1つの会社で花開き、自分らしいキャリアをコツコツつくりあげていく。そんな幸せを体現しているのが、サイバーエージェントで専務執行役員、採用戦略本部本部長を務める石田裕子さんです。その華々しい経歴と、ふんわりやわらかな笑顔のギャップに、ライター椿もぐっと心を掴まれてしまいました。お話を聞いてみると、意外にも「自分個人のキャリアアップは、考えたことがないんです」ときっぱり。そのかっこよすぎるキャリア観は、いったいどこからくるのでしょうか? 根掘り葉掘りしてみました。
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「会社の夢が現実になってきた」ワクワク感
――サイバーエージェントで、具体的にはどんなお仕事をなさっているんですか?
具体的には大きく3つありまして、まずは執行役員として女性活躍推進の担当です。2つめは新卒採用・中途採用の責任者をしています。採用して終わりではなく、若手社員を抜擢して成長の機会をつくることは、サイバーエージェントがずっと大事にしてきている考え方です。そして3つめは「次世代ワーク推進室」。今の時代に合った新しい働き方を、自社のカルチャーに合うように設計しています。とにかく会社は、人こそが競争力。私がやっている採用や若手の育成は会社の業績に直結しますから、貢献を実感できます。結果は一朝一夕には出ませんが、それが面白いところでもあります。
――執行役員をはじめ、すごい肩書きをお持ちの石田さん。昔から、経営を目指していたんですか?
いえ! 入社当初は、こんなふうになるなんてまったく想像していませんでした。いつか結婚して辞めるかも、なんて思っていたくらい(笑)。そのころからサイバーエージェントは「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げていましたが、この16年間でその夢に確実に近づいてきました。どんどん会社の規模が大きくなり、「AbemaTV」みたいに社会的なインパクトを持つ新事業も生まれました。会社の夢がじわじわと現実になってきて、私もそれを自分ごとに感じられるようになりました。
自分のキャリアアップは「考えたことがない」
――今や国内広告会社の1、2を争う大企業になったサイバーエージェントですが、石田さん個人のキャリアアップについてはどう考えていますか?
実は、あまり考えたことがないんです。昇進したいとか出世したいとか思うよりも先に、いつも私の実力を上回る裁量や権限をもらって、マネジメントや意思決定にチャレンジさせてもらってきました。理想と現実のギャップを埋めようと必死に頑張るうちに楽しみが見出せて、私なりのやり方が見つかってきたという感じです。強いていえば、その頑張りが自然に自分のスキルアップになり、キャリアアップにもつながっていきました。
――石田さん含め、周囲で活躍されている女性の共通点はありますか?
「楽しめてる」ことですね。辛い局面でも、自分なりの楽しさを見出せる人や、楽しみ方を知っている人は強いと思います。辛くなったらいったんPCを閉じてリフレッシュするとか、ほんの小さいことでいいので、仕事への向き合い方を確立している方は自然と活躍していますね。
昇進するタイミングこそ、反省するいい機会
――楽しむこと、が生き生き働くポイントですね。お仕事におけるマイルールはありますか?
必ず「1日1反省」しています。1つの仕事を5年くらいやると、だいたいなんでもこなせるようになってきて、余裕が出てきますよね。でも、現状に満足したら終わりだと思っています。自分に足りないところを見つけて、ちゃんと直視することが大事かなって。振り返ることで、最初は気づかなかった違う視点が見えますし。
――これまでの石田さんには、昇進したり、表彰されたりする機会が何度もあったはずですよね。そういう日にも「1日1反省」するんですか?
むしろ、評価されたときの方が、反省の気持ちが強まるんですよ。超えなければいけない壁と現実の自分とのギャップがいちばんよく見えるのは、実は期待をかけられたタイミングなんです。「満を辞して私を抜擢してもらった!」なんて感じたことは、今まで一度もないですね。
――ライフステージが変わるにつれ、時間の使い方や興味関心の範囲は変わっていきますよね。そこに葛藤はありましたか?
