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実験台は、自分の体。産後ケアからシングルマザー支援まで「すべての母を幸せにする」吉岡マコさんの決意

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これから子どもを迎えるカップルにとって気になるのが、産後うつや産後クライシスを防ぐ「産後ケア」。産後は子ども優先になり、どうしてもママ自身のケアは忘れられがちです。そんな現状を変えようと、産後ケア教室「マドレボニータ」、シングルマザーを支援する「シングルマザーズシスターフッド」を立ち上げたのが吉岡マコさんです。自身の経験をきっかけに、すべてのママ・パパを幸せにするため突き進む吉岡さんのお話から、自分ならではのキャリアをつくるヒントが見えてきました。

自分の体を実験台にして考えた、産後ケア

――吉岡さんが、ママたちの産後ケアを開発するきっかけはなんだったんですか?

私自身の体験が発端になっています。もともと体を動かしたり体にいいことをするのが好きで、ヨガやアロマテラピーをしたり食事にも気を使ったりしていました。大学では文学部で身体に対する東洋と西洋の違いを、大学院では身体運動科学を専攻していました。そして大学院生のときに妊娠・出産したのが、すべてのきっかけです。

――出産による体へのダメージは「全治数カ月の交通事故並み」なんて言われますね。

私は、出産によって体も心もボロボロになっちゃいました。出産の経過はとくにトラブルもなく一般的だったにもかかわらず、まるで自分の体がバラバラになるようなしんどさで……。産んだ後もこんなに辛いって、誰も教えてくれなかった! と驚きました。そもそも、産後の女性がスムーズに回復するためのサービスって、当時まったくなかったんですよ。ネットもまだ普及していませんでしたし。

――それで、自分でやってみようと思ったんですね。

まずは私自身の体を実験台にしようと、バランスボールを使ってエクササイズを始めたところ、2カ月ぐらいで少しずつ体の調子がよくなり、その結果、メンタルの具合も上向いていったんです。これならかんたんだし、ほかの産後女性たちもやりたい人いるんじゃないかな、と思って、産後半年で「産後のボディケア&フィットネス教室」(以下、産後ケア教室)をスタートしました。

実験台は、自分の体。産後ケアからシングルマザー支援まで「すべての母を幸せにする」吉岡マコさんの決意

photo by 金原真璃子

発想の転換点になったのは、パラキャリだった

――産後ケア教室のほかにも、お仕事をされていたんですか?

教室を始めたものの、最初からこれだけで生活していくことはできないことを思い知りました。ちょうどその頃ひとり親になったこともあり、教室をストップして、出版社で契約社員として働き始めました。産後のいちばん大変な時期に、当時のパートナーが海外にいて一緒にいられなかったことも、パートナーシップを築けなかった原因でした。わかず、ワンオペ育児覚悟でひとり親になりました

シングルマザーとして頑張る覚悟をして、契約社員として週5で働き始めたものの、朝9:30に出社して定時の17:30に退勤する毎日。0歳の子どもをワンオペ育児中の身には拘束時間が長すぎて、赤ちゃんにとっても、自分にとっても負担が大きい生活が続きました。負担の割には、保証のない立場をこのまま続けても未来に希望が持てないと思い、残念ながらその会社は半年で辞めさせていただきました。

そうこうしてる間にも、産後ケア教室には産後女性からの問い合わせがたくさん寄せられていて、ニーズがあることを肌で感じていました。それで、どこかでアルバイトしながら産後ケア教室を続けるパラキャリで生きていこうと思いついたんです。アルバイトなら拘束時間が短くて、自分の働き方を自由にデザインできるかなと考えたんです

――とはいえ多忙な日々、こなすのも大変そうです。

週5日はスポーツジムでアルバイトし、週1で産後ケア教室を開催、日曜日はお休みというスケジュールでした。やっているうちにだんだん教室のほうに軸足が移っていって、3年経つころには産後ケア教室がメインになりました。

――産後ケア教室がメインになってから、「マドレボニータ」の設立までどのように進められたんでしょうか。

2001年ごろから、「インストラクターになりたい」という人が出てきてくれて、養成を始めました。教室のプログラムを標準化して、どの地域でも同じプログラムが受けられる体制を作るには、そのための組織が必要です。また、この活動は営利が目的ではなく、社会でまだ認知されていない「産後ケア」や産後女性の問題を世の中に啓発していく旗振り役も私たちが担っていく、ということから法人形態はNPOとし、2008年にNPO法人マドレボニータを設立しました産後ケア教室はもともと私自身の実体験から始まったものですが、産後に辛い思いをした産後女性たちや、母親たちを1人の大人としてリスペクトする姿勢に共感してくれた人たちに助けられ、今日まで続いてきました。

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産後ケアによって、体力にもメンタルにもいい影響があります

カップルが、産後にぶつかる「3つの壁」

――子どもを迎えるカップルが産後に突き当たる課題は、何だと思いますか?

産後の問題は、大きく3つあります。「産後の心身ケアに対する知識がない」「産後ケアを受けられる場所、機会がない」「お母さんは子どもに尽くすもので、産後ケアに時間や手間をかける必要はないと誤解されている」3つ。20年前には産後ケアという発想さえなかったんですよ。

――それらを乗り越えるために、やっていることはありますか?

