大手IT企業で広告のプロダクトに携わりながら、パラレルキャリアとして、プロダクトマネージャーのための塾を運営している為矢明日香さん。弟を亡くした経験から、「仕事を楽しんでやること」の大切さに気づいたという彼女が心がけているのは、「自分のために」やる仕事を減らすということでした。
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短い時間でも誰よりも吸収して学べる人になる
――仕事以外にも塾のオーナーをやっていて大変だと思うんですが、意識してやっている工夫はありますか?
テクニックだけでいうと、すごくメモを取ります。私、体が弱くて体力があまりなくて。前職もベンチャーだったんですが、みんなより全然頑張れていないなっていう、コンプレックスがあったんです。だからこそ、短い時間でもいちばん吸収できて学べる人になろうと思いました。
なので、ミーティングの時や落ち込んだ時には、そこから何を学べるかをメモに残して、夜には今日の良かった点と反省点、明日はどうアクションを変えるかといったことを書くようにしています。もうこれだけはやろうと思って、3年間、毎日やっています。
――そのメモは部屋に残っているんですか?
いや、もう携帯に毎日書いてますね。会社の朝礼ひとつとっても、この人の言っていることから何か学べるんじゃないかとか思って、書いています。
周りの人が希望を持てるような働き方をしたい
――為矢さんの企業は副業OKで有名な会社ですが、入った時は副業をする予定はあったんですか?
全然なくて、ただ本当に目の前のことを一生懸命頑張っていただけでした。まず、社内に課題がいっぱいあったので、それを解決しようとしていたんです。そのためには、いろんな人と協働していかなければならず、自分も勉強する必要を感じて、及川卓也さんのプロダクトマネージメントのセミナーに参加をしました。そこから塾の立ち上げにつながったので、まず、副業したいという気持ちがあったわけではありません。目の前のことをどうにかできないかとか、自分にできることは何かあるんじゃないかって、外に勉強しに行って、そこで仲間もできて、機会をもらって、という流れです。
――為矢さんは常に全力な感じが伝わってきます。ただ、体が弱い中で時間配分をうまくやりながら健康的にやっていくのは大変じゃないですか?
そうですね。でも、色々やっているから大変っていう風にはなりたくないなと思っていて。私、弟と最後に話したのが電話で相談に乗った時だったんです。自分がやりたいことが見つからないっていう弟の悩みに対して、私は当時、自分をめちゃくちゃ追い込みながら仕事をしていたので、その時の自分の正義を押し付けちゃったんですよね。「仕事なんて、とにかくやってみてわかるもんだ」みたいに突き放してしまったんですが、ちゃんと相手の気持ちを聞けばよかったなって、すごく後悔していて……。
あと、もし、私がもっと楽しく働いていたら「仕事ってワクワクするもんなんだな」って思ってもらえたかもしれない。私はその時、休日も仕事で疲れてずっと寝ていたり、忙しくて実家にも帰らなかったりして……。働きすぎて、お腹痛いのに胃薬飲みながら仕事するみたいな状態になっていたんです。
――「辛い、辛い」と言いながら働くみたいな感じ?
そうそう。でも結局、周りの人って私みたいになりたいと思うのかな? って気づいたんです。実際に「為矢さんみたいにはなりたくない」と面と向かって言われてショックを受けたこともありました。また、弟はそこまで仕事がしたいというモチベーションがある子ではなくて、趣味や生活を充実させたいというタイプでした。そんな弟に対して、私自身がこんなに仕事で忙しくて這いつくばってやっていたら、それは希望にもならないよなって。
なので、まずは自分が楽しくとか、明るくいられるようにちゃんとコントロールしていくことを心がけています。楽しめるというのを根底にやることで、周りの人にいい影響を与えられるように。自分だけが10やってしまうより、周りの人も楽しく5ずつできた方が全体で見たら100になるかもしれませんよね。もちろん、大変なこともいっぱいありますよ(笑)。でも、自分が困難なことに立ち向かっていく過程自体も楽しんでいこうと思って。
困難なこともいっぱいあるけど、それに真摯に向き合って、生きていくことっておもしろいんだよって胸を張って言える状態にしたいなって思っています。今思うと、弟は大変な状態の時に、そこから逃げたかったんだと思うんです。でも、大変な状態から、自分が変化して、状況が変わっていくことはとても素晴らしいことだし、そういう風に変化していった後の道は、仲間が増えたり、楽しいことがあったり、おもしろいことがあるんだよっていうのを私自身が体現していかないと、説得力ないなって。天国の弟が見てるのを常に感じながら、毎日弟に話しかけてる……っていうのはありますね。
自分で抱え込みすぎるのは結局みんなの迷惑になる
――すごく良い話ですね。楽しんで仕事をしていくために心がけていることはありますか?
仕事を「自分のために」やっていないかを見るようになりました。「自分がここにいる価値を示す」ためにやる仕事を辞める。ある意味、私がいなくても成果が出る状態、つまり、私だけの評価ではなく皆が評価される状態がいちばんいいと思うんですよ。ただ、私も人間だし弱い部分はあるので、自覚なく「私こんなに頑張っている」という自己満足に陥ってしまう時はあります。でも、それを自分で気づいて、省みるようになってからは、人にお願いできるようになって、すごく余裕ができました。
――積極的に、ほかの人に仕事を渡していく感じですか?
弟が亡くなる前、私めっちゃ自分で仕事を抱えこんでいたんですよ。抱えこみすぎて、潰れてしまったことがあって。でも、それって自分の居場所がなくなるのが怖くて、仕事で存在感を示そうとすることで安心していたからなんですよね。「私は貢献している」「みんなに必要とされている」みたいな。
休日も返上して仕事をやっていた時に、弟が亡くなって、それから1カ月会社に行けなくなっちゃったんです。なのに、属人化しすぎてしまっていて、私じゃないとわからない仕事をいっぱい作ってしまっていた。結果、私はベッドに横たわりながら仕事をする羽目になり、このままの働き方じゃみんなのためにもならないし、私が倒れた時に迷惑になるということに気づいたんです。
そこから、みんなが長く上手く続く方法を考えようという気持ちに切り替わりました。自分がやるより、ちょっと教えて、最初は上手くできなかったとしても、その人が成長して逆に長く上手くチームが回るんだったらそっちのほうがいいよなって。「自分が、自分が」じゃなくて、全体を見て動けるようになりました。
――今後はどうしていきたいですか?
私がオーナーとして掲げている「プロダクトを日本の新しい希望にする」っていう壮大なビジョンに、少しでも近づけるようにしていきたいです。なので、私自身も本業で取りかかっているプロダクトを、よりよいものだとユーザーの人に思ってもらえるように動いていきたいですし、そうやって自分がいろいろ失敗して得た知見を、塾のほうでも共有していくことで、みんなのレベルアップにも貢献できるような場にしていきたいですね。そして、参加している人が、みんな意志を持って前に進んで、その人たち自身も周りの人の希望になっていくようにしたくて。そのためには、私自身の生き方が、みんなの希望や刺激になったらいいなと思っています。
為矢 明日香(ためや あすか)● 新卒で契約社員として美容部員(デパートでの化粧品販売)をしながら、約2年間コピー用紙にプログラミングの写経を続け、エンジニア就職サイトのオファーがきっかけでITベンチャー企業に転職。現在は大手IT企業でプロダクト改善に関わる。弟を鬱病で亡くした経験から、「人が頑張るには『希望』が必要」と強く感じ、「日本発の愛されるプロダクトがあふれる世界を創り、プロダクトを新しい希望にする」というビジョンを掲げ、業務外では塾の運営主宰も行っている。