「常在菌検査×肌診断」という新しい観点でのスキンケアアドバイスを生み出すべく、スタートアップ・ユーブロームを立ち上げた柴田未央さん。人の顔に棲んでいる「常在菌」に目をつけた科学的なスキンケアアドバイスで、一人ひとりに寄り添うという新しい発想です。文系出身、数年の専業主婦時代を経験した柴田さんが、どうしてこの分野で起業しようと考えたのでしょうか?
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常在菌をヒントに、もっと楽しいスキンケアを
――「常在菌検査×肌診断」って、つまりどういうものなんでしょうか?
人の顔にいる「常在菌」の状態やバランスを見て、その人に合ったスキンケアを提案するというものです! 口コミで評判のいい化粧水とか有名インフルエンサーが推している美容液を使ってみたけど、私には合わなかった……という経験、ありませんか?
――あります! スキンケアグッズは、人によって合う合わないが激しいですよね。
そうなんですよね! なので、私たちの提案でそれが解決できるかどうか、今はモニター検証しているところです。データ上ではいい結果が出ていても、いざ人間の肌の上で効果が出るか、さらにそれを実感してもらえるかはわからないので、とにかくたくさんのユーザーの声を聞きたいです。 商品化にあたっては、年齢層高めの方々をメインターゲットにしつつ、若年層向けに別プランも考えています。やりたいことはたくさんありますよ!
――柴田さん、以前は専業主婦だったんですね。
そうなんです。もともと文系の大学を卒業しました。でも、これといってやりたいことが見つからず(笑)。 背景として、私の母が建築士として毎日ハードに働いていたんです。男性社会で、正当に評価してもらえないストレスがあったようで、よく子どものころの私に愚痴ったり、「仕事はしんどいものだから……」とつぶやいたりしていました。私も子どもながらに、そこまでして働くの? という疑問を抱えていました。
――小さいころからの原体験があったんですね。
そういう家庭状況が影響してか、私は大学卒業後すぐ結婚して、専業主婦になりました。逃げるように社会からドロップアウトしたなと思います。そして妊娠・出産を経て、子どもが成長するにつれ、「私の人生、本当にこれでいいのかな?」とぼんやり思うようになりました。ちょうどそのころ、母が末期癌に侵されていることがわかったんです。このときの、緩和病棟での医師の先生との出会いが、私のターニングポイントでした。
「人の可能性を広げたい」と、薬学部に入学
――どんな先生だったんでしょうか。
母と私それぞれの気持ちを、じっくり時間をかけて理解し、代弁してくれて。おかげで、ちゃんと母とわかりあうことができました。先生の仕事に対する姿勢に感動しましたね。母からずっと聞いていた「仕事はしんどいもの」という言葉への、答えが見つかった気がしました。私も先生みたいに、人の可能性を広げられる仕事がしたい! じゃあ私はどんなことをやりたい? と考えたとき、出てきた答えが「薬剤師」だったんです。
――人の可能性を広げる職業はいろいろあると思いますが、なぜ薬剤師を選んだんですか?
理由は2つあって、1つは弟のアトピー性皮膚炎です。学生のころ、楽しいはずのプールや体育の授業が辛そうで。でも当時の私は弟との会話がなくて、何もしてあげられなかったことがひっかかっていたんです。肌は人の幸せに大きな影響を与えると感じて、スキンケア関連の事業をやりたいと思うようになりました。
もう1つは、0から1をつくり出すことにやりがいを感じる私の性格です。誰かに御膳立てされた場では、正直あまりやりがいを感じられなくて(笑)。薬学部なら、1を生み出すための勉強ができると思いました。それで受験勉強をして、東京理科大学の薬学部に入ったのが4年前のことです。
――薬学部受験、大変でしたよね!?
はい(笑)。でも楽しかったです。もともと勉強は好きですし、私、今変わらなきゃいつ変わるんだ? という燃える思いがあったからかな。子どもは当時4歳で、子育てもハードな時期。夫と協力して、保育園にお世話になって乗り切りました。
――大学では周りに馴染めましたか?
そこはまったく問題ありませんでした。気をつけたことといえば、上から目線でものを言わないように注意していたくらい(笑)。
世界は、ひょんなことから広がっていく
――薬学部で学ぶ柴田さんが、起業したのはどういう経緯だったんですか?
