大手出版社に勤めながら「会社員兼タレント」というパラレルキャリアをいち早く実践してきた坪井安奈さん。苦労して入った大手企業を辞めるというキャリアチェンジで学んだことや、パラレルで仕事をすることの考え方について聞いてみました。
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「タレント兼編集者」というパラレルキャリアの決断
――大手出版社からITベンチャーへ転職して、感じたギャップはありましたか?
“私自身は何も持っていないんだ” ということを思い知らされました。小学館時代とは違い、グラニはまだ社名が広くは知られていない会社だったので、自分自身の価値を問われる日々でした。編集長としてIT業界誌を立ち上げ、大きなプレッシャーはありましたが、それ以上にやりがいがありましたね。ただただ夢中で、この会社で働いた3年半も一瞬で過ぎました。
当時は、ITベンチャーの人気が高まってきた時期ではあったものの、ITという言葉がどこかフワッとしていて、何をしているのかわからない、不安定そう、というイメージがあったので、業界のリアルを伝えるIT業界誌「Grand Style(グラスタ)」を立ち上げ、100社以上取材しました。編集長と言いながらも、2冊目まではほぼ1人で編集していて、3冊目からインターン生を迎え入れてチームとしてやっていました。その後、徐々に仲間が増え、最終的には10人弱のチームになりましたね。
――ベンチャーで働く一方で、出版社を辞めてからはタレント活動も並行してやっていたんですよね。
はい。最初の2年は事務所には所属せず、フリーでやっていました。なので、これまでのつながりを頼りに、自分で営業活動をしていました。最初の3ヶ月は、ほぼ毎日会食を入れていましたね。「出版社を辞めて、タレント兼編集者のパラレルキャリアをやっていく決断をしました」と言うと、多くの場合は笑われたり、馬鹿にされました。でも、本気で応援してくれる方とも出会うことができて、そういう方々からお仕事をいただいていました。
――事務所に入らずフリーでやろうと決めたのは、本業の存在も大きかったですか?
いえ、私は本業・副業と分ける考え方はしていないんですよね。私にとっては、「一緒に働く人」がとても大事なんです。事務所に所属するにしても、どの事務所がいいかよりも、一緒に仕事を進めていくマネージャーさんが誰なのかが大事で。自分の方向性と合う方を、じっくり探していたという感じでした。そうして、ようやく今のマネージャーと事務所(サンズエンタテインメント)にたどり着きました。
すべての仕事が遊びになって、すべての遊びが仕事になる
――何かを辞める時も、始める時も、すごく考えてから行動に移されていますよね。
石橋を叩いてないようで、実はしっかり叩いてるんですよね(笑)。自分の中に、越えちゃいけないラインみたいなのはあって。でも、もし仕事がゼロになっても、「アルバイトして生きていこう!」くらいポジティブにも考えていました。慎重さと大胆さの両方の性格を持っているかもしれません。
――現在は、YouTubeでの活動やオンラインサロンなどもされていますよね?全部仕事としてされているのですか?
私としては、「すべての仕事が遊びになって、すべての遊びが仕事になる」という状態を人生の中で実現していきたいと思っています。私自身、もともと息抜きをすることが下手で、いつの間にか仕事のことを考えてしまっていることが多くて。「それなら、仕事も遊びも全部楽しくしちゃえ!」という思いでやっています。だから、シンガポールや海外のことを伝えるYouTubeも、複業人を創出することを目指すオンラインサロン「ハイブリッドサラリーマンズクラブ」も、仕事かどうかというよりも、楽しんでやっています。
異なる手段で“ヒト・モノ・コトの魅力を伝える”
――遊びが仕事になるって理想ですね! でも、仕事が広がりすぎてしまったりしませんか?
パラレルキャリアって、肩書きや仕事が複数あるイメージが強いと思うんですが、実は私は複数のことをやっている感覚はないんです。集約すると、“ヒト・モノ・コトの魅力を伝える”という仕事と言えると思います。タレント、編集者、PRという肩書きは、体を使って表現するのか、文字として執筆するのか、それとも企業の顔として伝えていくのかの違いだけなんです。パラレルというのは手段でしかなくて、何をやるのかは実は重要ではないのかもしれません。今後、肩書きがさらに増える可能性もあれば、時には減ることもあると思います。でも、結局は何かを表現して伝えるということにつながっているはずです。
――「本業と副業」という分け方も好きではないと言っていましたよね。
どれかを中途半端な気持ちでやっているわけではないし、手段が異なるだけで、“何かを伝える”ということを一貫してやっているつもりです。結局は、伝えることが好きなんですよね。それが好きだからこそ、場面や状況に応じて色々な伝え方をしたいと思ってしまって、必然的に複数の手段に手を出してしまいます。でも、好き嫌いで選んでいるのではなくて、どれがいちばん伝わりやすいかというのが基準です。「美味しい」というように表情や声の方が伝わる場合と、レポートを詳細に書いた記事の方が伝わる場合と、シーンによって違うと思います。伝え方を複数持っていると、ベストなものを選べたり、時には組み合わせたりもできます。そういう意味でも、パラレルでありながら、一貫して同じことをやってるんですよね。
坪井 安奈(つぼい あんな)●サンズエンタテインメント所属。慶應義塾大学を卒業後、小学館に入社。’12年12月に同社を退社し、編集長としてIT業界誌『Grand Style』を創刊。その後、動画メディア『HowTwo』の編集長を経て、2017年12月にはシンガポールに移住。現在は「複業複住」タレントとして、日本とシンガポールやN.Y.などの海外を拠点に活動中。シンガポールでの生活を記録したYouTube動画も人気。レギュラー番組に「news every.」「賢者の選択」などをもつ。パラレルキャリア支援オンラインサロン「ハイブリッドサラリーマンズクラブ」でリーダーも務める。