女性のライフステージの変化は、キャリア形成にも大きく影響します。結婚しても、出産しても、今の仕事を続けられるか。そもそも、ライフイベントをいつ迎えたらいいのか。さまざまな選択肢の間で悩んでしまいがちです。金井芽衣さんは大手人材紹介会社に勤めていた経験から、個人のキャリア支援の現状に違和感をもち、2017年に起業。キャリアのパーソナル・トレーニングを行う会社「ポジウィル株式会社」の代表を務めています。今回は金井さんに、女性が多く抱える悩みとの向き合い方、そしてより自分らしく生きるためのヒントを聞きました。
Contents
ワークとライフの間で悩む、20~30代の女性たち
――「POSIWILL CAREER(ポジウィルキャリア)」を利用する20~30代の女性たちは、どんなキャリアの悩みを抱えていますか?
「結婚後も今の会社で働き続けられるのか」「子どもをもつタイミングをどのように決めればよいか」「パートナーの転勤についていくべきか」など、ライフイベントと複雑に絡み合った悩みが多いですね。
――ライフステージの変化は、キャリアを考える上で切っても切り離せないですよね。
難しい問題ゆえに、選択できずに悩んでいるだけの状態に陥ってしまう人もたくさんいるんですよね。解決するためには、「自分はどうしたいのか」を軸に、優先順位をつけていくことが大事だと思います。すべての意思決定には、メリットもデメリットも両方存在します。それらをきちんと明らかにして、どれを選べば自分にとってベストか整理していけるといいですね。
また「30歳までには結婚しなきゃ」など、こうあるべきという世間の価値観にとらわれてしまい、うまくいかないと悩む方もいます。周りの友人たちと比較して焦ってしまったときには、「それは自分が本当にしたいこと?」と深堀りをしてみると、本心に気づくきっかけになるかもしれません。
「女として終わってる」と言われても、大事にしたいもの
――「女性はこうあるべき」という固定観念に縛られて苦しむ人は多いと感じます。
私も、経営者になってから「起業すると女の価値が下がるよ」とか、「仕事ばかりしていないで結婚や出産をしたら?」などと周りから言われるようになって。女性に対する固定観念を押し付けられたように感じる経験は少なくなかったですね。
でも周りから何を言われようと、私の「仕事を第一に頑張りたい」気持ちは揺らがなかった。他人の言葉に左右されずに自分の道を突き進んでいたら、尊敬できる仕事仲間とたくさん知り合えましたし、人間関係も変わっていきました。プライベートでも、「このままの私」を好きになってくれる相手を自分から見つけようと思えたんですよね。
――金井さんの強さを感じるエピソードに励まされます。先月には結婚を発表されましたね。おめでとうございます!
ありがとうございます! パートナーはスタートアップの経営者として先輩でもあるので、日々仕事に対する姿勢を学ばせてもらっています。「それぞれの事業を伸ばしていくことで、お互いの人生も豊かになるよね」と、仕事も理解してもらえてうれしかったですね。
――まさにご自身が描いていた、理想のパートナーシップですね。
恋愛でも仕事でも「いつか運命の人が現れるはず」「今の仕事をとりあえず続けていればうまくいくはず」と、“待っているだけ”の人って意外と多いと思います。自分でキャリアを組み立てていく意識がないと、漠然と人生を過ごしてしまいがちです。その結果、理想のハードルだけがどんどん上がって、現実世界とマッチしなくなってしまう場合も。そうならないために、具体的に計画を立てて、自ら行動してみることで「取れる選択肢」を増やしていけるのではないかと思います。やらないよりもやってみたほうが悔いは少ないはず。
人生は結局「自分たちが何を選ぶか」で決まる
――自分の理想を実現するために何かしらのアクションが大切だと。
もちろん、すべてが計画通りに行くとは限りません。だけどキャリアの転機やライフイベントの目安を前もって決めておけると、自分がコントロールできる範囲は広がると思います。なので今も、パートナーと中長期的なライフプランについてはよく話し合っていますよ。
――具体的にどんな話をしていますか?
子どもを持つタイミングについては、すごく議論しました。お互いの仕事の状況を考えたら、今すぐに子どもを産んで育てるのは難しいのではないかと。今は子育て中の経営者も増えてきて、育児と経営を両立しているのは本当にすばらしいと思います。でも私たちは「今いちばん優先したいことは、やっぱり仕事だね」という結論になって。お互いが何をいちばん大切にしたいかを明らかにできたからこそ、決断できたことです。この数年はそれぞれ仕事にフルコミットしつつ、受精卵凍結も検討しています。うまくいくかはわからないですし、加齢によって妊娠・出産のリスクが高まるのも事実ですが。
人生に正解はなくて、他人から答えをもらうものでもない。結局は「自分たちが何を選択するか次第」だと思っています。お互いの事情や想い、そしてリスクも考えたうえで、「いつまでにどういう状態になっていたいか」を具体的にすり合わせできたのはよかったです。
自分の経験も糧に“その人らしく生きる”キャリア支援を
――仕事に全力を注ぐエネルギーは、どこから来るのでしょうか。
やっぱり、手がけている事業にすごく意義を感じているからですね。キャリア支援を通じて、人生が好転していく人をたくさん見てきました。親や友人との関係、自分自身のコンプレックスとかトラウマとか、ずっと悩んできたことってなかなか打ち明けられませんよね。うちでトレーニングを受けて卒業していくユーザーさんたちって、まるで闇が晴れたように、以前とまったく違う表情をするんです。純粋にうれしいですし、そういう人をもっと増やしていきたいですね。
――人の人生をいい方向に変えていけるって、すごいですね……!
「POSIWILL CAREER」では、2.5ヶ月間の集中型で相談者のキャリア支援を行っています。仕事上の悩みって、紐解いていくと家庭環境など過去の出来事に原因があるケースがほとんどで。これまでの経験から自信を失っていたり、思考や行動を変えられなかったりするために、うまくいかず悪循環に陥ってしまう。単発の相談では、20~30年間溜めていた人生の膿はなかなか出切らないんですよね。長年かけて形成された価値観を知るために、うわべだけの悩み相談で終わらせずに、過去を一緒に振り返っていきます。自分としっかり向き合い、軸を知ることで、その人らしい人生を歩めるよう伴走するのが私たちの役目です。
キャリアのパーソナル・トレーニングは非常にニーズがあると手応えを感じていますが、一方で難しさもあります。相談者本人も気づいていない課題を見つけ出すには、トレーナー側の「問いを立てる力」や「課題を整理する力」が問われますから。採用やトレーナーの育成にはとくに力を入れています。
――相談者の方の人生に本気で伴走するからこその難しさとやりがいなのだと感じます。最後に、今後の抱負を聞かせてください。
誰もがその人らしい人生を送れるようになる社会を、当たり前にしたい。そのために、「こうあるべき」にとらわれず自分の価値観や軸を整理できる今のサービスをどんどん拡大していきたいですね。結婚してからは、家庭というもう1つの会社を経営するようになった感覚があります。パートナーとは、「家族みんなで社会の役に立てる存在になっていきたいね」とよく話をしています。私自身が経験したいいことも悪いことも、直面した社会の不条理も、すべて事業の糧にできる人生を送りたいと思っています。
金井芽衣(かない めい)●埼玉純真短期大学を経て、法政大学キャリアデザイン学部に編入し、宮城まり子教授の下、キャリアカウンセリングを習得する。 2013年、株式会社リクルートキャリアに新卒入社し、人材紹介部門の法人営業として勤務。 2017年4月に同社を退職。 2017年8月にポジウィル株式会社を設立。 国家資格キャリアコンサルタント保持。