仕事に、家庭に、おしゃれに、遊びに、趣味に……行動力旺盛なパラキャリ女子は、とにかく忙しい毎日を過ごしています。でも、あまりに予定を詰め込みすぎてメンタルを壊してしまう人も。さらに最近はコロナ禍で、先が見えない将来への“社会不安”が高まっていて、精神科にかかる人が増えているそうです。今回は精神科医でありながらパラキャリを実践している木村好珠さんに、「心も元気でいるために大事なポイント」を具体的に教えてもらいました。
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幸せホルモン「セロトニン」をつくるには?
――そもそも人は、どうしてうつになるんでしょうか?
セロトニンという脳内物質が影響しています。セロトニンは俗に「幸せホルモン」と呼ばれているもので、精神を安定させる効果があります。逆にセロトニンの分泌量が低下したり働きが弱まると、攻撃性が高まったり、うつを引き起こしたりします。セロトニンの材料は「トリプトファン」という物質ですが、人はこれを体内でつくることができないので、食事で摂る必要があります。具体的には、魚や肉のほか、豆腐や納豆、牛乳、チーズ、卵に多く含まれています。
――パラナビ世代の女性も、うつになる人は多いんですか?
はい。男性よりも女性の方がうつになりやすいです。それは女性の方がセロトニンの分泌量が少ないうえ、月経周期によってホルモンバランスが乱れるから。さらに、女性は一般的に集団行動をしがちな分、人間関係のストレスが溜まりやすいと考えられます。ちなみに、遺伝要素については正確にはまだわかっていません。
うつの初期症状として代表的なのは、睡眠と食事ができなくなることですね。興奮状態が続いて寝られなくなったり、極端に食べられなくなったり。逆に食欲を抑制するホルモン「レプチン」が出づらくなって、過食するケースもあります。ほかにも、生理不順になったり、部屋の片付けをできなくなったり、好きだったものに興味を持てなくなったり……。人によってさまざまです。
――メンタルの状態が、部屋の片付けに影響するとは意外です!
片付けは頭を働かせないとできませんし、時間も体力も使います。部屋の片付き具合は、精神的な余裕を測るバロメーターですよ。逆に散らかった部屋にいると、心も鬱々としてきます。とくに今年は在宅時間が長いので、部屋の状態がメンタルに与える影響も強まっていると思います。
睡眠の質を上げるのは「お風呂」と「魚介類」
――うつ予防のため、どんなことに気をつけたらいいでしょう?
1つは「完全オフの日」をつくることです。パラキャリ女子は頑張り屋さんが多いですよね。いくらうまく気分転換していても、仕事は仕事。完全な休日をしっかり作るように心がけましょう。
そして2つ目に「食事」、3つ目に「睡眠」の質を上げましょう。朝ごはんを食べるだけで生活リズムを作れますし、基礎代謝が上がるので美容にもいいです。東北大学の研究によれば、朝ごはんを毎日食べる人は人生の幸せ度が高いそうですよ。エネルギーを充電するには、なんといってもお米がベスト。東洋医学でいうところの「気」を養ってくれます。カロリーを気にして避ける人もいますが、せめて朝か昼にはお米を食べましょう。
――忙しいと、まず削ってしまうのが睡眠時間です。どのくらい寝ればいいんでしょうか。
最低5時間、理想は7時間です。逆に休日に寝すぎて、生活リズムを崩さないようにしてください。起床時間のズレは2時間までが限度です。たとえば平日朝7時に起きている人は、休日は9時までに起きましょう。もちろん睡眠の質も大事です。ベッドに入ったらすぐに寝つけて、そのまま7時間寝続けられること、そして朝スッキリ起きられることがベスト。たとえ途中で起きても、そのあとすぐに寝付けるなら問題ありません。
――睡眠の質って、どうすれば高められるんですか?
キーポイントは、「お風呂」と「魚介類」です。お風呂では湯船につかってリラックスすること、それから寝る120分前に入ることがポイントです。人は体内の温度が下がったときに眠くなるので、入浴してから寝るまでに少しタイムラグがあった方がいいんですよ。逆に、冷え性だからと靴下を履いて寝る人がいますが、手足が温かいと眠りにくくなるので注意してください。手足は表面積が大きく、熱を発散する大事な部分なので出しておくようにしましょう。そしてタンパク質の中でも「グリシン」という物質は、睡眠にいい影響を与えます。エビやホタテ、イカなどの魚介類に豊富に含まれているので、意識して摂ってみてください。
たまには「デジタルデトックス」してみよう
――考え方やマインドセットの部分でできることはありますか?
