える、漫画家のおしばなお先生。この作品は、貧乏令嬢のリーセルが一度目の人生で恋人の王太子に殺された運命に抗い、二度目の人生を切り開くタイムリープをテーマにした異世界ヒロインファンタジーです。

デビューから約4年弱という短期間で大きな成果を収めたおしばなお先生ですが、その裏側には、多忙を極める週刊連載の厳しい現実と、困難を乗り越えてきた努力があります。作品の人気拡大に伴う変化にどのように向き合ってきたのか、そして挑戦を続けるための秘訣について詳しく聞きました。

人気漫画の週刊連載を支える制作の裏側

——先生とは以前、別の取材で上京エピソードを伺って以来ですね。漫画家としてデビューされて約4年弱で、単行本は累計120万部を突破という勢いですが、まずはその週刊連載を支える働き方についてお聞かせください。ざっくりと、どのような制作スケジュールで1週間動いているのでしょうか。

原稿のストックが2〜3話あるので、実はきっちり1週間ごとに1本上げる感じではないんですよ。3日ほどでネーム(コマ割り・キャラクター配置・セリフなどの下書き)をやって、その後4〜5日ほどで仕上げることが多いです。最近はアシスタントさんが増えてくれたので、自分の負担は以前より減りました。デビュー当初よりはだいぶ働きやすくなりましたね。

——アシスタントさんはどのように見つけるのですか?制作体制や働き方についても教えてください。

デビュー初期はほとんど1人で描いており、ときどき大学の後輩やアシスタント時代の仲間に無理のない範囲でお願いしていました。今はアシスタント募集サイトで見つけた方にお願いしていて、週刊連載なので安定して作業してもらえるよう、人数を少し多めに採用しています。アシスタントさんをしっかりと雇えるようになったのは、4巻くらいからでした。

現在の体制は、レギュラーのアシスタントさん4人とヘルプさん1人で、ほとんどが地方在住の方なのでリモートで働いています。最強のチームメンバーに支えてもらいながら、日々制作しています。

——デビュー当初の生活はどのようなものでしたか?

最初って、本当にお金がない中で始めるんですよ。出版社からある程度、前金のようなものをもらってスタートするのかなと想像していたのですが、実際はそうではなく、最初はただひたすら自分から出ていくものばかりで大変でした。だから、漫画家を目指す人は貯金しておいてください(笑)。

漫画家は独立した働き方なので、先ほどのアシスタントさん探しもそうですが、基本的にはなんでも自分でやる必要があります。たとえば印税が入ってくるようになって、税金に関する知識が必要になった際には、自分で税理士さんを探したり確定申告の勉強をしたり……といった具合です。想像よりも「漫画を描く」以外にやることが、たくさんあると知りました。

——漫画家の働き方のメリットとデメリットについてお聞かせください。

まずメリットは、通勤電車に乗らずに済むことや、家から出なくていいことですね。自分の世界に浸れるので。先生によっては大きな液タブで描いている方もいますが、私はiPadで描いているので、場所を問わずに仕事ができます。この仕事は締め切りがあるものの、場所や組織に縛られたくない、自由に生きたい人にはおすすめの仕事かもしれません。

デメリットは、孤独であること。常に己との戦いです。自分にも主人公にも、鞭を打てば打つほど作品が仕上がっていく気がしています(笑)。人が雇えなかった初期の頃は、睡眠時間を削って私生活も犠牲にしてきましたが、いつの間にかそのようなこともなくなり、最近は「少し成長できたのかな」と思えるようになりました。仕事の手が早い人は週に数日休める人もいるようですが、基本的には連載を始めるとなると、まとまったお休みはない覚悟で始めないとできないと思います。

——日常の過ごし方で意識していることはありますか?

