2022年1月14日に開業したばかりの北海道白老の「界 ポロト」。星野リゾートの温泉旅館ブランドである「界」の北海道初進出となる旅館です。そこの総支配人となったのは弱冠27歳という若さの遠藤美里さん。こちらに赴任前も、26歳で「界 津軽」の総支配人になっており、当時の最年少記録だったとのこと。総支配人というと長いキャリアの末に到達する現場の最高責任者というイメージですが、若くして総支配人になった遠藤さんのキャリアについて聞いてみました。
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地方の魅力を発信するため総支配人に立候補
――「界 津軽」では最年少かつ女性で総支配人になられたんですね。星野リゾートでは女性の総支配人は多いのでしょうか?
実は、ここ数年女性の総支配人が増えてきていて、「界」でいうと19施設中、半数ぐらいが女性総支配人なんです。私は「界 津軽」に新卒でサービススタッフとして入社して、5年目の26歳で総支配人になりました。
当時、界 津軽で「ご当地部屋(津軽こぎんの間)」というその土地の伝統工芸を盛り込んだ部屋に全室改装する際に、1から企画提案を 任せてもらえたことがあったんです。そこで、もともとの接客業務だけでなく、地方の魅力を発信したり、その魅力でお客様に施設をアピールする戦略を考えたりすることが面白いなと思い、総支配人という役割に挑戦してみようと思いました。
――総支配人のお仕事内容は、サービススタッフとはどのようなところが違いましたか?
それまでは、お客様や周りの同僚とのコミュニケーションが中心 だったのが、総支配人になると施設のオーナー会社や近隣の関連業者さんとのやりとりも必要で、幅が広がってきます。もちろん、総支配人になってからも、お客様のニーズを把握することは必要なので、夕食サービスの担当をすることもありました。
宿でどのようなおもてなしを行うべきかをオーナーに提案したり、スタッフと日々の業務の目標や将来のキャリアについて面談したり、組織開発などもしますね。宿の魅力をみがくために、それぞれの立場で何をすべきかを一緒に考えるという感じです。
――その若さでそんなことができるのはすごいです!
自分が以前に「界 津軽」の接客スタッフでいた時の総支配人との関わり方が記憶に残っているのかと思います。当時、改装が進む中、ゼロベースで考えようということで、総支配人からいろいろなことを任されて、挑戦させてもらえたんですね。
総支配人も昇進ではなくキャリアの一つ
――若さゆえの大変さはありましたか?
施設運営をしていく上でのファシリティマネジメントや財務知識などはまだまだ勉強が必要だなと痛感する一方で、私より知識や経験が豊富なスタッフが周りにいます。それらのスタッフには強みを出してほしいと声がけしながら、一緒に歩んでいる感じですね。
星野リゾートの場合、組織文化として、「誰が言ったか」ではなくて「何を言ったか」を重視するんです。組織としてビジョン達成に向けて何が重要かということをいちばん大事にします。総支配人は昇進ではなく、キャリアの選択肢の一つだと捉えています。
――そもそも、なぜ星野リゾートに入社されたのですか?
年次や役職に関係なく自分の考えていることを行動に移せるようなフラットな組織文化の企業がいいなと思っていて、ホテル業界で注目したのは星野リゾートだけでした。
学生時代に国内を旅で回り、寺社仏閣や伝統工芸などに興味があったので、星野リゾートが全国各地の地域の魅力と連携している点にも惹かれました。最初に着任した津軽地方は、独特の方言もあり、津軽塗やこぎん刺しといった伝統工芸もたくさんあって、自分にはぴったりの配属先だったんです。
――地域の魅力を掘り起こすのが、やりたかったことなんですね。前職の「界 津軽」では津軽三味線をお客様の前で演奏するまでになったとか!
ご当地の魅力を発信するために、自分でも津軽三味線に挑戦してみました。週1は先生に来てもらい、毎日1時間は自主練をして、みっちり1年かかりました。津軽三味線のバチさばきはかなり難しいんです。
プレゼン&総選挙方式で決まる総支配人
――そもそも総支配人というのは、どうやってなるんですか?
年に2回、総支配人を含む組織のディレクター職などに立候補する機会があって、ビジョンや戦略などを全スタッフに向けて プレゼンします。社内のだれもが視聴でき、視聴したスタッフのアンケートなどを通じて、次のリーダーがが決まるというプロセスです。
――どんなプレゼンだったか気になります!「界 ポロト」ではどのような戦略をとろうと思われたんでしょうか?
白老(しらおい)は新千歳空港から1時間かからず行けるのですが、北海道の有名観光地に比べ、認知度に課題があります が、十勝川温泉などで知られるモール温泉(腐植物を含むアルカリ性の温泉)や目の前に広がるポロト湖と樽前山という大自然、そしてアイヌ民族の歴史など、アピールできる魅力がたくさんあります。
そこで、コンセプトは「ポロト湖の懐にひたる、とんがり湯小屋の宿」にしました。モール温泉の浴場を備えた建物を、アイヌ民族の狩り小屋である「クチャ」から着想を得て、「とんがり湯小屋」が誕生しました。白老エリアの魅力と温泉を堪能いただけるよう温泉旅館滞在の提案をしたいと考えています。結果的に界 ポロトや白老が、北海道の温泉旅行の新たな選択肢になれたらと考えています。
自然に囲まれた良質な温泉、ワーケーションにも最適
――空港からアクセスがよいのに、別世界なんですね。ワーケーション場所としていいかもです。
アイヌ民族の博物館「ウポポイ(民族共生象徴空間)」もすぐ近くですし、観光目的のお客様が多くはありますが、客室からの眺めは本当にきれいで、仕事をしていても心なごむと思います。いらっしゃる方の年代も様々で、30代から60代まで年代別でも同比率です。
ワーケーションで来られたら、仕事の合間にモール温泉で寛げますね。スタッフが湯守りとして、温泉の入り方などをレクチャーします。モール温泉はなめらかでずっと入りたくなるのですが、湯あたりもしやすいので、入り方にもコツがあるんです。
また朝は7時から、北海道の丹頂鶴をイメージしたオリジナル体操を湯上がり処で開催しています。朝から体を動かして、温泉に入ると、交感神経が刺激されますよ。
――朝からとても心身がリフレッシュしそうです! 今後はどんなことをしたいですか?
今後は、ポロト湖の季節ごとの楽しみ方を提案 したいです。ポロト湖の美しい自然の中で、アイヌ民族の自然観に触れて頂けるような体験を検討していきます。また、今後はウポポイの関連団体とも連携し、ポロト湖畔により多くのお客様がお越し頂けるような取り組みができたらと考えています。
遠藤美里(えんどうみさと)●2016年4月、星野リゾートに新卒入社。「界 津軽」で接客業務や現場での様々な経験を経て立候補。2020年「界津軽」の総支配人に就任し、コロナ禍での感染対策の徹底はもちろん、地元の「ねぷた師」やリンゴ農園などをはじめとする地域の人々と連携した企画を行う。現在は、2022年1月に、北海道の白老温泉に開業した「界ポロト」の総支配人を務める。数多くの温泉地やスノーリゾートがある北海道で、界ブランド北海道初進出の施設として、地域との関係構築やスタッフ教育なども担う。