Instagramアカウント「ウルフ【正直食レポ】」で22万人超のフォロワーを誇る遠藤優さん。もともと、それほどSNSが好きだったわけではないんだそう。そんな彼が、いかにして有名インフルエンサーとなり、SNSマーケティングの会社を起業するまでにいたったのでしょうか。その背景には、いくつかの「悔しい思い」と、とある起業家の激励の言葉がありました。
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SNS運用に携わったのは「たまたまそこにいたから」
――会社員時代、SHIBUYA109のSNS運用を担当していた遠藤さん。どういった経緯で任されることになったんですか?
新卒で百貨店に入社してフードフロアの販売を担当したあと、東急モールズデベロップメントに転職しました。すぐにSHIBUYA109エンタテイメントに出向することになって、マーケティング戦略部でデジタル関連の仕事をしていました。当初やっていたのは、「SHIBUYA109公式」と各テナントからこのタイミングでこれを発信しよう、といった全体設計。当時の僕は、実はTwitterもInstagramもほとんどやったことがなかったんです(笑)。
――SNSが得意だから、抜擢されたのかと思っていました!
いえいえ。どちらかというと、“たまたまそこにいたから”任されただけなんです(笑)。ただ、もともと販売員をやっていたこともあって接客が好きなので、SNSを通じてまたお客様と接することができるんじゃないかと思って楽しみにしていました。でも実際は、いざ投稿してみても誰からも何の反応もない。そこで、SNSは本来、個人間のコミュニケーションツールで、それを企業が勝手にビジネスに使っているだけなんだなあと気づいたんです。だから僕は、「いかに、みんなに共感してもらうか」を念頭において、109のSNS運用を始めました。
――具体的にはどんなことをされたんですか?
今でこそ定着しましたが、当時はTwitterで「(公式アカウントの)中の人」が流行り出したタイミングでした。そういうユルい路線がウケるんじゃないかなと思って、109公式アカウントでいきなり「あ」とツイートしてみたんです。そしたら、「い」「う」「え」「お」とフォロワーの方々が続いてくださって(笑)。それまではテナントの写真などを投稿していただけだったのに、突然の路線変更でした。
SHIBUYA109のTwitterを、がらっと方針転換してみた
――フォロワーは、そういうちょっとくだらないところに親近感をもつのかもしれませんね。
あとは、109の最大の強みであるアーティストとのタイアップについて、どんどん発信していったのも大きいですね。もともと「タイアップします」「キャンペーンの内容はこうです」「買ってください」「終了しました」みたいな発信ばかりだったんですが、ファンの方の反応をもっといっぱい得られるような内容を追加していきました。例えば、ポップアップストアでMVを流していたら、ファンの方が好きそうな映像の部分を撮影して「3時の癒やしです」ってツイートしたり、過去にタイアップしたアーティストの誕生日は必ずお祝いしたり。こうやってフォロワーとのコミュニケーションをすることで、フォロワーの離脱がぐっと減りました。
――それまでの発信内容から方針転換して、周りから反発されませんでした?
めちゃくちゃありましたよ。ファンの方に喜んでもらいたいと思ってやってるのに、「109のブランドイメージを毀損してる!」って言われたこともあります。でもフォロワー数がどんどん増えて、それに比例してECの売上や入館者数も増えていたので、最終的には僕の、コミュニケーションをベースとしたSNSの方向性を尊重してもらえました。
――ほかに、苦労したことはありましたか?
フォロワー数が伸びても、SNSの重要性は理解されにくいんです。そこは苦労しましたね。また、SNSってコツコツとやり続ける“積み上げ”が重要なんです。でも一見華やかなので、外からは遊んでいるように見える(笑)。これはSNSの運用担当あるあるだと思います。
「ウルフ【正直食レポ】」が生まれるまで
――その後、個人のSNSアカウント「ウルフ【正直食レポ】」を立ち上げられたわけですが、きっかけは何だったんですか?
当時僕のいた部署は、専門性の高い人員しか集めておらず、異動はないと言われていたので、今後はこれをベースにキャリアアップができるかなと考えていました。ところが、SNSとはまったく関係ない部署へ異動するように言われて。109のSNSから離れることは、まるで自分が培ってきたものが0にリセットされるような感覚でした。それなら、これまでのノウハウを生かして自分で好きなことのアカウントを開設してみようと思ったのがきっかけです。
――食というジャンルを選んだのはなぜですか?
もともと食べることが好きで、新卒の仕事でも百貨店のフードフロアを担当してました。そしてグルメはパイが大きく、かつZ世代(1990年代中盤〜2000年代中・終盤に生まれた世代のこと)の悩みを解決するコンテンツをつくれると思ったからです。Z世代は“失敗したくない”という意識が強い。でも、大手口コミサイトの情報は意外と信用できないし、一部のいわゆるインフルエンサーは、いいところだけ切り取って載せてる。
だから、いいところも悪いところも伝える忖度のない投稿をすることで、本当に信頼してもらえるグルメアカウントを作れると考えました。「正直な食レポ」を強みにしているので、どれだけ条件がよくても、PR案件はすべて断っています。
――なるほど、分析に基づいた明確な意図があったわけですね。それから、インフルエンサーとして発信することの面白さを教えてください。
「紹介されてたあのお店、おいしかったよ!」ってコメントをもらえるとやり甲斐を感じます。また、いつもは「S、AA、A、B、C」の5段階でお店を評価しているんですが、S評価のお店だけをまとめた投稿をすると、保存数が4~5万くらいに伸びるんです。忖度(そんたく)ない評価を参考にしてくれているからこそ、まとめ投稿がよく見られて、その結果が数字に現れるのが感激です。
僕、それまでの人生で「必死に頑張った経験」がほとんどなかったんです。でもSNSは、やればやっただけ結果がついてくるのが面白くて、時間も忘れてのめり込んじゃうんですよね。
――やはり「ウルフ【正直食レポ】」の運用は、頑張ったという実感があるんですね。その原動力はどこから来るんでしょう?
