最近、SNSやテレビのワイドショーなどで“適応障害”という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。私が普段、患者さんの診察をしていても、適応障害の方は多くいらっしゃいます。でも、適応障害とうつ病って何が違うんだろう? 今回は、その疑問にお答えします。
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適応障害とうつ病、症状はよく似ている
うつ病と適応障害、症状はかなり似ています。その時の症状をまとめて「うつ状態」と言います。具体的には、
- 鬱々とした気分になる
- 楽しいと思っていたことが楽しめなくなった
- やる気が出ない
- 集中力が湧かない
- 急に涙が出てくる
- 自分のことを責めてしまう
- 不安感
- 焦燥感(落ち着かない)
- 思考力が低下する
- 感情が抑えられない
- なかなか体が動かない
- 睡眠障害
- 食欲の変化
- 頭痛や吐き気などの身体症状
が挙げられます。身体症状としては、動悸や胸の締め付け、喉が詰まっているような感覚などがあり、人によってさまざまです。
一言で「うつ状態」といっても、症状は人によって違います。一般的には、気分が落ち込んでふさぎこんでいる状態が想像されると思いますが、落ち着かなかったり、動いてないと不安になり活動量が上がってしまう人もいます。睡眠についても、不眠もあれば、過眠になるケースもあります。食欲も同様で、食欲がなくなる人もいれば、お腹が苦しくても食べてしまう過食になる人もいます。
うつ病と適応障害の違いは、この2つ!
症状が似ているこの2つ。ここからは違いを説明していきます。
まず1つ目は「発症した原因が明確かどうか」ということです。適応障害の場合、何かに適応できなかったということなので、会社や上司など、「これが原因だ!」と自覚できる対象があります。
一方でうつ病は、何となく「……うーん、これかな……?」というくらいの意識で、明確な理由がありません。ただし、適応障害を「いや、私はまだ頑張れる……」とむりやり耐えてしまった結果、うつ病に移行する場合もあります。
2つ目は、「症状が出るのはいつか・どんなときか」という点です。適応障害は、適応しない対象と接している時のみ症状が出ます。例えばそれが会社だった場合、平日は症状が出ているけれど、休日は前と変わらずに眠れたり、元気に行動できたりするんです。
一方、うつ病は症状がずっと継続します。休日でも、趣味が楽しめない、ベッドから全然起き上がれない、そういった状態になります。「DSM-5」という精神科の診断基準にも、「症状が2週間にわたって存在し、病前の機能からの変化を起していること」がうつ病の診断基準として記載されています。
改善するにはどうしたらいいの?
まず、うつ病については抗うつ薬が効きます。「抗うつ薬って、依存しちゃって、やめられなくなりそうで怖い!」という声も聞きますが、そんなことはありません。また「脳が薬にコントロールされるんじゃないの?」と聞かれたこともありますが、それも答えはNoです。
うつ状態の時は、思考がうまく働かなくなっています。いろいろなことをマイナスに考えてしまったり、焦燥感にかられて、冷静な判断ができなくなったりしている状態です。むしろ薬を飲むことで、しっかり判断できる状態まで思考力を戻してあげるんだと考えてください。
一方の適応障害は、あまり薬が効かないことが多いです。想像してみてください。目の前においしくない食べ物があったとします。もう自分は前に何回も食べたことがあり、これはおいしくないものだと知っています。この状態でいくら不安を取る薬を飲んだとしても、おいしくいないとわかっているからには、食べたくないですよね。
食べ物に例えるのは適切ではないかもしれませんが、結局はこれと同じです。適応できないと自覚しているところに行くとき、それを楽しいと思う人はなかなかいません。しかも、体で症状が出るほどの反応ですから、これを薬でどうにかするのは難しいんです。適応障害は、「その対象から距離を取ること」がいちばんの治療です。
落ち込んでいるときの決断は、よくないことも
抑うつ状態のときは、どうしても考え方がよくない方向に偏りがち。例えば仕事なら、「私はもうだめだ」「この職場をやめたほうがいいんだ…」と思ってしまう人も少なくありません。でも、ここで決断するのは時期尚早かも。
まずは、上司に相談してリモートワークをさせてもらうこと、思い切って一度休職することも可能です。そのほかにも、部署を変更してもらったり、職場環境を変えたりしたところ、一気に症状が改善した人もいます。50名以上の社員がいる会社なら、産業医がついているはずですので、産業医に相談するのもいいでしょう。
もし、それが難しい場合や、相談した結果医療機関の受診を勧められた場合、早めにクリニックを受診することをオススメします。
「絶対にうつ病にならない人」なんていない
普段私はメンタルクリニックで診察していますが、適応障害やうつ病にかかる方は多いです。特に適応障害は近年、世間でも話題になることが多いように増加しています。
勘違いしないでいただきたいのは、「メンタル疾患にかかる=我慢が足りない」なんてことは絶対にない! ということ。むしろ、頑張って頑張って、無理してまでも頑張ってしまった結果、体の症状まで出てしまったという頑張り屋さんです。
また、例え適応障害やうつ病になったとしても、自分を責めないでください。誰にでも合わない場所や環境、人はあります。「苦手な人は、1人もいない」という人はいません。Paranavi読者のみなさんも、もちろん私も、適応障害になる可能性は十分にあるんです。
極論かもしれませんが、そうなってしまった場合、私は転職するのも1つの方法だと思っています。大人になれば誰でも、かなりの時間を仕事に費やすことになる。その時間ずっと、すごく苦しい……という状態は、とても辛いはず。せっかくの人生、もったいなくないですか?
もちろん、転職活動するのも、起業するのも、居心地のいい環境をつくりあげるのも、とても大変なことです。でも私は、ただ耐えるだけの時間をずっと過ごすくらいなら、いっそ転職するのもいいかなと思います。結果的に転職しなくても、転職という選択肢があると知り、ほかの企業を見ることで、職場環境について自分ができる方向修正をするのも可能です。
会社のために自分がいるわけではなく、自分を構成する1つのパーツが会社です。ですから、仕事に笑顔を奪われて、心身の健康に害が生じるのはもったいない! 会社は自分の人生を楽しむための、自己実現のツールだと思ってみてください。そう捉えることで、仕事の効率だって上がるかもしれません。
中には、「転職して、次の職場もまた合わなかったらどうしよう…」と心配する人もいます。こればかりは、転職してみないとわかりません。言えるのは、その不安要素を少しでも減らすためには、自分が「何のどこに適応しなかったのか」を分析しておくといいということです。そのマイナス要素を減らすことが、自分に合う職場探しの近道です。
この記事を見て「あれ、もしかして、私ちょっと危ないかも?」と思った方、いるのではないでしょうか。自分の人生は自分だけのもの。今一度、笑顔の自分が多くなるために、考えてみてください!