現在、監査法人の財務アドバイザリー職として活躍する武井美帆さんの前職はキャビンアテンダント(CA)。憧れる人も多い職業ですが、不規則なスケジュールなど、将来家庭との両立に不安を感じていたという武井さん。コロナ禍の出向先で知った監査の仕事をきっかけに、USCPA(米国公認会計士)の資格取得を決心。働きながらの資格取得への道のりを聞きました。
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国内外を飛び回っていたのがコロナ禍の出向でまったく違う仕事に
――キャビンアテンダントをされていた時代にはあちこちにフライトされていたと思いますが、コロナ禍で環境も変わられましたか?
2019年7月に新卒で航空会社に入社。半年の訓練を経てフルタイムでCAとして搭乗していました。コロナ禍になるまでは、基本的には4勤・2休というシフトで国内・国際線の両方を飛んでいました。月に2回は海外路線が必ず入り、あとはランダムに国内外のフライトが入ります。

CA時代には国内外を飛び回っていた武井さん(写真:ご本人提供)
前月25日に翌月のスケジュールが出るのですが、欠勤者が出たり機材調整などでシフト通りにはいきません。翌日に急に飛ぶことになったり、朝早くからスタンバイしても結局は飛ばないとか。家庭と両立されているCAもいらっしゃいましたが、大変そうで、ずっと続けるのは無理な仕事かもしれないと薄々感じていました。
コロナになってフライトが減り始め、当初は客室乗務員の仕事に関わるマナーやサービス、英語などのオンライン研修を受けていました。1日8時間もあって、フライトしていた方が楽だなと感じる量でした。また、CAはフライトに対する業務手当が大きいので、飛ばない分、お給料も激減しました。その後、事業会社に出向することになりました。
――出向先では、どのようなお仕事をされていたのですか?
中小企業対象のコロナ補助金に関して、事業者からの申請内容を審査するという仕事でした。経理的な知識が必要なので、最初の1カ月はトレーニングを受け、金融業界から出向された方がリーダーになって、その指示に従って仕事をしていました。
フル出社で働いていて、困窮して補助金申請をされてきた方の電話対応で暴言を言われたこともありました。CA時代は、旅行で気持ちが高まっているお客様へのサービスでクレームもなかったのですが、そこから一変した仕事内容に、つらい思いをすることもありました。大量に送られてくる事前審査の書類を精査して、申請できるように修正事項をお伝えするのですが、それで怒り出す方もいらっしゃったんです。
コロナ禍でも一般企業勤務の友人はバリバリ働いていた
――CAとまったく違う仕事だったんですね。この時にUSCPAを取ろうと思われた理由は?
コロナ禍でも一般企業に勤めている友人は、リモートとはいうもののバリバリ働いていたんです。それを見て、CAしか経験のない自分が一般企業に転職するには、何か資格が必要だと思ったんです。また、好きでなったCAの仕事ですが、ずっと続けるのは無理だろうと以前から感じていたので、このままでいいのかとコロナでより考えるようになりました。
そこで、まずは取りやすい簿記から勉強を始めましたが、簿記だけでは資格として弱いと思っていろいろ調べている時に、USCPAの広告を見つけたんです。英語は好きだったので、英語と会計の2つが身について、働きながら資格が取れるという点がよいなと思いました。
――フル出勤の出向中だと、勉強が大変だったのではないでしょうか?
USCPAは、本試験の前に必要な単位を取得しなければならなくて、出向中はその単位取得に必要な講座を受けていました。勤務場所が東京駅の近くだったので、仕事が終わったら行くカフェを決めて、そこで勉強してから帰宅するようにしていました。