大学2年生のときに、私の夫が、経済産業省・JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)が主催するイノベーター育成プログラム「始動Next Innovator」に参加したのがきっかけです。私の理科大受験も嫌な顔一つせず後押ししてくれた夫なので、今度は私が彼を応援したくて、背中を押しました。
……のですが、夫が参加しているのを見ていたら、私もやりたくなってしまって(笑)。大学で微生物学の授業を受けたとき、人の肌には菌がいると知って、これで「人の可能性を広げる」ビジネスをつくれると思いついたんです。数百名の応募者がいて、採択されるのは100名ほど。結構大変でした。
――努力が実って、採択されたんですね。参加者はどんな方が多いんでしょうか。
プログラム参加者は年齢も事業分野も幅広くて、学生さんから70代の大先輩までいました。みんなに共通していたのは、独自のアイデアを持って前向きに生きていること、そして他人を否定しないこと。こうしたらもっとよくなるよ! って前向きにアドバイスしてくれます。今、ユーブロームで研究開発を担当している早船真広さんと出会ったのも、このときでした。自分の世界って、ひょんなことから広がっていきますよね。
周りの後押しで起業を決意したはいいものの、そもそも会社ってどうやってつくるの? というレベルで。疑問が生まれるたびに仲間に相談しながら進めていきました。同じ時期に、化粧品会社のアクセラレータープログラムにも採択されました。
――仲間がいるとはいえ、1から起業するのは大変ですよね。
とくに苦労したのは、資金調達です。開発が進んでいない状況では、実現可能性が読めないので、融資が難しいんです。 デザインスキルのある義理の妹・山本佳穂さんにもサイト作りなどをフォローしてもらって、2021年の4月23日に無事起業できました! 私一人では絶対にやり遂げられなかったことです。
メンバーは全員副業、だからこそ強い
――今、大変なことは何でしょうか?
組織づくりです。人の適性の見極め、配置は手探りでやっている状態。その人がやりがいを感じられることと、実力を発揮できること、そして会社が求めているスキルがマッチしている状態って、すごく難しいです。
資金繰りとか書類作成は、どんなに面倒でも、調べたり詳しい人に相談したりすればなんとかなる。でも、「人」はそうじゃないんです。その人にとって何が心地いいのか、何がモチベーションになるのか、わからないことばかりで毎日苦労しています。
――メンバーのみなさんは、全員が副業や外部委託で関わっているんですか?
はい。私の仕事にかける思いに共感してくれたり、私自身を応援したいといって参加してくれています。他で得たノウハウとか人脈を生かせるのが、副業の強みですね!
「勉強・仕事・家事」1日にやるのは2つまで!
――柴田さんにも、苦手なことはあるんでしょうか?
お金まわりを管理することです(笑)。あとマルチタスクが苦手で、頭の切り替えをするのに時間がかかるタイプです。
――マルチタスクが苦手とは意外でした! 工夫されていることはありますか?
2つあって、1つは、「仕事は家以外の場所でする」こと。もう1つは、「大学の勉強と仕事と家事、1日に入れる予定は2つまで」。
3つすべてを1日でこなすのは無理なので。私が家事をやらない日は夫がやっていますし、夫が残業する日は私が家事担当。思い返すと、理科大受験のときからずっと助けあってきています。
――柴田さんが起業してから、家族で変わったことはありますか?
夫婦の間で、会話の幅が広がりましたね。何かニュースを見ながら「私たちだったらこうするよね」「こういうビジネスモデル、いいね」とか。私、専業主婦時代は自信をなくして少しひねくれていたので、我ながら変わったなと思います(笑)。
息子は今小学校3年生。いつも私の隣で勉強しています。やんちゃで好奇心が強い子なので、私の仕事が少しでも興味の先にひっかかってくれたらいいなと思います。
――柴田さんの、これからの目標を教えてください!
とにかく、心地よく暮らすこと。家庭のことも仕事も、すべてを楽しくするのは無理だけど、やりがいや生きがいはずっと感じながらやっていきたいです!
柴田未央(しばたみお)●株式会社ユーブローム 代表。文系の大学を卒業後、就職・出産を経て東京理科大学 薬学部に再入学。弟がアトピー性皮膚炎だったことをきっかけに、世の中の肌トラブルをなくしたいと考えるようになり、経産省・JETRO主催の起業家育成プログラム「始動」をきっかけに在学中に起業。。マイクロバイオームやバイオインフォマティクスを中心に、肌の悩みに取り組んでいる。