ふわふわフリフリのロリータファッションに身を包み、テレビやwebメディア、雑誌などで大活躍中の青木美沙子さん。カリスマロリータモデルとして日本の「カワイイ文化」を世界に伝えながら、正看護師としてパラキャリを実践しています。「とくに男性や年配の方には誤解されやすいんです」というロリータモデルを続けながら、医療現場の第一線にも立ち続けてたどり着いた、青木さん流“好きなことで生き、自分を幸せにする方法”について聞きました。
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ロリータモデルと看護師は、本質的に似てる
――青木さんは、何がきっかけでロリータモデルになったんですか?
15歳のころ、原宿を歩いていたらストリートスナップを撮ってもらうことになって。その流れで「KERA」という雑誌のモデルにスカウトされたことです。ほかにも「Zipper」「CUTiE」(注:ともに休刊中)あたりの、似た系統の雑誌には一通り出ました!
――とんとん拍子に売れっ子モデルとなった青木さん。モデル一本で生きていこうとは思わなかったんですか?
ロリータファッションって、お金がかかるんですよ(笑)。当時は高校生で、たくさんロリータ服をそろえるほどお金がなかったし、何よりも「看護師になる」という小さいころからの夢を追いかけたかったんです。初志貫徹で、短大を出て看護師になりました。
――見事、夢がかなったわけですね! やっぱりやりがいはありますか?
弱っている人を助けられる、やりがい満点の仕事です! 一方で、絶対に失敗ができないプレッシャーもありますね。モデルの仕事では私が人前に出ていきますが、看護師の仕事はあくまでも患者さんがメイン。ある意味真逆の仕事ですが、人に元気を与えたり、笑顔にしたりするという本質は共通してるなって思います。
――看護師とロリータモデル。正直、職業としては正反対に見えていました。
ロリータファッションは今でこそちょっと市民権を得ていますが、基本的に男性や年配の方にはすごく嫌がられるんです。面と向かって「ちょっと変だね」「普通じゃないよね」って言われるのは日常茶飯事。「コリン星から来たの?」「主食はマカロンなの?」あたりも、もう何百回も言われました(笑)。イロモノとしか見てもらえず、会話にならないので困りますね。逆に、若い子たちは抵抗なく受け入れてくれることが多いです。
――「ロリータ=主食がマカロン」って、すごい偏見(笑)。
本当に(笑)。そういうロリータへの偏見を壊したいと思ってから、「看護師の青木美沙子」を前面に出して活動するようになりました。ロリータは日本が世界に誇れるファッション文化なのに、こんなのおかしいなって。
経済的に自立することは、好きなことで生きていく前提条件
――青木さんの、覚悟と使命感を感じます! モデルのお仕事が増えたきっかけは、何でしたか?
2009年に、外務省の「カワイイ大使」に任命されたことです。海外のお仕事がぐっと増えましたね。当時看護師として働いていた大学病院に、雇用形態をアルバイトに切り替えてもらって、パラキャリを続けました。
――2つの仕事のバランスをとるのは、難しくありませんか?
バランスは、タイミングによって変えています。今はロリータ関連の仕事が8割、看護師が2割くらい。私はモデルとしても看護師としてもフリーランスなので、将来の保証がどこにもありません。不安は0じゃないけど、看護師は国家資格なので、経済的にも心理的にもわりと安定できて、強いなあとつくづく思います。好きなことで生きていきたいと思ったら、まずは経済的に自立することが大事!
――青木さんが、モデルとして長年第一線で活躍し続けている理由はどこにあるんでしょうか?
