家事代行サービス「ベアーズ」の副社長でありながら、一般社団法人全国家事代行サービス協会会長をはじめ様々な公職に就き、2人の子どもを育て上げたパワフルなママ。「決して順風満帆ではなかった」と語りながらも、笑顔を絶やさず楽しそうに語る高橋ゆきさんの“仕事”と“私事”の共通点に迫りました。
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様々な顔を持ち、「人生まるごと愛してる」
――副社長として、妻として、そして母として、確固たる地位を築いていらっしゃる高橋さんから見て、現在のような女性が活躍できる社会はどのように見えていますか?
いろんな自分を持つことができる、いい時代だなって思っています。例えば、私も「ベアーズの高橋ゆき」というのは、実は本当の私の7分の1か8分の1くらいで、ほかにもいろんなことをやっています。中には48歳になってから始めたチャレンジもある。銀行の社外取締役なんですけど、それは普段携わっている家事代行のいわゆる「to C」とは全然違うんです。
――7つ8つと違う顔をもつことで、どれが本当の自分なのかと揺さぶられることはないんですか?
揺さぶられていた方が素敵じゃない? 自分の無限大の可能性に誰がチャレンジしてくれるかって、自分しかいないでしょう? でも、自分の才能やできることを1人で考えると迷子になってしまうと思うんです。それを見出してくれるのって、案外、周りの人たちなんじゃないかな。だから例えば、「あなたはこうだね」って言ってもらった時に、変に躊躇したり謙遜してしまうのは違うと思うんです。「私なんて」とか、「どうせ私は」という言葉を使ってしまう人は本当にもったいない。わたしも一般社団法人東京ニュービジネス協議会の副会長を仰せつかったり、東京商工会議所の一号議員を拝命いただいたりしてます。それも自分からやりたいと手を上げたわけではなくて、「そのままのあなたでいいから、ぜひチャレンジしてください」と言っていただけたからこそ。
――そうやってどんどん新しい挑戦をされることに迷いが生じたことは?
私の場合は、機が熟したんだな、と思いました。それはあなたにとって機が熟すんじゃないの、周りと一体化した機が熟すということ。ここまで歩んできたからこそ、機が熟した、ということなんです。そういうチャレンジをどんどん自分の人生のエッセンスにしていくって考えると、自分の概念にとらわれず、色とりどりなチャレンジをしたらいいんじゃないかなって思う。そして、どの自分も好きでいることが大事。どのフィールドで、どんなことをやっている自分もすごく好きって思うことが大事かなって思います。
――仕事もプライベートも、全部含めて高橋さん、ということですね。
そう、公私混同というよりも私公混同。何事も“must be”ではなく、”want to do”が大切。やりたいと思うことがわたしの中ではもう全部仕事なんです。その中で大事にしているのは「最幸」であること。座右の銘にもしているのですが「人生まるごと愛してる」っていうのはそういうことなんです。
何事も意識ひとつ。大切なのは「ピント」
――お話を伺っていると、とても前向きな印象を受けますが、ネガティブになることはあるんですか?
留学を諦め、親の会社が倒産するなど、32歳までは迷子でした。あの時の自分に声をかけるとするなら、「大丈夫だよ」という一言かな。20代の頃は言われるがままに没頭して走っていけばいいと思うんです。本当に不安になるのは、ちょっとだけ世の中が見えてきた時。このままで大丈夫かな? 母親として大丈夫かな? キャリアは? だから、私はやっぱり「大丈夫」って言ってあげたいです。ピントさえ合っていれば、「すべて大丈夫」。
――ピントが合うというのは、具体的にはどういうことでしょうか?
