NHKからIT企業・サイボウズを経て、PR会社・LITAの経営に携わる三木佳世子さん。起業家・経営者であると同時に1人のママでもあり、そしてPR分野でパラキャリを実践してきた先輩でもあります。三木さんによれば、パラキャリによって「ほかの人には代替できない、自分だけのキャリア」を見つけることができるんだとか。決まった型にとらわれず柔軟にキャリアをつくってきた三木さんのお話から、生き方のヒントがたくさん見つかりました。
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伝える仕事をしているはずが、自分の言葉を失っていた
――ファーストキャリアでは、NHKの報道ディレクターとして活躍されました。なぜNHKに入られたんですか?
みんなのいろんな“違い”を認め合える社会を作りたいと思ったことです。差別や偏見があふれる現状を変えるためには、法律や政治だけじゃなく、人の心が変わらないといけません。そのために必要なことを映像や言葉で伝えることで、1万人、10万人の心が1歩ずつでも変わるきっかけを作りたくて、NHKに入りました。
――なるほど! 実際に働かれてみて、どうでした?
高齢者からニートの若者、AV監督まで、いろんな人たちに取材して、とにかく毎日刺激的でした。特に密着ドキュメンタリーを作るときは、取材相手とかなり長い時間を一緒に過ごすので、人生の一部に入り込んだような濃い関係を築けましたね。想像するだけだったいろんな世界を自分の目で見て、世界の解像度が上がりました。
――そんな充実していたNHKを、12年勤めて退職されたのはなぜだったんですか?
仕事そのものにはすごく手応えがあって、伝えるべきことをちゃんと発信して、人の心を変えるきっかけを作れているという自負もありました。転職のきっかけは、結婚して妊娠、出産したこと。「NHKの三木」じゃなく「1人の母」として過ごした育休期間中、ふと気づくと、たわいもない会話のキャッチボールをうまくできない自分がいたんです。冷静に考えてみたら、私がそれまで伝えてきたことは全部誰かの代弁で、自分の言葉じゃなかったと気付いたんです。人の話を聞くのが上手くなった代わりに、自分の言葉をすっかり失っちゃったんですね。
時短で働いているだけなのに「半端になった」気がした
――なるほど……。育休を終え、復職されてみていかがでしたか?
復職した時、100人くらいいる部署の中で、時短で働いているワーママは私1人でした。時短だからという理由でできない仕事もあったし、仕事の途中で帰宅しなくちゃいけないことも日常茶飯事で。時短という、周りと違う働き方をしているだけなのに、まるで半端な人間になったように感じちゃったんです。誰かにそう言われたとかではなく、自分で勝手にそう感じちゃったんですよね……。
――それで、転職を決意されたんですか?
転職願望よりも、サイボウズに惹かれたのが先でした。もともと先進的な働き方をしている企業に取材に行ったり、セミナーでフリーランスの方に出会ったりして、働き方は1つじゃないと感じていました。決め手になったのは、NHKにサイボウズ代表取締役社長の青野慶久さんが講演にいらしたことです。「社員が100人いたら100通りの働き方がある」という青野さんのお話にすごく共感して、サイボウズなら私らしく働けるかも、と感じました。
――実際にサイボウズで働かれてみて、印象はどうでしたか?
企業向けの研修を担当しましたが、NHKとはまったく違うアプローチで世の中をよくしていく経験ができて楽しかったです。それから、サイボウズには1年目からパラキャリしている人がたくさんいて、衝撃を受けましたね。自律的なキャリアを築いている人ばかりです。
辛い経験やコンプレックスも、伝えることで誰かの助けに
――パラキャリには昔から関心があったんですか?
NHK時代から、ワーママの朝活コミュニティをやっていたんです。そこで出会った仲間に、企業のPR方法について聞かれることがしばしばあって。私にも、周りから頼ってもらえるようなノウハウがあるんだなと気づいたんですね。これを生かして何かやってみたい、という気持ちはそのころからずっとくすぶっていて、サイボウズに入ってすぐ本格的に始めました。
――そしてパラキャリとして、自己PR講座やメディアPRのコンサルティングを行う「MiraiE PR」をスタートされました。そのきっかけは、どんなことだったんでしょうか?