ストレスを溜めないことを意識しています。私は体を動かすことをとくに大事にしていて、ジムやゴルフ、最近はクラヴマガというイスラエルの格闘技も始めました。適度なデジタルデトックスと癒しの時間も必要ですね。自然と触れ合うキャンプや、実家の愛犬と遊ぶことも大好きです。

人気拡大の中でのモチベーションは、読者の応援と家族の存在

——漫画家として人気の実感がもてたタイミングはいつ頃でしたか?

まだまだ漫画家として勉強中の身なので、お答えするのは大変恐縮ですが……驚いたことは、1巻が発売してすぐに重版がかかったことです。確か発売から2〜3日ほどだったと思います。それで多くの方に読んでもらっている実感が沸きました。あとは読者の皆さんが読んでくださった結果が、ランキングとして反映されることも大きいです。当時、自分が読んでいた憧れの先輩方の人気作品と並び立ったことは、嬉しかったですね。

最近では、私が描いているとは知らずに偶然いとこが作品を読んでいたり、アシスタントさんを募集したときにも、すでに作品を知っている方が応募してくれたり、リアルに周囲の人々が認知してくれていると実感できる機会が増えてきました。

——連載を続ける上で、何がモチベーションになっていますか?

この場では語れないような困難もこれまでありましたが(笑)、そのような中でも読者さんの反応は非常に大きな力となっています。SNSの反応やレビューも賛否ともに見ていますよ。先ほどの話と重複しますが、発行部数やランキングなど数字として結果に繋がっていることもモチベーションになります。私の場合は幸運なことに、読者さんがついてくださるのが早かったので、モチベーションを維持できました。今はこの状態をどうにか落とさないようにというプレッシャーがあります。

あとは他の漫画作品や小説、映画などの物語に触れて適度に刺激を受けることや、アウトプットする時間も大事です。素晴らしい作品に出会うとパワーがみなぎりますよね。

加えて、家族の応援もモチベーションになります。とくに父は漫画をすごく熱心に応援してくれる人で、私の一番の理解者なんです。単行本を20冊くらい買って会社で配ったり、毎週の連載を課金して読んで「この言い回し変じゃない?」といった編集目線のような意見もくれたりして(笑)、本当に支えられています。

——読者やご家族の存在も、この作品を支えているのですね。作品について、もう少し詳しく聞かせてください。この作品には多彩なキャラクターが登場しますが、とくに好きなキャラクターは誰ですか?

私は、聖女アイリス(画像左下)が一番好きなんです。主人公のリーセルを邪魔する存在のアイリスを好きな読者さんは、おそらくあまりいないかと思うのですが、私は人間の綺麗な部分よりも黒い部分に人間らしさを感じて惹かれることが多いんです。アイリスは、嫉妬という感情や自分が一番になりたいという欲求に素直に生きていて、非常に人間味のある人物です。見た目も、麗しい天女のような絶世の美女で、描いていても楽しくて一番力が入っているキャラクターだと思います。

あとは、シンシアにもつい感情移入してしまいますね。シンシアは作中で最も成長しているキャラクターで、主人公のリーセルを支えて導いていくキャラクターのひとりとして、非常に重要な人物なんです。

——作品を描く上でとくにこだわっているのは、どのような部分ですか。

絵の密度ですね。とくに衣装や背景にはこだわっています。衣装に関しては、毎回出る衣装や1話だけの衣装など、しっかりと設定を作ります。外観や内観はアシスタントさんに資料をお渡しして設定を作っていただくのですが、お城や庭園、ちょっとした建物に至るまで、毎回出てくるものはじっくりと時間を取って資料を作成します。そうすることで作画のときに衣装や建物の整合性が取れますし、制作メンバー間の情報共有や原稿の進捗がスムーズになるので、後々の効率化にも繋がります。

中には、数百人が収容されている大規模なスタジアムといった、週刊連載で毎回描くのでは間に合わない背景もあります。そのような場合は必要に応じて外部の制作会社に依頼することで、制作体制を補強しています。1ページあたりの制作費や外注の納期なども考慮しながら制作しなければいけないのは、大変なポイントのひとつですね。

きっかけは偶然の出会い——自ら切り拓いた舞台化の道

——今秋(2025年11月)には舞台化も控えていますが、構想はいつからあったのでしょうか。舞台化が決まったときはどのような気持ちでしたか?