時代の流れが、私の追い風になってくれました。ちょうど「カワイイ大使」になったころから海外にロリータファッションが広がっていったので。とくに中国でブームが起きて、お仕事が増えました。
誰でも、1つのことを極めればプロになれるし、そこから仕事の幅が広がっていきます。私はラッキーなことに、モデルとしての自分をどこかに売り込んだことがこれまで一度もありません。ロリータモデル業界はニッチすぎて、ライバルが少ないからかも。
仕事は、中途半端にやっていたら絶対バレる
――青木さんは「ラッキーなことに」といいますが、それだけじゃNo.1にはなれませんよね。
私は世の中の誰よりも、ロリータファッションにいちばん愛と時間とお金を注ぎ込んできた自信があります! ロリータ服は1000着くらい持ってます。「私がNo.1」って胸を張れるくらい極めること、それを言葉にして周りに伝えることが大事なんだと思います。中途半端じゃないぞって。逆に生半可な気持ちでやってたら、ちゃんと見てくれている人たちには絶対バレますよ。
それから「ずっと続けてきた」っていうこと自体が強みです。日本では「女性の若さ=価値」という圧が未だに強いので、年齢を重ねるとモデルを辞めちゃう方が多いんです。でも、私は年齢をまったく気にしなかった(笑)。
――年齢を気にせずやりたいことをやるって、すごく難しいことです。
ロリータは若い子のファッションだと思われがちだけど、30歳でも40歳でも着ていいんです。当たり前のことです。逆に、人の目を気にして本当に着たい服から目を逸らして、自分らしさを押し殺して生きていくのって楽しくないんじゃないかな。
似合うものの指標を持つのはいいけど、優先順位No.1はあくまでも「自分の気持ち」であるべきだと思います。年齢も女らしさ・男らしさも関係なく、好きなものを身につけていたいですよね。
――青木さんは、海外でのお仕事も多いですよね。
「カワイイ文化」発信のために、これまで25カ国ほどでお仕事させていただきました。中国の地方都市とか南米とか、いわゆる危険な地域にも行きました。スリに遭ったり、路上が危険すぎて車から出られなかったり(笑)……。そういう国の路上では、さすがにロリータファッションはできませんね! でも海外のロリータファッションファンは、普段あんまりロリータ服を買えないからか、熱量がものすごいですよ。
幸せになるには、「何が幸せか」を自分で判断すること
――最近は青木さんのファッションだけじゃなく、生き方についても注目されるようになってきましたね。
はい。とくに女性から、生き方まで含めてファンになってもらえるのはうれしいです。40歳近くなった今、よく聞かれるのは「結婚について」(笑)。「30歳過ぎたら結婚するべきだ」「女性は子どもを生むべきだ」みたいな謎の圧力、まだまだありますよね。私も「そろそろモデルとして賞味期限切れ」って言われたり、体のことを冷やかされたり、いろいろありました……。
――ひどい! そういう圧力はどうしても存在するとして、どうやって交わしていけばいいんでしょうか?
「何が幸せか」を自分で判断することですね! このSNS社会では、自分の意思や価値観をしっかり持っていないと、スマホに流れてくる情報の海に押し流されちゃいます。インスタで、誰かのキラキラした投稿を見て羨ましく感じたこと、みんな一度はあるんじゃないかな。
正直、流されるのがいちばん楽だと思いますよ。自分と向き合う必要がないから。でも「普通の幸せ」なんてどこにもなくて、自分の価値観で幸せを感じられていれば、それでいいはず。みんなもっと、自分の素直な気持ちと向き合う時間をつくって、意識的に自分を大事にしてあげてほしいですね。
ロリータ服でもナース服でも、同じ「青木美沙子」なのに…
――青木さんご自身は、婚活されていると聞きました。
20代後半で婚活をスタートしました。そのころ「カワイイ大使」に選ばれて仕事に夢中だったので、「いい人がいたらいいな」って軽い気持ちで。やってみてつくづくわかったんですが、男性がみんなロリータファッションに引いちゃって、全然ダメ(笑)。
――逆に、看護師さんはモテそう……(笑)!
正解です! 「看護師の青木美沙子」を打ち出すとすごくモテました。ロリータ服の私もナース服の私も、どちらも青木美沙子っていう1人の人間なのに、こんなに違うのかと……。でも、理解されにくいのは仕方ないし、独身だからこその楽しさや自由もたくさんあるので、今は割り切ってます。こう思えるようになるまでには、いっぱい悩んで、モヤモヤや焦りを乗り越えてきましたよ。
――将来の夢はありますか?
モデル業はやりたいことをやりきった感があるので、裏方の仕事を広げていきたいです。「PINK HOUSE」さんや「Maison de FLEUR」さんとコラボしたり、アフタヌーンティーをプロデュースしたり、楽しくやらせていただいています。もちろん、オファーがあればモデルも続けます!
正直、数字で目標を決めることにあんまり興味がなくて。好きなことをやって、安定しつつ楽しければそれでOKです。「No.1になる」っていう強い気持ちは持ちつつ、自分を縛ることはしたくないんですよね。プライベートも同じで、結婚を諦めてるわけじゃないけど、無理にする気もありません。ひたすら好きなことを追求して生きていきたいです!
青木美沙子(あおきみさこ)●ロリータモデル、看護師、日本ロリータ協会会長。現役看護師として働きながらロリータモデルの2足の草鞋で働く。外務省委嘱カワイイ大使としてロリータファッションを世界に広めるため25か国以上を歴訪。ロリータファッションを中心にアパレルやアフタヌーンティー、執筆などさまざまなプロデュースを行う。