実は私、自分の気持ちを人に伝えることが苦手で。育休中にスピーチアカデミーに通って話す練習をしたら、試行錯誤するうちにだんだんうまくなれたので、この経験をみんなに伝えたいと思ったのがきっかけです。スポーツ選手や政治家だけじゃなく誰でも、”伝える力”をつければ、より自然体で生きられるようになるんじゃないかと思います。それでMiraiE PRを起業しました。
――ご自分の経験を生かして起業されたわけですね。
誰にでも辛いことやコンプレックスはありますけど、嫌だなあと思っているだけじゃそれで終わりですよね。でも、それを発信することで、他の誰かの助けになれるんです。それってすごく素敵なことだと思います。
パラキャリなら「私にしかできない仕事」ができる
――パラキャリをされていて、よかったことを教えてください。
普段出会えない人と出会って、世界が広がることですね。アウトプット先が増えたことでインプット量もぐんぐん伸びて、PRプランナーやワークショップデザイナーの資格を取りました。一気に人生が濃くなったと思います。そしてパラキャリのいちばんのメリットは、私にしかできない、代替不可能な仕事をできることです。女性が子どもを産むと、周りも気を遣って「代替可能な仕事」を優先的にさせてくれますよね。でも、私にはそれが辛くて。三木さんだからこそお願いしたい、と思われたかったんです。MiraiE PRの講座生は私自身を選んで来てくれている方々ですから、すごくやりがいがありました。
――逆に辛かったことはありますか?
忙しすぎて、休みがないことですね(笑)。でも、MiraiE PRがどんなにうまくいっても、サイボウズを辞めようとは思いませんでした。サイボウズのことをすごく好きだし、それにMiraiE PRだけだと、自分の得意なことしかしなくなると思ったからです。組織にいるからこそ、苦手なことにも挑戦させてもらえて、成長できるんですよね。
――今年4月から、PR会社・LITAのCHOとしてもご活躍されています。
PRスキルを高めたいと思って通った塾で、「エアウィーヴ」や「バーミキュラ」を急成長させたことで有名な笹木郁乃さんに声をかけてもらって。サイボウズでの経験を生かして、特にBtoB分野で力を発揮できると思って入社を決めました。これからLITAを大きくして、PR業界でインパクトを持つ会社にしたいです。そしてたくさんの素晴らしい会社やサービスに出会って、その魅力を私自身の言葉で伝えていきたいです!
仲良し家族の秘訣は「みんなで一緒に夢を見る」こと
――とてもお忙しい毎日だと思いますが、お子さんとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
あなたのおかげでママは頑張れているよ、と伝え続けることですね。子どもといるときはスマホを見ない、目を見て話す、体に触れながら絵本を読む、といった工夫で、全身で感謝を表現するようにしています。ママはママで子どもは子ども、と分離するんじゃなくて、家族みんなの夢を、家族みんなで見る。そして子どもにも「ママの活躍に自分が役立っている」という気持ちを持ってもらうのが大事だと思います。実際、「ママは会社のリーダーだからね!」と誇りに思ってくれているようです。
――パラキャリを目指す女性に、アドバイスをください!
まずはシンプルに考えることですね。結局は「やるかやらないか」の差ですから、完璧じゃなくていいので行動してみるのが大事。1つの出会いが、新しい世界に連れて行ってくれますよ。私もNHKにいたころは、まさか自分がPRの分野にいくなんて思ってもいませんでした。それから、もし自分の良さがわからなかったら、周りの人に聞いてみるのが手っ取り早いと思います。パラキャリは、自分の「やってみたい」というピュアな気持ちに応えられる最強の方法。ぜひ飛び込んで、たとえ明日死んだとしても後悔しない生き方をしてほしいと思います!
三木佳世子(みきかよこ)●元NHKディレクター、(株)LITA CHO(Chief Human/Happiness Officer)、一般社団法人PRプロフェッショナル協会 代表理事。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、NHKに入局。報道番組のディレクターとして12年間に渡って2000人以上を取材。「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」「おはよう日本」など100本以上の番組を制作し、NHKスペシャル「認知症行方不明者1万人〜知られざる徘徊の実態〜」で菊池寛賞・NHK会長賞など受賞。幻冬舎から書籍も出版。2018年、サイボウズ株式会社へ転職し、企業の組織開発コンサルティング、学校向けチームワーク授業を担当。同時に起業。MiraiE PR代表としてPRプロデュース、セミナー講師、ライターなどの仕事を並行して行うパラレルキャリアを邁進。メディア視点のPR戦略でクライアントの取材を多数獲得(NHKおはよう日本、テレビ埼玉、神奈川新聞、AbemaTVなど)。オリジナルの講座はFacebookの告知だけで毎回満席。早稲田大学社会人向け講座でも開催。講演会やトークイベントへの登壇や取材多数。HPはこちら