一言で言うと、気持ちがいいこと。自分の心も、体も喜ぶことです。例えば、コーヒーを飲むという動作ひとつとっても、「今コーヒーを飲んだらわたしは喜ぶかな? 喜ばないかな?」とは考えない人が多いですよね。でも、「喜ぶ!」って思って、いつもよりちょっと高いコーヒーを買うとする。そうすると、「このコーヒーを飲むと、私は喜ぶんだ!」と気がつくと思うんです。午前中ちょっと気忙しかったことが、この1杯でリセットしていけるんだって自覚して飲むのと、なんとなく流れで習慣的に飲むのとは、全然違いますよね。それが発展していくと、「今度は○○さんにも飲ませよう!」と思うようにもなるかもしれない。周りに気持ちよさとかハピネスを強要ではなく、共有したくなる。意志を持って、意識して、心がけて行動することで、気持ちいいことを共有したり、相手からいただいたりして、人生がすごく豊かになると思うんです。
――確かに、意識をするかしないかで大きく変わりそうですね。
自分も気持ちよく、相手も気持ちよく、ということを心がけておくと、本当はそんなにズレないと思うんです。だから、迷子になっても「大丈夫」。でも、人間だからもしズレちゃったとしても、全力でもがいて周りの人たちに言えばいいんです。「ごめん、ピントが合わないから難しい」と。
パラレルキャリアが、人を救う
――助けを求める、ということですか?
不得意なところは頼って、得意なところで生きていけばいいんじゃないかな。そのために仕事はチームがいると思うし、家に帰れば家族がいる。パラレルキャリアという生き方も、フィールドが違うことで切り替えができるんじゃない?
――違う側面を持つ、というのはそういうメリットもありますね。
例えば、私の秘書は、秘書というだけでなく広報も担当しているし、実業団チアダンスチームに所属し世界2位も獲っています。チアだけの、私のアシスタントだけの彼女ではないんですね。それって人生が総合的にミックスされて、成長できそうでしょ? もちろん、苦労も努力もし続けなきゃいけないし、その中にはきっと失敗や挑戦がある。でも、そういうものの上に、本当の輝きや透明感があると思うんです。いろんな苦しみや辛さを経験すればするほど、彼女の場合は踊りという表現に深みが出て艶も出る。そう考えると、ダンサーをやってるだけじゃダメなんですよ。おのずと自分のソースが必要になってくるものなんです。
――そんなにいろんなことをやってらっしゃるんですね。
うちの社員は、そういう意味でいうと全員パラレルキャリアかもしれません。社内では「多能工」って呼んでいるんですが、みんな斬新な多能工で、関連部署で働くということではないんです。いきなり全然真逆のことをやらせてもらえる。そうすると、今日1日の中でも色んな自分がいるから、一方でちょっとイケてなかったとしても落ち込む必要はないんですよ。別のところで挽回をして、プラスマイナスで見ると、結局プラスで終わったね、とできれば素敵じゃない?
「いちばん大事」を見極める
――高橋さんご自身はそこに母という側面も。どうやってお仕事とのバランスを取っていたんですか?
子どもがそれぞれ2歳と0歳の時に会社を立ち上げたから、保育園のお迎えはいつも絶対にうちがいちばん最後。親心としてそれは避けたいともちろん思っていたけれど、それでも私は自分の子どもたちに寂しい思いをさせていると思ったことはありません。そんな風に中途半端に思うくらいなら、働きに出なければいいの。でも1度出るって決めたら、一生懸命やらなきゃ。その背中を見ていてくれるのは子どもたちですから。自分の家族が「ママは今日も頑張ってくれている、ぼくの、わたしの誇りだ」と思ってもらえるように働いてきました。
――そこまで言い切れるのは、やっぱりかっこいいです。
私がいちばん大事にしているのは、母親というポジション。だから、先輩風を吹かせてアドバイスをするのなら、いつも私は他人から見ると100%で走っているように見えても、実はそうじゃなかったんですよね。子育て中は6〜7割で走っていて、あとの2〜3割は余力として残しておいた。何のためかと言ったら、子どもに何かあった時に常に飛んでいける気力と体力と財力を身につけるためです。それができないことが、自分の人生でいちばん自分を後悔させるってわかっていたから。一生懸命働く、だけど、我が子に何かあったら絶対どこまでも飛んでいける余力を残していた方がいい。子育て中は張り詰めていないで、強さも大事だけど、しなやかに一生懸命な背中を見せていればいいと思います。
――では、そのためにご家庭で家事の分担などもきっちりされていたのでしょうか?
