上司から「空気が読めない」と言われたり、人の考えていることがわからなかったりする、ということはありませんか? それは、もしかしたら「大人の発達障害」かもしれません。「障害」というと、どうすればいいの?何もできないの? と考えてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。まずは、発達障害とは何かということを知ってから、どうすれば良いのかを一緒に考えていきましょう。
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そもそも大人の発達障害とは?
数年前にCMでも流れるようになった、「大人の発達障害」という言葉。なんとなく耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
“大人の”とつきますが、発達障害はすべて生まれた時からあるもので、急に大人になったからといって出てきたものではありません。なぜ、“大人の”と言われ始めたか。大学生や社会人になると、それまでは学校で言われたとおりに勉強をして、ときには両親に助けてもらって……という生活が一変しますよね。
大人になって初めて、ある程度、自分で決めて順序立ててやる、ということがいきなり必要になってきます。そして、交友関係やビジネス上でどうしても関わらないといけない人間関係が出てくるため、自分がやりたいことだけ、接したい人だけ、ということが不可能になるのです。そういったときに、自分では対処が難しく、初めて自分の発達障害に“気がつく”というわけです。
診察室で、幼少期からの生活歴を聞いていると、ご家族や周りのサポートで症状が前面に出ていなかっただけだったんだと思われる発達障害のエピソードが色々なところに点在しています。その原因は、まだすべては解明されていませんが、脳機能の偏りにあるといわれています。家庭環境や親の養育、本人の性格に問題があったわけではありません。
発達障害って具体的にどういうもの?
発達障害と一言で言っても、いくつかの種類があります。主には、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠陥・多動性発達障害)、LD(学習障害)に分けられます。アスペルガー症候群という名前を聞いたことがあるかもしれませんが、これはASDの中に分類されます。
また、映画などで時々取り扱われる驚異的な記憶力や信じられない計算力を披露するといった「サヴァン症候群」は、精神医学では正式名称ではなく、病院で診断するとしたら、ASDに分類されると思われます。今、“思われます”という言葉を使ったように、発達障害は、必ずしも1つの診断に分類されるわけではありません。色々なものが複合している方も数多く見受けられます。
全国にどのくらいの割合でいるか、ということですが、大人に限局すると具体的な数字は出ていません。児童期を対象とした場合、ASDは1000人に5人程度とされていますが、近年、全体の1%弱という報告もあります。ADHDは、児童期には全体の5~10%程度という見解が一般的です。小児のADHDの中で、60~80%程度が、成人期のADHDに移行するという報告がされています。 LDは2012年の段階で学習面に著しい困難を抱える生徒は4.5%と報告されています。これをまとめますと、全国の公立小・中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、発達障害の可能性があるとされた小中学生は6.5%にのぼるとされています(厚生労働省HPより)。近年、この人数は増加しているとみられ、かなり多くの方が、発達障害に悩んでいると言えます。
大人で正式な割合がわからない理由として考えられるのは、精神科受診の理由が発達障害でないことも多いことが考えられます。発達障害の人は、コミュニケーションが難しいことなどから、不安障害やパニック障害などほかの精神疾患にかかりやすく、主訴がそちらで、実は後ろに発達障害が隠れているということも多いのです。
ASDの具体的な症状とは?
まずは、ASDについてみていきましょう。自閉スペクトラム症の診断基準に基づき、症状を上げていきます。
色々な場面で、コミュニケーション能力に疑問があること。これは、人の話していることへの理解が乏しかったり、いわゆる空気を読むということが苦手だったりするという状態です。婉曲表現を理解することや、行間を読むということができず、言われた言葉のままに受け取ります。
そして、行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること。これは、異常にこだわりが強く、それを邪魔されると不快感を覚えるということです。こだわりの対象は様々ですが、食べ物であればとにかく同じものしか食べない(私の知っている人で特に症状強い例では、焼肉とうどんだけでした)。通勤などで同じ道しか使いたくない、といったことです。
また、一つのことに集中すると周りが見えなくなることや、想像力の障害があることが多いため、新しい場所や新しい行動をするときに困難をもたらします。臨機応変に色々なことに対処することもあまり得意ではありません。これらの症状の度合いも出方も人によって異なりますし、ASDが引き金となり、他の精神疾患がメインの症状として出ていることも多いです。
ポジティブな面もたくさんある!
ここまで読んだ方は、ASDは良くないことしかないのかなと感じてしまったかもしれませんが、そんなことはありません。確かに、生きにくい部分もありますが、人よりも得意なことも多々あるんです。ですので、診察の際に私は“発達障害”は疾患である、とは言わないようにしています。人間誰しもこだわりがあって、苦手なことがあります。性格だって個性だって様々。ASDの人は、他の人より少しだけその個性が特徴的なんです。では、どんなことが得意なのか具体的にみていきましょう。
こだわりの強さは、興味を持った事柄に対してすごい集中力を発揮します。一度興味を持つと、とことん追求し、自分の得意な分野に対し深い知識を得ることができます。
またASDの中には、聴覚や視覚などの五感が極度に敏感な人がいます。この特徴もプラスに働かせれば、音楽や芸術といったアーティスティックな分野での活躍につながります。ほかにも、論理的な分析が得意な人や、機械にとても強いという人もいます。単純作業の繰り返しも得意で淡々とこなすことができます。
具体的に向いている職業は、システムエンジニアやプログラマー、研究者や技術者などなどがあげられます。
会社の同僚がASDっぽい!どう接すればいいの?
自分がそういうわけではないのだけれど、会社にASDぽい人がいて困っているという悩みもよく耳にします。実際、なかなかうまく意図を汲みとってくれないため、仕事がスムーズに進まなくて私の方が参ってしまっているという人も見かけました。
アスペルガーの人は、1人でいることが好きなので、周りと協調性を持てないこと自体にはあまり辛い感情がありません。しかし、それにより上司に怒られたり、新しい環境で色々なことを任されると、対処法はわからないため、パニックに陥ったりします。はっきり言って、この状況を本人が自分で打破するのはかなり難しいです。ですので、ケーススタディとして、こういう時はこう対応するんだ、と一つ一つ場面ごとに教えていくことが大事です。
また、行間を読むことができないので、やって欲しいことは濁さずはっきりと言いましょう。部下にこういう方が入ってきたら、できたら単純作業の仕事を割り振る、状況が変わったり臨機応変に対応したりしなければいけない仕事は避ける、などの配慮が必要です。また、傷つくことを言われた、と思ってもあまり気にしなくていいでしょう。個性の強い感性を持っているのでそれがみんなの意見と一緒ではないということもあります。
個性の強さは、決して悪いことだけではなく、とことん追求できる集中力を生かして、好きな仕事に熱中してみてください!次回は、ADHDとLDについてお話しします。