いきなり暑い2022年の夏に、いきなり熱いお仕事エンタメ映画がやってきました。アニメ業界で闘う必殺仕事人たちを描いた『ハケンアニメ!』。原作は、辻村深月さんが雑誌『anan』で連載されていた長編小説です。
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仕事に熱くなれるのは、そこに「自分」が生きているから
関東甲信では史上最速で梅雨明け。梅雨明けなのにまた雨が続いたり、心の準備が整わないまま、暑すぎる夏がやってきました。キンキンに冷えたものを摂取して熱を逃がすのもよいですが、ここはひとつ、「より熱いもの」にふれることで夏を楽しむのはいかがでしょう?
5月に公開された『ハケンアニメ!』は、この異常に暑い夏にぴったりの映画。原作は、毎シーズンの「覇権」をとるアニメ=ハケンアニメの座をめぐって全身全霊を捧げるアニメ業界を描いた長編小説です。
煮詰まって逃走する監督、プロデューサーの公私混同にも思えるようなスタッフへの献身、日夜を問わず作業する作画スタッフ……。ちょっと時代錯誤にも思えるような現場の描写にたじたじしつつも、読み進めるうちにいつしかキャラクターたちと一緒に熱狂している自分がいました。心の奥底に眠っていた「仕事に熱くなりたい!」という願望がくすぐられ、引きずり出される不思議な感覚。
こんなにも心動かされる秘密は、どんなに過酷な状況でも、登場人物たちがそれぞれの個性を殺さずに働いていること。一昔前の「滅私奉公」スタイルの物語であれば、ここまで感情移入できなかったはずです。
『ハケンアニメ!』の登場人物たちは、「仕事で求められる役割」と「好きなもの・得意なこと等のキャラクター」をガッチリ掛け合わせているんです。映画版での主役は2人のアニメ監督・斎藤瞳と王子千晴(演じるのは、吉岡里帆さんと中村倫也さん)ですが、今回は脇を支える2人の仕事人をご紹介します。
「監督の併走者×愛と気配りの人」プロデューサー・有科香屋子
「有科さんって、あれですよね。彼女が行くと、100%確実に原画が上がるっていう伝説の進行さんだった人」――『ハケンアニメ!』より
アニメ制作会社「スタジオえっじ」に所属するプロデューサー・有科香屋子(ありしなかやこ)。映画では、尾野真千子さんが演じています。
ほれ込んだ天才監督・王子千晴を支え、現場を叱咤激励し、関係各所に頭を下げ続ける……。監督がその名前と共に表に出る主役であるのに対して、プロデューサーはまさに陰の立役者ともいうべき存在です。
業界では「あれが噂の……」と言われている有科さん。本人はいまいち自覚がなさそうですが、アニメを愛する気持ちが前面に出ていて、監督やスタッフへの気遣いが手厚く、かける言葉のセンスもよいと評判。とにかく愛とコミュニケーションの人として描かれています。
有科さんと正反対のタイプとして登場するのが、ライバル作品を手掛ける行城プロデューサー(演じるのは柄本佑さん)。彼のクールな立ち回りもそれはそれでプロフェッショナルを感じます。同じ仕事をしていても、人によってアプローチがまったく違うのが面白い。2人は「ハケンアニメ」の座を争う関係ですが、どちらが正しくてどちらが間違っているという描かれ方をしていないところも素敵です。
「アニメ制作の軍隊アリ×好きを追求する全集中人間」アニメーター・並澤和奈
アニメ原画スタジオ『ファインガーデン』は、有科プロデューサーが手掛けるアニメシリーズの原画作成を請け負っています。並澤和奈(なみさわかずな)は、そこで働くアニメーター。映画で和奈を演じるのは、子役時代から映画やドラマで活躍している小野花梨さんです。
その高い技術により「神原画マン」として徐々に有名になり、雑誌やポスターに使われる重要なイラストも依頼されるようになる和奈。それを光栄に思いながらも、裏方であるという自意識とのギャップにいたたまれなさも感じはじめます。そんなとき、アニメの聖地巡礼イベントを開催しようとする地元の市役所に協力を頼まれます。
「私は絵を描くのが好きなだけの軍隊アリ」そんな風に自分の役割を決めつけていた和奈ですが、人懐っこい市役所職員に振り回されているうちに、だんだん変化が……。
続けてしまった言葉に、自分で驚いた。だけど、最後まで言ってしまう。
「私も一緒に、考えますから」――『ハケンアニメ!』より
和奈は23歳にして高い能力と評価をすでに得ており、今の居場所に安住することもできたはず。しかし、そこから一歩出る勇気を持てたことで、愛するアニメの世界に更にディープに関わっていくことになります。自分のスタンスを守る時期と壊す時期、どちらもあった方がいいということを、和奈のもがきながら成長する姿から感じました。
『ハケンアニメ!』に登場するのは、自分を殺さないまま仕事に熱狂するたくさんのヒーローたち。異次元に暑くなりそうなこの夏、自分の「役割×キャラクター」を見直して、仕事に熱血してみませんか?