琵琶湖のてっぺん、滋賀県長浜市に住む熊谷理美さんは、3人の子どもを育てながら食品ロスを減らす「わけわけDeli」を起業したワーママ。「これ、まだ食べられるのになんで捨てるん?」「もったいなくない?」という素朴な疑問から始まって、起業にまで至りました。自分自身が納得のいく働き方を実現すべく邁進している熊谷さんに、その奮闘ぶりについて聞きました。
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週2,3のレストランバイトでパラキャリしながら……
――「わけわけDeli」は、「食と人の”もったいない”をなくす」ことをビジョンにされているそうですね。具体的にどんな活動をされているんですか?
まず1つは、食材を無駄なく食べるためのレシピや家庭料理にまつわるいろんな知恵を、YouTubeで発信しています。家庭での食品ロスを減らしてもらいつつ、家事の時短にもなり、栄養もばっちりというレシピです。
2つ目は、イベントへの参加です。畑でもスーパーでも家でも捨てられがちなキャベツの外の葉をメインにしたスープを作ってマルシェに出したり、「もったいないキッチン」という食品ロスをテーマにした映画の上映会を開催したりしています。
――子どもの農業体験もやっているそうですね!
はい。子どもの農業体験というサービス事業をやりたくて、協力を得られる農家さんを探しています。来春の実施に向けて、今は準備段階です。食品ロスを出さない社会の土壌を作るために、子どもたちに農業の大切を知ってもらうのが狙い。さらに私のようなワーママが、土日に子どもを預けて自分の時間を持つということにも大きな意味があると思っています!
――熊谷さんは、「わけわけDeli」以外にもお仕事をされているんですか?
週に2,3回、ビーガンレストランの厨房で働いています。私はこれまで、キャリアとしての調理経験はまったくなかったので、料理人として経験を積みたいと思って始めました。なぜビーガンかというと、肉食を減らすことで環境負荷を削減することにも興味があるからです!
ママになり、家事にかけられる時間が減ったのもきっかけの1つ
――働きながら調理経験も積める、一石二鳥ですね。熊谷さんが「わけわけDeli」をスタートした背景には、何があったんですか?
子どもの頃から雑草を見て「これ食べられるかな?」って思ったり、トマトを育てても未熟な緑のものや熟れすぎたものの味に興味があったり、とにかく植物や農業が好きだったんです。台風のニュースを見ていて、りんごが落ちちゃったからもう出荷できないと嘆く農家さんを見て、「どうして!? まだ、なんとか工夫すればおいしく食べられるはずなのに!」と憤慨してました(笑)。それと、小学校の授業で習った環境問題は、ずっと気にはなってましたね。
それから、昔通った料理教室で「大根って、全部食べられるんですよ」と先生に言われて。皮も葉も食べてみたらおいしかったのもきっかけの1つです。私自身、子どもを生んでから家事にかける時間がすごく少なくなって。その中で「野菜の皮を剥かなければ楽だ!」と皮つき野菜の料理にこだわってみたり、料理本をひたすら読みあさったりして、知識をつけました。料理本は、これまでに300冊は読んでます。
――このタイミングで起業したのは、なぜでしょうか。
夫の仕事の都合で滋賀県北部に引っ越すことになったこと、2020年の8月に3人目を出産したことです。もともと新卒から10年間、教育支援サービス業で働いていました。
24歳で結婚してからずっと、夫の出身地でもある滋賀県に住んでいるんですが、今回の引っ越しをきっかけに、2020年8月に教育支援サービスの仕事を退職し、出産を経て、2021年3月に「わけわけDeli」をスタートしました。
きっかけは「人と食、2つの“もったいない”」
――食品ロスに興味があるからといって、事業としてやろうと考えるのがすごいですね! 大学では、経営を学んだんですか?
大学では経済学部に入ったんですが、“全知全能の人類が合理的判断をして経済が動く”という考え方にどうしても違和感があって(笑)。だんだん経営学の方に興味を引かれていって、ダブルスクールで中小企業診断士の勉強をするようになりました。その実習でいろんな経営者にお会いする中で、伴走するよりも自分が経営の側に立ちたいなと思うようになったんです。目安として40歳ぐらいで起業しようという目標を立てて、経営に関する塾を見つけては通っていました。
――その時から、食品ロス問題に取り組もうと目標を定めていたんですか?
いえ。当時は、ワーママは長時間労働できないからといってあまり評価してもらえないのが普通の世の中でした。特に私の場合、子どもに障害の疑いがあると言われた時期がありました。私も含めワーママたち、そしてハンディキャップを持つ人たちが、自分の納得のいく働き方ができていないんじゃないかと思ってすごくもやもやしてました。みんなの力が十分に生かされていない「人のもったいない」をなくしたいと思ったんです。
でも「人のもったいない」に向き合い続けることってしんどくて、好きなことに向き合いながら「人」のことも解決していける方向で何かできないかなと思うようになりました。そこで、私が心から好きで、ずっと追求できる課題はなんだろう? と思って、子どものころから興味を持っていた「食のもったいない」に取り組むことにしたんです。
わけわけDeliのYouTube「捨ててる場合ちゃうで」
――HPやYouTubeでのPRも進められていますね。全部、熊谷さんが自分で運営しているんですか?
はい、基本的には全部私が自分で作っています! 今はYouTubeのフォロワーを増やすことに注力しています。周りにYouTuberの先輩が2人いて。1人は、クラシック音楽の歴史や音楽家の生涯などをたどりながら音楽を楽しめる「厳選クラシックちゃんねる」というYouTubeで、1年8カ月でフォロワー6万人に達したという先輩。もう1人は、ライフスタイル分野でYouTubeをやっている先輩です。
――これまでやってみて、どうですか?
ノウハウはかなりたまってきたかなと思います。YouTubeは2021年3月に始めたばかりですが、動画を1,2週間に一度アップするようにしています。今はまだ、フォロワーは100人弱。先輩から「YouTubeを伸ばすには、自分ならではの世界観を持つのが大事!」とアドバイスをもらいました。YouTubeで収益を得られるくらい発信力を持つ人は全体のほんの一握りですが、私ももっともっと発信力を高めていきたいです。
――今後は、どんなことをやっていきたいですか?
まずは来春の「子どもの農業体験」を形にしたいですね。これは、滋賀県長浜市がサポートしてくださっているプロジェクトでもあります。このプロジェクトを進める中で、地元の農家さんとの関わりも深くなり、いろんな話をするようになってきました。特に有機農業の素晴らしさと難しさを教えていただき、なんとかしたいと思い始めました。その課題をクリアしていくようなことにも挑戦していきたいです。
熊谷理美(くまがいさとみ)●大阪府出身、滋賀県びわこのてっぺん在住の1歳女・4歳女・8歳男の3児の母。けっこうコテコテの関西弁をしゃべる。経済学部卒業後、教育支援サービス業の法人に10年間所属し、退職。2021年3月、「食品ロス問題解決」をテーマに開業。季節の草花を愛でたり、ファッション誌を眺めたり、珍しい食べ物をどうやって調理するか考えたりする時間が好き。好きな言葉は、「いつでも前向き」「やるかやらないか、迷ったらやってみる」。