私、息子が小学校に上がる時に、義理の両親の家の前に自分から引っ越して行ったんですよ。なぜって、その時大事だったのは子どもの成長と栄養。でも私は仕事を一生懸命やらなくちゃいけない時期でした。だから、「お義母様、月曜から金曜日までうちの子たちのご飯よろしくお願いします」ってお願いをしに行きました。引っ越した時こそ「嫁から寄ってきた」と、向こうのご家族で結構問題になったらしいんですが、喜んで引き受けてくださった。本当に感謝ですね。
――義理のお母様に、というのはなかなかできることではないですよね。
そうですよね。私はどうも順風満帆に生きてきたと思われがちなんですが、そんなことは全然ないし、まして成功者でもない。人生において安心とか安泰とかそういう時間がなかったからこそ、幸せに溢れて愛に溢れて生きているんです。試練と苦労と逆境が、どんなに高い美容液やエステよりも人を輝かせるんじゃないかな(笑)。
――今のお話を伺って、高橋さんをより身近に感じられました。
誰でもできることとやりたいこととやれることは違うので、そういう時はアウトソーシングすればいいんですよ。アウトソースできない人は、最近自分らしくないなと思った時のために、ケータリングにせよ、家事代行にせよ、シッターサービスにせよ、存在を知っておくだけでもいいと思う。情報を持っておくことは心の保険にもなるし、思い立った時に慌てて探すとよくないから、下調べをして情報としてお願いできるようにしておくのは重要です。もしかして今かも……って思った時がお願いし時なんですよね。
広告にこめた想い、そしてこれから
――今はアウトソースできない人も、いざというときのために情報を持っておくことが大切ですね。
そうですね。実は先日、ちょうど新聞の広告出稿のお話をいただいて……。それまで1度も広告にお金を使ったことがなかったから、社内でも意見が分かれたんです。でも、本来広告っていうのは自分たちが普段何をしているかとか、想いとかを伝える場だからやろう、ということになりました。だから、家事代行に難色を示している人にどうしたら使ってもらえるのかという広告ではないんです。存在を知ってもらうこと、そして、背中をポンと押してあげられるものであることを大事にしました。広告から情報を知った人が、3年後くらいに「そういえば……」と存在を思い出してくれたらいいなと思っているんです。
――広告の内容もとても素敵ですよね。
新型肺炎の影響で2週目の臨時休校が敢行された時に、何かできることはないかと考えて、100家庭限定でサービスの無償化を打ち出しました。ありがたいことに、3時間ほどでいっぱいになってしまって……。急なことで社内でも少し反対意見もあったんだけど、次の日にはみんな納得していたんですよ。なぜかと思ったら、この施策に対してご家族や友人から褒められたりした、と。共通善という言葉があるけど、みんなが求める感覚は一緒なんだな、と改めて思いました。いいことしたなって。でも、「100」ってすごく少なく感じたから、今度有事の時はせめて「300」は出せるように頑張りたいですね(笑)。
高橋 ゆき(たかはし ゆき)●家事代行サービス 株式会社ベアーズ取締役副社長。家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニーである、株式会社ベアーズの取締役副社長。同社が創業以来、日本社会へ提唱している「利用者への新しい暮らし方」「従事者としての日本の新しい雇用創造」には、高橋ゆき自身の原体験が大きく影響している。社内では主にブランディング、マーケティング、新サービス開発、人材育成担当。家事代行サービス業界の成長と発展を目指し、2013年一般社団法人全国家事代行サービス協会設立以来、副会長を務める。経営者として、各種ビジネスコンテストの審査員や、ビジネススクールのコメンテーターを務めるほか、家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広働く活躍中。2015年 には世界初の家事大学設立、学長として新たな挑戦を開始。2016年のTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも家事監修を担当した。1男1女の母。
□公職
一般社団法人全国家事代行サービス協会 会長
一般社団法人東京ニュービジネス協議会 副会長
東京きらぼしフィナンシャルグループ 社外取締役
東京商工会議所 一号議員
日本工業標準調査会 総会委員
家事大学学長