働き方も、意識も、時間の使い方も、すべてライフステージの変化とともに変えていくものです。20代前半のような働き方をずっと続けるのは難しいですが、それをポジティブに考えるのが大事。これという正解はありませんから、トライ&エラーと取捨選択を繰り返して、自分にあった働き方を見つけていくしかないんじゃないかな。パートナーや家族とも支えあって、居心地のいいやり方を探しましょう。
「3階層上の視点」を持ってみよう
――石田さんみたいになりたい! と思う20〜30代の女性には、どんな考え方が必要でしょうか?
まずゴール設定が大事だと思います。山登りに例えると、最初の目標が高尾山だったとして、高尾山に登って終わるか、次に富士山を目指せるかの違いは大きいです。女性には、そもそも富士山を目指そうとしていない人も多くて。考えたうえでの「高尾山ゴール」ならOKですが、選択肢として富士山もあることは、多くの女性に知ってほしいですね。そうやって視点を引き上げれば、自然と違う景色が見えてきます。
――視点を引き上げるには、どうしたらいいでしょうか。
違う人の視点に立つことです。会社員なら、自分の上司がどういう視点で何を考えているのか。すぐ周りの先輩じゃなくて、3階層くらい上の方を観察してください。私はそれを知りたくて、よく上司と話すようにしていました。それに、現場仕事をやるにも、意思決定の背景を理解していたほうがやりがいがありますよね。
子育ては「仕事にも生きることだらけ」
――ママとしての顔も持っている石田さん。子育てが、仕事に生きる部分はありますか?
勉強になることだらけですよ! 子ども2人はそれぞれ全然違う個性を持っていて、この子にはこういう伝え方がいいなとか、好奇心を引き出すにはこのやり方がいいなとか、いろいろ考えます。相手によってやり方を変えるのが基本、というのはマネジメントそのものですから、仕事にも生きます。それから大量のタスクを同時並行でやるスキルにおいて、家事・育児と仕事は似ているので、どちらにも生かせますね。
――目の回るような忙しい日々だと思いますが、情報のインプットはどのようにされていますか?
インプットの質と量は、アウトプットに直結するので重視しています。子どもがまだ小さいうちはどうしてもインプットが減って、アウトプットの質も落ちていました。今は、リモートワークで浮いた通勤時間を読書に充てたり、ビジネスリーダーたちが社会に対して思うことを投稿する「日経COMEMO」というメディアに意見を寄せて、アウトプットのトレーニングをしています。それから、ママ友や近所の人とのコミュニケーションも大事ですね。いろんな視点からインプットすることで、偏らない考え方ができるようになると思うんです。
「挑戦の数を増やすこと」で人生が豊かになる
――石田さんの今後の目標、夢を教えてください!
いつかは、新事業を立ち上げたいです。過去に2回、子会社を立ち上げたこともあったんですが、短期で撤退してしまいまして。もちろんすごく悔しかったんですけど、今思えばそれも私の糧になりました。これからも、難しいこと、新しいことに挑戦し続けるキャリアにしたいですね。
――ママとしては、いかがでしょう?
2人の子どもが自立して、自分の人生をしっかり切り開いていけるようにサポートしたいです。何かに取り組んで、成功しようが失敗しようがそれを自分の糧として前に進んでいってほしいですし、親としてそのために十分な選択肢を与えてあげたいですね。
――ママが楽しく働く姿は、お子さんから見てもかっこいいでしょうね。最後に、読者にメッセージをお願いします!
今は、いろんなことにチャレンジできる時代になってきています。得意なことを1つみつけて頑張るのも、転職も、パラレルキャリアも。いろんな選択肢がありますし、とにかくチャレンジの数を多くすることで、人生がすごく豊かになります。まずは挑戦したいという意思を持てるかどうか。失敗しても大丈夫。失敗こそが次に生きるし、自分の武器になります。恐れずに、前を見て進んでいきましょう!
石田裕子(いしだゆうこ)●2004年、新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、Amebaなどのプロデューサーを経て、2013年及び2014年に2社の100%子会社代表取締役社長に就任。2016年より執行役員、2020年10月より専務執行役員に就任。人事管轄採用戦略本部長兼任。