最初に話が出たのは去年の10月頃で、本決定したのが今年の年明けくらいです。舞台は通常3年前くらいから企画を進めるらしいのですが、今回は決定から公演まで1年未満のスケジュールなので、まさに今も非常にバタバタしています(笑)。舞台化が決まったときは「やった!」と思いました。普通は最初にアニメ化が決まって、話題になったらその後に映画化、舞台化……と進んでいくパターンが多いので、舞台化が先というのは珍しいケースだと思います。

——この舞台化は、どのような経緯で決まったのですか?

これが少し特殊な経緯で……去年の9月頃に、プライベートで友達に誘われて舞台を見に行ったことがありました。その公演後の食事会にいた中のひとりが、舞台のプロデューサーさんだったんです。私が「漫画を描いています」と伝えたところ、すぐに漫画を読んでくださって。その1ヶ月後ぐらいには、舞台会社の社長さんと一緒に来てくださり「おもしろかったので舞台化させてください」「来年の11月にこのホールが空いています。ここでやりたいです」とお話をいただきました。思いがけないタイミングで、ひょんな繋がりからいただいたお話だったんですよ。ご縁ってすごいですね。

余談ですが、実はこの舞台と同日程で、私が漫画家を目指すきっかけとなった作品も舞台化が決定し、なんだか運命を感じています。

——そんな偶然がきっかけとは!これまでの努力の積み重ねと運の強さで実現した舞台化なんですね。今回の舞台制作の中では、具体的にどのような点に関わっているのでしょうか?

ありがたいことに、舞台会社さんが意見を求めてくださるので、衣装監修やビジュアル撮影、キャスティングや脚本など幅広く携わらせていただきました。

——とくにこだわって意見を出した部分はありますか?

ビジュアルの忠実さにはこだわりました。ビジュアル撮影のときに、瞳の色が日本人のままだったのですが、作中に登場するのはヨーロッパの人物なので黒い瞳では違和感があると思いました。当初は演出家さんの意向としてカラコンをつけたくないということだったのですが、コミックの表紙でも一番こだわっているのはキャラクターの目の発色なので、そういったことも率直にお伝えして調整いただくことになりました。ヘアメイクさんも、変更を見据えてカラコンを準備してくださっていたんです。また、ウィッグの髪質も非常にリアルなので、髪や瞳といったディテールにもぜひ注目してほしいですね。

——公演が非常に楽しみですね!最後に、今後の目標についてお聞かせください。

一番の目標は、体調を崩さず長く漫画家でいることです。どの仕事も“続けること”が最も難しいですから。あとはやっぱり、アニメ化を実現したいですね。舞台も好評ならば2回目もできたらいいなと思いますし、巻行ペースも早めなきゃで……(笑)。目標はたくさんあります。アシスタントさんや編集さん、そして原作者である岡達先生に対して感謝とリスペクトの気持ちをもって、人として謙虚でいることは常に忘れずにいたいです。

改めて「わたコロ」を生み出してくれた岡達先生、出会わせてくれた編集部の皆さま、応援してくださる読者の皆さま、本当にありがとうございます。最後まで全力で描かせていただきます!(おしばなお)

>>【11/7〜16公演】舞台『王太子様、私今度こそあなたに殺されたくないんです!』の詳細はこちら!

おしばなお●芸大を卒業後、アシスタント期間を経て漫画家デビュー。『王太子様、私今度こそあなたに殺されたくないんです!〜聖女に嵌められた貧乏令嬢、二度目は串刺し回避します!〜』(漫画:おしばなお、原作:岡達英茉、キャラクター原案:先崎真琴)を講談社にて連載中。
X:@oshiba_nao/Instagram:@oshibanao

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