SNS担当として目標を定めて定量的な結果を出しても、活動が注目されなかったことが大きな原動力になったと思います。俺はやってやるぞ、という感じで。とはいえ、109ほど一般認知度が高い施設のフォロワーが「45万」って、すごいのかどうかよくわからないじゃないですか(笑)。それもあって、個人で結果を出してみたいと思うようになりました。
インフルエンサーの価値は、変わっていく
――2021年の春には、SNSマーケティングをメイン事業とする、株式会社ウルフを立ち上げられました。いつ頃から計画をしていたんですか?
2020年に、会社員と並行してフリーランスとして活動するようになりました。ほかのインフルエンサーたちとのつながりがたくさんできたので、これを生かして仕事の幅を広げたいなと思ったんです。というのも、ビジネスのSNS運用やキャスティングって、どこか「情弱ビジネス」化している側面があると感じていて。経験を積むにつれ、インフルエンサーにどれくらいの影響力があるのか見抜く力もついてきたので、それを生かしてSNS運用やキャスティングの面でいろんな企業に貢献できればと思ったんです。
――インフルエンサーマーケティング業界は、今やレッドオーシャンです。厳しい環境の中で生き残っていくコツは何でしょうか?
いい質問をありがとうございます(笑)! 今、インフルエンサーはフォロワー数で判断されることがほとんどです。でも、これからのインフルエンサーマーケは、質を重視する方向に変わってくるはず。つまり、フォロワー数そのものは多くなくても、きちんとフォロワーと向き合ってコミュニケーションをとっているアカウントが信頼される流れになっていくと思うんです。DtoCからPtoC(Person to Consumer)に変わりつつあるということかなと。それに応じて、インフルエンサーの収益のあげ方も変わってくるんじゃないでしょうか。
小柳津林太郎さん「優はもっと突き抜けろ」
――遠藤さんはこれまで、得意なことを着々とお仕事にされてきました。その秘訣はなんでしょうか?
とにかく行動することじゃないかな。僕、Instagramの個人アカウントを運営するために、貯金を半分くらい使っちゃいました(笑)。お金がかかるとなるとなおさら、やりたいと思っても行動に移さない人が多いので、逆に行動に移せば勝ちやすくなります。僕は自分の人生を振り返ってみると、やった後悔よりもやらなかった後悔のほうが強く残っています。だから年齢にかかわらず、やりたいことはどんどんやるべきです!
――やりたいことがあるのに行動に移せない人、多いですよね……。パラキャリで頑張っている、またはこれから頑張りたいと思っているParanavi読者に応援コメントをお願いします!
少しでもやりたい、やってみたいというものがあるなら続けることが大切です。これからは、キャリアをつくる中でもSNSでの発信が重要になってくると思いますが、SNSはセンスじゃなくて「熱量」。行動力と熱量があれば、誰でもインフルエンサーになれると思いますよ。
――誰でもSNSで成功できるって、心強いです。
日本社会はまだまだ同調圧力があるので、何か新しいことを始めた時にイジられることもあるかもしれないけど、気にしないで。続けていくうちに、共通点を持っている人同士でコミュニティができて、それが生きがいや仕事につながっていくこともあります。
僕も個人アカウントを始めた頃は、周りからイジられました(笑)。いきなりグルメアカウントをやり始めたから当然ですよね。でも、2代目バチェラーの小柳津林太郎さんに言われた「優はもっと突き抜けろ」という言葉が、悩んだ時の支えになり、とにかくがむしゃらになれました。
――最後に、遠藤さんの今後の目標を教えてください。
SNSプランナーという職業を、もっと世間で当たり前で、価値のある職業にしていきたいですね。学歴や経歴に関係なく、好きなことを仕事にできるのがSNSのいいところ。現状はフォロワー数が少ないと仕事にはつながりにくいけど、すごくいいアカウントをつくっている人はたくさんいます。本質的な魅力を伝えられる人達と力を合わせて、まだ知られていないけど、これを広めたい!っていう商品やサービスを、SNSを通じてブーストさせることで企業や社会に貢献していきたいです。
遠藤優(えんどうゆう)●SHIBUYA109のSNS運用責任者として、Twitter、Instagram、LINEの運用を改革し、2年半で総フォロワー数を3倍の45万フォロワーに増加。当時外注していたSNS・オウンドメディアを内製化して自社メディア運用強化をし、以降の入館者数がSHIBUYA109史上で過去最高を記録。SNS経由での109公式通販の売り上げが1.5億円 社内コンベンションにてプロフェッショナル賞受賞。ノウハウを生かし個人でアカウントを開設し、1年半でフォロワー数を20万人獲得。2021年3月に、株式会社ウルフを創業。SNS運用のプロフェッショナルとして運用代行やコンサルティングを開始し、企業に愛着や親近感を醸成させるSNSコミュニケーションを提案する。2021年5月に俺の株式会社とコラボした「俺の罪悪パン(マヌルパン)」は3ヶ月半で約8万個を売り上げ、パンの日本一を決定するコンテスト「パンフェス」で初代グランプリを受賞。