同じくUSCPAを取得して転職した友人とのランチ
その後2カ月だけCAに帰任したのですが、また別の出向先で監査法人の監査アシスタントとして働くことになったんです。出向先としてサービス業や広告会社もあったのですが、USCPAの勉強をしていることも応募理由として話して、監査法人に出向することができました。ここでは、本試験に向けての勉強もしながら働いていました。1年ほどで無事に資格取得ができたので、そのタイミングで就職活動をし、別の監査法人の財務アドバイザリーの仕事に就けました。
――巡り合わせもよかったのですね。当時は、会計監査の仕事は向いていると感じられていましたか?
最初は向いているかどうかは分からなかったのですが、何が正解かが難しいCAの仕事と違って、ちゃんと答えが出るというのが気持ちよくて、やっているうちに楽しくなってきました。
5年間の間に取ればよいUSCPAは、資格としても強い
――どれくらいの期間で、どうやったらUSCPAの資格を取得できるのですか?
私が学んだアビタスでのUSCPAの資格取得は、仕事をしながらだと2年間が1つの目安でした。順調にいって1年10ヶ月ぐらいだそうです。教材自体は5年間まで使うことができます。講義と教科書は、日本語で日本人の解説もありますが、試験は英語なので、過去問などは英語で勉強しました。
CPAは、MBAのように学期ごとの勉強という概念ではなく、まず本試験を受けるための単位取得が必要です。私の場合は、毎日2時間カフェでの勉強プラス土日も勉強して、3カ月ほどで本試験のための単位取得ができました。大学で会計を勉強された方は、その単位を取り寄せて審査をして単位換算してもらえる場合もあり、必要な勉強時間や受講費用(受講料のみで60万〜80万円、受験料は別途必要)はまちまちだそうです。
本試験の勉強は、監査法人でのフルタイムの仕事と並行で1年ぐらいかかりました。ただ、日々、日本における会計業務もしていて、一緒に仕事をしていた方の中にはUSCPAの資格を持っている方もいて、いろいろと教えてくださったりで勉強しやすい環境ではありました。
――それでUSCPAの資格取得後、すぐに現在の監査法人に就職されたのですね。
監査法人に絞って就職活動をしたのですが、USCPAを持っていると書類審査はまず通りましたし、監査法人でのUSCPA資格者の需要は多いですね。
また、上位何%を合格にするという日本の公認会計士と違って、USCPAは基準を満たす点数をクリアしているかどうかが合格の基準。4科目の合格が必要ですが、数科目を合格した段階で監査法人に就職して、全科目合格を目指しているという人もいらっしゃいます。
――資格取得のための勉強をしながら仕事をすることも可能なんですね。CA時代の仕事が役に立っていると感じたことはありますか?
CAは、これから自分が何をしますという発信も含めて、情報共有が命。この情報共有が身についていることで、監査法人での仕事でも、何を武井さんにお願いすればよいのかがわかりやすいといわれることはあります。
出向でアシスタントの時は監査業務だったのですが、今は財務アドバイザリー職で、幅広い財務・会計関連のコンサルティング業務をしています。最近は、クライアントや周りの方々へのヒアリングなどやりとりもあって、前職で培った情報共有やコミュニケーション力が役に立っていると感じています。
――資格取得をして転職してよかったこと、またUSCPAの資格を持っての仕事はこんな人に向くというのはありますか?
4月・5月の決算時期は、決算支援で残業があったりしますが、基本的にはリモートでの業務が多く長期間家を空けることはありません。一緒に働いているママさんもお子さんの保育園送迎時間を会社のボードに書いて、いったん定時に上がって送迎を終えてからまた仕事をしたりしています。

リモートワーク中の武井さん
私自身も家庭と仕事のバランスを取りやすさを実感しています。プロジェクトによるのですが、先月は一度も出社はなくすべてリモートでしたし、働き方について希望を出しやすいと思います。
USCPAの資格取得については、グローバルな業務ではありますが、英語に関しては最初からそこまで高度なリーディング能力はなくてもいいように思います。いちばん大事なのは英語に対して苦手意識がないことではないでしょうか。私自身、英語能力は仕事をしながら上がっていったように感じました。どちらかというと、英語より簿記2級を取ってから、USCPA取得の勉強を始めたという人が周りには多かったように思います。
――今後のお仕事での夢は?
決算や締め切りが迫っている時は大変ですが、仕事をするなかで身についていくことも多いので、今後、会計知識も英語能力も深めて、業務の幅を広げていきたいです。時々、CAで海外渡航をしていた頃が懐かしく、いつかクライアントに会いに飛行機に乗っていきたいですね。
取材協力
株式会社アビタス:https://www.abitus.co.jp/uscpa/