簡単なのは「『まあいっか』と口に出して言う」ことです。心の中で思うだけだと弱いので、口で言うのが大事です。世の中、「絶対に今日やらなきゃいけないこと」なんてそうそうありませんから、「まあいっか」の精神でゆるくいきましょう。逆に言わないでほしいのは、「だって」「でも」「どうせ」の3つ。これらに続く言葉は絶対にネガティブになりますし、そのネガティブさに気持ちがひっぱられちゃうんです。
人間関係で疲れている人におすすめしたいのが「デジタルデトックス」です。SNSには、見たくない情報がゴロゴロ溢れています。やたらキラキラした投稿や、否定的・攻撃的な内容が多いので、危険性が高いです。月に2,3日でいいので、スマホやSNSを絶つ日を作ってみてください。いろんなしがらみから解放されて、心が休まりますよ。私はたまに、わざとスマホを家に置いて出かけます。
――スマホを持たずに外出したら、ちょっと不安になりそうです……。
不安になった時点で、立派なスマホ依存症です!1日連絡が取れないだけでダメになることなんてないのでは? 3日間絶つのは難しくても、1日ならできるはずです。
――心当たりがあっても、精神科に行くのはハードルが高い気がします。
最初は行きにくいですよね。でも、少なくとも睡眠に影響が出ているなら病院にかかってください。夜に寝られないと生活全体が崩れていきますから、睡眠薬を飲んででも、寝ないより寝る方がいいです。少し寝付けない程度なら、漢方を飲むのも一手です。また従業員50人以上の会社には産業医が来ているはずなので、気軽に相談してみてください。
産後うつは、10〜15%のママが経験
――最近「産後うつ」にかかるママが多いと聞きました。
だいたい10〜15%くらいの母親が産後うつになるといわれています。産後3日以内に不安や悲しさ、惨めさなどを感じる母親は多いですが、それが2週間ほど続いたら、産後うつです。いちばんいけないのは、「完璧に育児しなきゃ」「理想のママでいなきゃ」と抱え込むこと。また育児を母親に任せっきりにする父親も残念ながらまだ多いです。育児と同じく、産後うつの治療も家族の協力が大事。もし家族の理解が得られないようなら、一度病院に連れてきてください。医者が患者さんと相談したうえで、うつのことを家族にも伝え、よりいい治療法を探っていきます。
――もし友達や家族がうつになったら、どうしたらいいでしょうか。
そっとしておきつつ、「いつでも話を聞くから、なんでも話してね」という態度でいつづけることですね。あれこれ楽しませてあげたくなりますが、むやみに外に連れ出さないのがポイントです。本人が、以前は楽しめていたことを楽しめなくなっている自分に気づいてしまって、うつが悪化することがあります。
――最後に、パラキャリ女子にメッセージをください!
私はサッカーが好きなことから、精神科医とスポーツメンタルアドバイザーのパラキャリをしています。パラキャリで、精神医学以外のいろんな世界を見てみたいんです。せっかくならやりたいことをやっちゃおう! と思ってチャレンジしています。医者には病院の世界が“唯一の正解”に見えがちですが、私はパラキャリで新しい世界を見て、視野が広がりました。好奇心を満たせるし、いいことばかりです。
でも、頑張りすぎちゃうと心も体も疲れます。パラナビ読者はおしゃれさんが多そうですが、外見と同じくらい、心のメンテナンスも大事にしてください。まずは睡眠と食事。この2つに気をつけて、パラキャリライフを満喫してほしいと思います。
木村好珠(きむらこのみ)●精神科医、漢方医、産業医、健康スポーツ医。学生時代からタレント活動を始める。現在精神科医として常勤する傍ら、都内企業の産業医、ブラインドサッカー日本代表のメンタルアドバイザーを行なっている。最近は、アカデミー年代のメンタル育成の普及について積極的に取り組んでおり、レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミーやMIFAサッカースクールのメンタルアドバイザーとしても活動中。