まずはたくさんの人に知ってもらうことから始めようと、2007年から調査・研究をして『産後白書』を3冊出しました。今は父親も育児の担い手であることが普通になり、赤ちゃんを抱っこ紐でおぶって街を歩く男性の姿もよく見かけるようになりましたし、産後うつ、産後クライシスも社会問題としてメディアなどで扱われるようになってきました。少しですが確実に、手応えを感じています。

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photo by 金原真璃子

ひとり親が「誰も孤立しない社会」にしたい

――吉岡さんは、2020年いっぱいでマドレボニータの代表を退かれました。それからシングルマザーの支援に取り組んでいるそうですね。

私はもう現役の子育て世代ではないので、目の前を問題を解決するのは、子育て現役世代の若きリーダーたちにゆずろうと思って、2020年12月にマドレボニータの代表を退きました。そしてそして2020年末にシングルマザーのセルフケアとエンパワメントに注力していく句ために「シングルマザーズシスターフッド」というNPOを新たに立ち上げましたマドレボニータで好評だった「シングルマザーのセルフケア講座」を引き継ぐ形で、オンラインのストレッチと対話のレッスンを開催しています。

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――誰でも参加しやすそうな内容ですね。参加費はいくらですか?

参加費は無料です。心身のセルフケアはすべての土台となるものだと思っているので、できるだけハードルを下げて、気軽に参加してもらいたく、寄付金や助成金などで講師料や運営費をまかなっています。開催した講座の数はのべ234回、参加者数は1775人にのぼります。

ーーシングルマザー、ひとり親が活躍するには、どんな課題があるんでしょうか。

ひとり親は、「かわいそう」という哀れみの眼差しか「わがままだ」という批判的な眼差しを向けられることが多く、自分をみじめに感じたり、罪悪感を持ってしまったりしがちです。心ない言葉を投げかけられることを恐れて、自分がひとり親であることを明かさずに生活している人も意外と多いんです。どんな境遇にあっても、自分の選択に誇りを持って、自分らしく生きていけること、そのためには心身の健康と、安心して誰かと繋がれる場が必要です。どんな人にもマイノリティになる可能性はあるし、お互いを尊重しながら、助け合う世の中になるといいですよね。

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セルフケア講座にて。参加者同士で楽しく交流もできます!

世界を動かす、女性リーダーをサポートしていきたい

――吉岡さんは、JWLI(日本女性リーダー育成支援事業を行うJapanese Women’s Leadership initiative)にも参加していますね。

2018年にJWLIのプログラムに参加させてもらい、6人のメンバーでボストンに4週間滞在しました。女性ホームレス支援団体の現場でボランティアをさせていただいたり、ボストンの名だたる非営利団体のCEOやファンドレイザーから経営を学んだり、大学のインテンシブコースで女性のリーダーシップのプログラムを受けたり、とにかく刺激的な時間でした。日本からきた私たちの活動を伝える登壇の機会も何度かいただき、英語でプレゼンテーションやスピーチができたことで自信もつきました。

――それ以後も、お付き合いがあるんですか?

JWLIにはこれまでに100人以上の卒業生がいますが、プログラム参加後もさまざまな交流や学びの機会があり、いろんなことを勉強させてもらって元気と刺激をいただいています。私も、これまでたくさんの人からさまざまなサポートをいただいて成長してきた実感があるので、これからは自分も女性のリーダーシップをサポートすることにコミットしたいと思っています。今年は、社会を変える草の根の女性リーダーを表彰する「チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞」の実行委員をやっています。

この賞は、JWLIの創始者である米国フィッシュファミリー財団のフィッシュ厚子さんが、2013年にホワイトハウスで第44代アメリカ大統領のオバマ氏から「Champion of Change」という賞を受けたことから生まれた賞です。ホワイトハウスに名称使用の許可をいただいて、日本で2017年に発足しました。

2021年度の募集はすでにスタートしていて、8月31日が締め切りです。アメリカのChampion of Changeと同じように、「他薦」による応募が特徴です。あなたの身近にいる、頑張る女性リーダーをぜひ推薦してください。

831日(火)〆切!】
チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞の募集要項はこちら。
優勝者には賞金100万円、ティファニー社製クリスタルボウルが贈られます。

また7月29日夜8時〜、CCJA2021公募開始の記念イベントとして、本賞の選考委員と昨年の受賞者によるトークセッションを行います。オンラインですので、全国からのご参加をお待ちしております。普段は明かされない、審査のプロセスや選考委員のお話が聞ける貴重な機会です。

【記念イベント 7月29日(木)夜8時】
※終了しました。アーカイブはこちら!
オバマ氏から受け継いだ「チャンピオンオブチェンジ日本大賞 (CCJA)
選考員と受賞者に訊く、表彰のプロセスとその意味
~ 第五回 チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞 推薦応募開始記念イベント〜

吉岡マコ(よしおかまこ)1972年生まれ。埼玉県出身。東京大学文学部で身体論を学び、96年に卒業後同大学院生命環境科学科で運動生理学などを学びつつ、学外でヨガ、東洋医学、ダンスセラピーなど、さまざまなボディワークを学ぶ。1998年の出産をきっかけに、日本の産後女性の健康状態の過酷さや回復のためのサポート体制がないことを知り、産後ヘルスケアのプログラムを独自に開発、同年9月に「産後ケア教室」を立ち上げる。2007年には活動をより公共性の高い事業に進化させるべく、NPO法人マドレボニータを設立。インストラクターの養成認定制度を整備し、産後セルフケアインストラクターという職業を確立させた。『産後白書』など産前産後の調査研究や啓発活動にも力を注ぐ。2020年12月に同団体の代表を退き、新団体シングルマザーズシスターフッドを設立。シングルマザーのセルフケアとエンパワメントに尽力している。趣味は映画、家庭菜園、コンポスト、ダンス、ゴルフ、ランニング。現在はパートナーと2人暮らし。子どもは大学卒業と同時に1人暮らしをはじめ、社会人2年目。著書『みんなに必要な新しい仕事』『産前産後のからだ革命』など。

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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